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島国の戦士
第195話 秘め事 ~麻乃 2~
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確かに大陸に渡っているあいだは、無事に奉納を済ませてさっさと引き上げる、そのことが頭のほとんどを占めている。
けれど、常にそればかりを考えているわけじゃなく、泉翔に残っているみんなのことや大陸で見かけたちょっと珍しいもののこと、ここにいるときと考えていることはなんら変わりやしないのに。
見たことのない土地に渡った自分たちが、なにをして、どう過ごしているのかを残ったものたちは麻乃が思う以上に心配してくれているのか……。
「それに今度は、シュウちゃんと麻乃ちゃんは別々の国に行くんでしょう? 二人一緒なら、もう少し安心できるんだけど……」
「わかった。そうまで言うなら、戻ってくるまで修治には黙っているよ」
身重の多香子に、そんなにも心配をかけさせるわけにはいかない。
少しだけ考えてからそう答えると、多香子はホッと表情を緩めた。
「よし、じゃあ多香ちゃん、昼過ぎには迎えに来るから、それまでゆっくり休んでいるといい。麻乃、帰るぞ」
「はい。じゃ、姉さん、またね」
「あ……麻乃ちゃん」
立ちあがり、出ていこうとしたところを、多香子の声が追ってきた。
振り返ると迷ったように視線を泳がせてから、もう一度、麻乃を見つめた。
「なに?」
「うん、あのね……このこと、麻乃ちゃんは喜んでくれる?」
「えっ?」
聞かれた意味が良くわからず、ジッと多香子を見ると、なぜが不安そうだ。
「なに言ってるの? 当り前じゃない、凄く嬉しいよ。だってあたしにとって、甥っ子や姪っ子同然だと思ってるもん。あたし、もっともっと強くなって、姉さんたちがなんの不安もなく暮らせるように、全力で戦って守るからね」
グッと握りこぶしをかかげてみせると、後ろから市原に頭を小突かれた。
「馬鹿か。それ以上、強くなってどうする。さぁ、もう行くぞ」
多香子が小さくありがとう、と言ったのが聞こえ、手を振って部屋を出た。
廊下を歩きながら、市原がポツリとつぶやいた。
「本当に修治に知らせなくていいのか?」
「だって、姉さんがあそこまでいうんですよ? ここは聞いてあげたほうがいいですよ。なんだか不安そうだし、あたしにもおかしなことを聞いてくるし」
「あぁ、あれなぁ……」
「喜んでくれる? なんて、あんな当り前のこと、どうして聞いてきたんだろう?」
隣を歩いていた市原が、麻乃を見つめ、困った表情をした。
「そりゃあなぁ、おまえ、あれだ。多香ちゃんだって、おまえと修治のことは知ってるだろう?」
「ええっ! だって……そんなもう何年も前のこと……」
「おまえにしてみりゃあ、そうかもしれないが、未だにおまえは独りだろう? 少しは気持ちを残してるんじゃないかって、思っているんじゃないのか?」
「そんな……」
思わず足を止めた。
独りだって言ったって、それは単に縁がなかっただけの話しで、修治のこととはまったく関係などないのに。
「先生、ちょっとそこで待っててください!」
玄関を出ていこうとしている市原の後姿にそう叫ぶと、多香子のところへ駆け戻った。
勢い良くドアを開けると、まだ起きたままで窓の外を見ていた多香子が驚いて振り返った。
「どうしたの?」
そう聞かれたものの、どう話していいのかわからない。
麻乃は指先で爪を弾いてモジモジしながら、なんでもいいから自分の気持ちを伝えることにした。
「あのね……あたし、ずっと……もう何年も前から、とても大切に思ってる人がいるんだ。でもね、そいつは年下だし、それに凄く奇麗な彼女がいてさ、ずっとなにも言えなかったんだよね」
「……そう」
多香子がうつむいた。
「それが、ちょっと前にさ、あたし……そいつに……こっ……告白されたみたいで」
余りの恥ずかしさに声が裏返ってしまい、顔が熱くなった。
思わず口もとを手で覆い、多香子から顔をそむけた。
「彼女がいる癖に、なにを馬鹿なことを言ってるんだろうと思って、なにも答えなかったんだけど、最近、勘違いだったのがわかってね……その相手はそいつの親戚だったんだって」
チラッと多香子の顔に視線を向けると、目を見張って麻乃を見ている。
「い、今はさ、豊穣の事もあるから……帰ってから、全部終わってから、ゆっくり考えてくれればいいって、そいつは言ってくれたんだけど、あたし……そういうの全然わかんないし……戻ったらさ、もっとちゃんと、話しを聞いてもらってもいいかな? 相談に乗ってくれると嬉しいんだけど……」
