193 / 780
島国の戦士
第193話 感受 ~岱胡 4~
しおりを挟む
夜になって談話室で、鴇汰とともに隊員たちと騒いでいると、麻乃が駆け込んできた。
「鴇汰、いる?」
「なんだよ? やけに早いじゃんか」
「うん、またすぐ戻るんだけど……姉さんが、ありがとうって言っておいて、って言うから」
二人は入り口に近い椅子に腰をかけた。
「あぁ、やっぱ食えた? そんなら良かった」
「まだお姉さんの具合、良くないんスか?」
鴇汰の隣に腰かけて、そう聞くと麻乃が答える。
「うん、あんまり食欲がないって言うし、貧血なのか、立ってるのが辛そうで。なんだか熱っぽいし」
鴇汰が考え込むようにうつむいてから、真面目な顔で麻乃に問いかけた。
「あの人って、もう結婚してんのか?」
「まだだけど。なんで?」
「……ヤバいんじゃねーかな? あの親父さんだろ?」
「だからなにがよ?」
麻乃が苛立った様子で足を揺らした。
ことによってはまた言い合いになるんじゃないかと、思わず岱胡は身構える。
「はっきりとは言えねーけどさ、あの人……妊娠してねーか?」
なにかを言いかけたまま、麻乃の動きが止まった。
いきなりそんなことを言われれば、そりゃあ、そうなるだろう。
「ちゃんとはわかんねーぞ? 俺、医者じゃねーし。たださ、巧のときがあんな感じだったな、と思って。俺が蓮華になったばっかの年に、食えるもんをいろいろ作ってやったのよ。もし当たりだったら、まだ結婚してないんじゃ、相手の男、ヤバいんじゃねーかな、って……」
「……あ、いや、実は今、婚約中でさ、もうすぐ祝言も挙げるからそれは大丈夫だろうけど」
麻乃はそう言って真っ赤になった。
鴇汰が悪いわけではないのに、あまりの麻乃の驚きように、申し訳なさそうな表情だ。
「そんなら大丈夫か? まぁ、違ってるかもしんねーしな。向こうからなにか言ってくるまでは、滅多なことを言わないほうがいいぞ」
「そっか、うん、そうだよね。わかった」
そう答えながらも、麻乃は浮足立って遠くを見るような目をしている。
「もしそれが本当だったら、あたしに姪っ子か甥っ子が……あたし、もっと腕を上げなきゃ。どこに攻め込まれても、絶対にこの地を踏ませないほどにね」
「はぁ~? それ以上、強くなってどうするんスか?」
岱胡が呆れて言うと、麻乃はキツイ視線で睨みつけてくる。
「だって、このところ、倒れたり怪我ばかりで全然役に立ってないもん。そんなことがないくらい、誰よりも強くならなきゃ……」
恐ろしいほど強い視線の麻乃に、返す言葉もなく、思わず鴇汰と二人、顔を見合せてため息をついた。
「とりあえず、鴇汰、ありがとうね。じゃ、あたし戻るから」
来たときと同様、駆けて出ていく後ろ姿に鴇汰が大声をあげた。
「あ! おい! 地区別の結果は?」
「優勝!」
玄関口に麻乃の声が響き渡る。
「いや~、あわただしいッスね」
出ていった入り口を見つめた。
ほかの隊員たちも半ば唖然とした様子で、麻乃が出ていったほうを見ているのに気づき、岱胡は苦笑いした。
「優勝じゃ、今日はもう、こっちには戻ってこねーな。今ごろ、向こうで大騒ぎだろうし」
「今年は北区が強いらしい、って噂でしたけどね」
頬づえをついて、急に退屈そうな様子になった鴇汰は、だるそうに立ちあがった。
「もう、することもねーし、俺、寝るわ」
「まだ早いっしょ? せっかくだから軽く飲みにでも行きましょうよ」
部屋に戻ろうとする鴇汰をあわてて引き止めた。
暇を持てあまして一人でいるよりは、誰かと一緒にいたほうがいいときもある。
「柳堀だろ? 松恵姐さんやおクマさんに見つかっても面倒だからな。俺はいいから、おまえらだけで行ってこいよ」
「大丈夫ッスよ、そっちには行かないですから。俺だって松恵姐さんのところに行ったのがバレたら、彼女に殺されますもん。ほかに行くやつ、いる~?」
談話室の隊員たちに声をかけると、何人か立ちあがったので、鴇汰の背を押し、連れ立って出かけることにした。
「鴇汰、いる?」
「なんだよ? やけに早いじゃんか」
「うん、またすぐ戻るんだけど……姉さんが、ありがとうって言っておいて、って言うから」
二人は入り口に近い椅子に腰をかけた。
「あぁ、やっぱ食えた? そんなら良かった」
「まだお姉さんの具合、良くないんスか?」
鴇汰の隣に腰かけて、そう聞くと麻乃が答える。
「うん、あんまり食欲がないって言うし、貧血なのか、立ってるのが辛そうで。なんだか熱っぽいし」
鴇汰が考え込むようにうつむいてから、真面目な顔で麻乃に問いかけた。
「あの人って、もう結婚してんのか?」
「まだだけど。なんで?」
「……ヤバいんじゃねーかな? あの親父さんだろ?」
「だからなにがよ?」
麻乃が苛立った様子で足を揺らした。
ことによってはまた言い合いになるんじゃないかと、思わず岱胡は身構える。
「はっきりとは言えねーけどさ、あの人……妊娠してねーか?」
なにかを言いかけたまま、麻乃の動きが止まった。
いきなりそんなことを言われれば、そりゃあ、そうなるだろう。
