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島国の戦士
第92話 再生 ~麻乃 4~
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湯船の脇の大岩に這い出した麻乃は、ゴロリと横になった。ぬるめのお湯とはいえ、長くつかっているとさすがにのぼせそうになる。時折、通り抜ける風が心地よくて眠気を誘うけれど、テントまで戻るのもだるい。
体が温まったせいで血行がよくなっているからか、傷が強く脈打っている。起き上がって足の傷に手をやった。
治療しているあいだはいつもうつぶせの状態でいたため、傷跡をしっかり見るのは初めてだった。
なぞるように触れてみる。剥き出しになった肉が盛りあがってきている。
(治りかけはきっと、痒みがひどいだろうな)
どうでもいいようなことが麻乃の頭に浮かぶ。左腕の痣に触れ、そのまま左肩に滑らせる。こっちの傷はかさぶたがわずかに残ってるだけで、もう気にもならない。
これまでにも切られたり撃たれりしたことはあるけれど、こんなに大きな怪我はしたことがない。
短期間でこれだけの怪我をしたために、本当なら当たり前のようにやっていることも、今の麻乃にはできない。
(もっと腕をあげなければ。傷つくことがないくらいに強く……こんなに休まなければいけないほどの怪我、もう絶対に負わないためにも)
気負っている、無茶をする。
その言葉が麻乃の頭をかすめた。
だからなんだ? 気負ってなにが悪い。少しくらい無茶をしたからってなにが?
そうしなければ、どうにもならないことが多過ぎるんじゃないか。
(甘ったれてるそんなおまえの姿、見てるこっちが恥かしくなる)
鴇汰の言葉を思い出す。
確かに、甘えがないとはいえない。修治がいればそれだけで安心できる。困ったことがあれば周りにいる誰かが手を差し伸べてくれる。当たり前のようにその手を取っていたのかもしれない。
見たくないと思われているなら、見えない場所にいればいい。甘えてると言うなら甘えなければいい。
そういえば、今、チャコの手を借りていることも、甘えなんだろうか――?
せめて松葉杖なしで歩くことができれば、誰の手を借りることもなく動けるようになれれば。
(そうすれば、あたしは――)
肌がひんやりとしてきて、もう一度、ゆっくり湯に体を沈めた。最初ほどではないけれど、やっぱりお湯が傷に沁みて痛む。
ふっ、と軽い吐息が漏れた。
いくら考えたところで、今の状態を抜け出さないことには、どうにもならない。
薄暗くなり始めた洞窟の中で、この演習、その後の訓練、それらすべてが終わったあとのことを考えていた。
そこから新たに始まることを、そこに待っているだろう、きっとつらい日々を。それでもあたしはやらなければいけない。医療所のベッドで散々考えて決めたんだ。
不安を覚えても決して揺らぐことのない思いが、杭で打ち込んだように麻乃の胸に残った。
体が温まったのを機に湯から這い上がると、そばに置いておいたタオルで体を拭ってから松葉杖を引き寄せて立ち上がり、テントに戻った。中でそのまま寝袋の上に横になったとき、頭の中に響くように声が聞こえた。
『治してあげましょうか?』
ギクリとして体を起こす。周囲にはもちろん、洞窟内に人の気配はない。この場所に誰かが来ることなどありえないのに、この声は――。
『その程度の傷も、すぐに治せないなんて、不自由なことですね』
また、声が聞こえた。麻乃を見下すようなからかうような言葉に感情が高ぶる。
「治るもんなら治したいさ! だけどこんな傷、すぐに治るわけがないじゃないか!」
『……どうでしょうか?』
含み笑いをした男の声がそう言った途端、麻乃の目の前がぐらりと揺れた。周囲の景色がモノクロに見える。吐き気と頭痛に襲われて目を閉じた。
体が温まったせいで血行がよくなっているからか、傷が強く脈打っている。起き上がって足の傷に手をやった。
治療しているあいだはいつもうつぶせの状態でいたため、傷跡をしっかり見るのは初めてだった。
なぞるように触れてみる。剥き出しになった肉が盛りあがってきている。
(治りかけはきっと、痒みがひどいだろうな)
どうでもいいようなことが麻乃の頭に浮かぶ。左腕の痣に触れ、そのまま左肩に滑らせる。こっちの傷はかさぶたがわずかに残ってるだけで、もう気にもならない。
これまでにも切られたり撃たれりしたことはあるけれど、こんなに大きな怪我はしたことがない。
短期間でこれだけの怪我をしたために、本当なら当たり前のようにやっていることも、今の麻乃にはできない。
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気負っている、無茶をする。
その言葉が麻乃の頭をかすめた。
だからなんだ? 気負ってなにが悪い。少しくらい無茶をしたからってなにが?
そうしなければ、どうにもならないことが多過ぎるんじゃないか。
(甘ったれてるそんなおまえの姿、見てるこっちが恥かしくなる)
鴇汰の言葉を思い出す。
確かに、甘えがないとはいえない。修治がいればそれだけで安心できる。困ったことがあれば周りにいる誰かが手を差し伸べてくれる。当たり前のようにその手を取っていたのかもしれない。
見たくないと思われているなら、見えない場所にいればいい。甘えてると言うなら甘えなければいい。
そういえば、今、チャコの手を借りていることも、甘えなんだろうか――?
せめて松葉杖なしで歩くことができれば、誰の手を借りることもなく動けるようになれれば。
(そうすれば、あたしは――)
肌がひんやりとしてきて、もう一度、ゆっくり湯に体を沈めた。最初ほどではないけれど、やっぱりお湯が傷に沁みて痛む。
ふっ、と軽い吐息が漏れた。
いくら考えたところで、今の状態を抜け出さないことには、どうにもならない。
薄暗くなり始めた洞窟の中で、この演習、その後の訓練、それらすべてが終わったあとのことを考えていた。
そこから新たに始まることを、そこに待っているだろう、きっとつらい日々を。それでもあたしはやらなければいけない。医療所のベッドで散々考えて決めたんだ。
不安を覚えても決して揺らぐことのない思いが、杭で打ち込んだように麻乃の胸に残った。
体が温まったのを機に湯から這い上がると、そばに置いておいたタオルで体を拭ってから松葉杖を引き寄せて立ち上がり、テントに戻った。中でそのまま寝袋の上に横になったとき、頭の中に響くように声が聞こえた。
『治してあげましょうか?』
ギクリとして体を起こす。周囲にはもちろん、洞窟内に人の気配はない。この場所に誰かが来ることなどありえないのに、この声は――。
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「治るもんなら治したいさ! だけどこんな傷、すぐに治るわけがないじゃないか!」
『……どうでしょうか?』
含み笑いをした男の声がそう言った途端、麻乃の目の前がぐらりと揺れた。周囲の景色がモノクロに見える。吐き気と頭痛に襲われて目を閉じた。
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