けれど、常にそればかりを考えているわけじゃなく、泉翔に残っているみんなのことや大陸で見かけたちょっと珍しいもののこと、ここにいるときと考えていることはなんら変わりやしないのに。
見たことのない土地に渡った自分たちが、なにをして、どう過ごしているのかを残ったものたちは麻乃が思う以上に心配してくれているのか……。
「それに今度は、シュウちゃんと麻乃ちゃんは別々の国に行くんでしょう? 二人一緒なら、もう少し安心できるんだけど……」
「わかった。そうまで言うなら、戻ってくるまで修治には黙っているよ」
身重の多香子に、そんなにも心配をかけさせるわけにはいかない。
少しだけ考えてからそう答えると、多香子はホッと表情を緩めた。
「よし、じゃあ多香ちゃん、昼過ぎには迎えに来るから、それまでゆっくり休んでいるといい。麻乃、帰るぞ」
「はい。じゃ、姉さん、またね」
「あ……麻乃ちゃん」
立ちあがり、出ていこうとしたところを、多香子の声が追ってきた。
振り返ると迷ったように視線を泳がせてから、もう一度、麻乃を見つめた。
「なに?」
「うん、あのね……このこと、麻乃ちゃんは喜んでくれる?」
「えっ?」
聞かれた意味が良くわからず、ジッと多香子を見ると、なぜが不安そうだ。
「なに言ってるの? 当り前じゃない、凄く嬉しいよ。だってあたしにとって、甥っ子や姪っ子同然だと思ってるもん。あたし、もっともっと強くなって、姉さんたちがなんの不安もなく暮らせるように、全力で戦って守るからね」
グッと握りこぶしをかかげてみせると、後ろから市原に頭を小突かれた。
「馬鹿か。それ以上、強くなってどうする。さぁ、もう行くぞ」
多香子が小さくありがとう、と言ったのが聞こえ、手を振って部屋を出た。
廊下を歩きながら、市原がポツリとつぶやいた。
「本当に修治に知らせなくていいのか?」
「だって、姉さんがあそこまでいうんですよ? ここは聞いてあげたほうがいいですよ。なんだか不安そうだし、あたしにもおかしなことを聞いてくるし」
「あぁ、あれなぁ……」
「喜んでくれる? なんて、あんな当り前のこと、どうして聞いてきたんだろう?」
隣を歩いていた市原が、麻乃を見つめ、困った表情をした。
「そりゃあなぁ、おまえ、あれだ。多香ちゃんだって、おまえと修治のことは知ってるだろう?」
「ええっ! だって……そんなもう何年も前のこと……」
「おまえにしてみりゃあ、そうかもしれないが、未だにおまえは独りだろう? 少しは気持ちを残してるんじゃないかって、思っているんじゃないのか?」
「そんな……」
思わず足を止めた。
独りだって言ったって、それは単に縁がなかっただけの話しで、修治のこととはまったく関係などないのに。
「先生、ちょっとそこで待っててください!」
玄関を出ていこうとしている市原の後姿にそう叫ぶと、多香子のところへ駆け戻った。
勢い良くドアを開けると、まだ起きたままで窓の外を見ていた多香子が驚いて振り返った。
「どうしたの?」
そう聞かれたものの、どう話していいのかわからない。
麻乃は指先で爪を弾いてモジモジしながら、なんでもいいから自分の気持ちを伝えることにした。
「あのね……あたし、ずっと……もう何年も前から、とても大切に思ってる人がいるんだ。でもね、そいつは年下だし、それに凄く奇麗な彼女がいてさ、ずっとなにも言えなかったんだよね」
「……そう」
多香子がうつむいた。
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余りの恥ずかしさに声が裏返ってしまい、顔が熱くなった。
思わず口もとを手で覆い、多香子から顔をそむけた。
「彼女がいる癖に、なにを馬鹿なことを言ってるんだろうと思って、なにも答えなかったんだけど、最近、勘違いだったのがわかってね……その相手はそいつの親戚だったんだって」
チラッと多香子の顔に視線を向けると、目を見張って麻乃を見ている。
「い、今はさ、豊穣の事もあるから……帰ってから、全部終わってから、ゆっくり考えてくれればいいって、そいつは言ってくれたんだけど、あたし……そういうの全然わかんないし……戻ったらさ、もっとちゃんと、話しを聞いてもらってもいいかな? 相談に乗ってくれると嬉しいんだけど……」
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