「ちゃんとはわかんねーぞ? 俺、医者じゃねーし。たださ、巧のときがあんな感じだったな、と思って。俺が蓮華になったばっかの年に、食えるもんをいろいろ作ってやったのよ。もし当たりだったら、まだ結婚してないんじゃ、相手の男、ヤバいんじゃねーかな、って……」
「……あ、いや、実は今、婚約中でさ、もうすぐ祝言も挙げるからそれは大丈夫だろうけど」
麻乃はそう言って真っ赤になった。
鴇汰が悪いわけではないのに、あまりの麻乃の驚きように、申し訳なさそうな表情だ。
「そんなら大丈夫か? まぁ、違ってるかもしんねーしな。向こうからなにか言ってくるまでは、滅多なことを言わないほうがいいぞ」
「そっか、うん、そうだよね。わかった」
そう答えながらも、麻乃は浮足立って遠くを見るような目をしている。
「もしそれが本当だったら、あたしに姪っ子か甥っ子が……あたし、もっと腕を上げなきゃ。どこに攻め込まれても、絶対にこの地を踏ませないほどにね」
「はぁ~? それ以上、強くなってどうするんスか?」
岱胡が呆れて言うと、麻乃はキツイ視線で睨みつけてくる。
「だって、このところ、倒れたり怪我ばかりで全然役に立ってないもん。そんなことがないくらい、誰よりも強くならなきゃ……」
恐ろしいほど強い視線の麻乃に、返す言葉もなく、思わず鴇汰と二人、顔を見合せてため息をついた。
「とりあえず、鴇汰、ありがとうね。じゃ、あたし戻るから」
来たときと同様、駆けて出ていく後ろ姿に鴇汰が大声をあげた。
「あ! おい! 地区別の結果は?」
「優勝!」
玄関口に麻乃の声が響き渡る。
「いや~、あわただしいッスね」
出ていった入り口を見つめた。
ほかの隊員たちも半ば唖然とした様子で、麻乃が出ていったほうを見ているのに気づき、岱胡は苦笑いした。
「優勝じゃ、今日はもう、こっちには戻ってこねーな。今ごろ、向こうで大騒ぎだろうし」
「今年は北区が強いらしい、って噂でしたけどね」
頬づえをついて、急に退屈そうな様子になった鴇汰は、だるそうに立ちあがった。
「もう、することもねーし、俺、寝るわ」
「まだ早いっしょ? せっかくだから軽く飲みにでも行きましょうよ」
部屋に戻ろうとする鴇汰をあわてて引き止めた。
暇を持てあまして一人でいるよりは、誰かと一緒にいたほうがいいときもある。
「柳堀だろ? 松恵姐さんやおクマさんに見つかっても面倒だからな。俺はいいから、おまえらだけで行ってこいよ」
「大丈夫ッスよ、そっちには行かないですから。俺だって松恵姐さんのところに行ったのがバレたら、彼女に殺されますもん。ほかに行くやつ、いる~?」
談話室の隊員たちに声をかけると、何人か立ちあがったので、鴇汰の背を押し、連れ立って出かけることにした。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後
空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。
魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。
そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。
すると、キースの態度が豹変して……?
公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-
猫まんじゅう
恋愛
そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。
無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。
筈だったのです······が?
◆◇◆
「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」
拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?
「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」
溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない?
◆◇◆
安心保障のR15設定。
描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。
ゆるゆる設定のコメディ要素あり。
つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。
※妊娠に関する内容を含みます。
【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】
こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる