蓮華

釜瑪 秋摩

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島国の戦士

第206話 出航日 ~高田 1~

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 高田は車の中で、イナミにいくつかの質問を投げかけてみた。
 ところが相当動揺してるのか言っていることに要領を得ない。
 仕方なく着くまでのあいだ、黙っていた。

(カサネさまが出航を止めさせようとするくらいだ、なにかあるのは確かだろうが……シタラさまが亡くなられたことと、なんの関わりがあるというのか……)

 運転を任されている神官は、一度もスピードを落とすことなく中央まで走り続けた。
 軍部の前に着き、車をおりると、すぐに入り口へ向かうよううながされる。
 ここへ来るのもずいぶんと久しぶりだ。

 階段の途中で、背後から鳴り響いたクラクションに振り返ると、たった今着いたばかりの車からサツキとともに大柄の男が二人、おりてきた。

尾形おがたさん、加賀野かがの

「高田、おまえも見送りに出ていて、そのまま来たのか?」

「ああ」

 尾形は高田が蓮華になったばかりのころ、一番の年上で良く世話になった。
 加賀野のほうは二つ年上で、当時から一番親しくしていた間柄だ。
 二人とも南区の出身で、怪我を負って引退したあと、尾形は南区で道場を、加賀野は家業を継いでいる。

「私も、今日はうちの門弟が出るので見送りに出てな。帰りしなサツキさまの車と行き会って、事情を聞いてそのままここへ来た」

「そうですか。では、詳しい話しはもう?」

「簡単には、な」

 サツキとイナミに急かされながら、大会議室へ入った。
 中では軍の上層部を始め、カサネと数人の巫女が並んでいる。

 元蓮華で今も体の利くものと言えば、自分たち以外には南区と西区に二人ずつ、北区と東区に一人ずつだったはずだ。
 病床で臥している老齢のものは、今回は省かれているようだ。
 長机のはしに三人で腰をかけ、召集されたものたちが着くのを待った。

「ところで高田、おまえのところのあれは、ずいぶんと念入りに鍛えたようだな?」

「いえ、あれは私の手をとうに離れています。尾形さんの門弟と一緒だとは知りませんでしたが、良い腕前だと聞いていますよ」

「おまえのところはもう一人、例の娘が出ているんだったな」

「そっちはいまだ、何の兆しもないのか?」

 古傷が痛むのか、加賀野が膝をさすりながら問いかけてきた。

「どうも本人にその意志がないようで、あのころと変わらぬままだ」

「そうか」

 高田は当時、麻乃のことではひどく悩んだ。
 自分の手に負えるうちになんとか覚醒させたくて、あの手この手を使い、なだめすかしてみたが、なにが引っかかっているのか、麻乃はいつもかたくなに拒絶した。

 八年のあいだに修治同様、すっかり高田の手を離れてしまったようだ。
 太刀合わせならまだ敵う。
 けれど実戦となったら、万が一にも過った覚醒をしてしまったら、高田にはもう止めることは不可能だろう。
 尾形と加賀野は、昔から同じことを心配し、気にかけてくれる。

 ザワザワと声が近づいてきて呼ばれた元蓮華たちが全員集まった。
 全員が席に着くと、会議室の中はその威圧感で空気が固まったように感じる。
 カサネは立ち上がると、目を閉じたまま静かに語り始めた。

「この数カ月ほどシタラさまは具合が悪くせっていらっしゃることが多かったのですが……今朝、自室にて、お亡くなりになられておりました」

 呼ばれたものたちは、それを最初に聞かされていたからか、誰一人、驚くこともなく、口を開かない。

「次の洗礼のときより不肖ながら私が一番巫女を務めさせていただきます」

 カサネがゆっくりと頭をさげ、そうあいさつをした。
 元蓮華のあいだでざわめきが起こった。
 そんなことを告げられるために呼び出されたのだろうかと、疑問に思っているのだろう。
 現に高田自身がそうだ。

 これまでだと、一番巫女が亡くなったときには、その葬儀の場において、次の一番巫女就任とあいさつが行われる。
 今度もそれで十分じゃないかと、誰もが思っているに違いない。
 サツキとシズナが立ちあがり、カサネのあとを継いで話しを始めた。

「皆さまをお呼び立てしましたのには、そのこと以外にお聞きいただきたい事情があってのことなのですが……」

「シタラさまのお体が良くなかったことも含め、その様子や行動において神殿内でいくつかの疑念があがり、豊穣の儀での占筮をあらためてカサネさまにお願いいたしました」

「そうしましたところ、今度の組み合わせ、それぞれの行き先について、すべてに凶兆がみられました」

「なんですって?」

 尾形が勢い良く立ちあがった。
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