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島国の戦士
第90話 再生 ~麻乃 3~
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「誰が来るわけでもないし、ここなら素っ裸で歩き回っても平気だよね。傷にもいいんだし、ゆっくりつかってるといいよ」
「うん、そうする」
麻乃は早々に左足の包帯を外し、上着を脱ぐと、左腕と背中に巻かれた包帯を外した。比佐子が手を貸してくれながらその傷を見て、包帯を巻き取りながら言った。
「話しには聞いていたけど、思ったよりひどいじゃないの。ねぇ呼ぶの早過ぎた? もう少し休んでたほうが良かった?」
「全然。あのまま医療所で横になっていたら、こっちのことが気になってイライラするだけで休めやしなかったよ。ここにいたところで、なにができるわけでもないけど、動けるようになったらすぐに出られると思うと安心する」
服を脱ぎ、ぬるめのお湯に足先をつけ、ゆっくりと足をおろす。
「……いてっ……くぅーっ……沁みる……いててっ」
傷の痛みに、つい小声を漏らしながらも麻乃は全身を沈め、大きめの岩縁に腕をもたれて寄りかかった。
「私は現役を退いてからもう四年もたつけど、よくこんなことをやっていたと今じゃ思うわよ。久々に参加して余計に思うわ。あんた、こんなキツイことをよく続けてられるわよね」
「そうかな? 巧さんに言わせれば、これが普通らしいよ。だってあたしら、戦士なんだもん」
「そうなんだろうけどさ、そんな怪我をしてまでも。巧さんにしても、あんたにしても、根っからの戦士よねぇ」
寄りかかっていた体を起こすと、比佐子を見あげて問いかけた。
「ねぇ、やっぱりそういうの、男の人って気にするものなのかな? 穂高はチャコが戦士のままでいるの、嫌がったりした?」
「うちは……穂高は嫌がったりしないけど、私が嫌だったのよ。あいつより先に死にたくなかったの。子どももほしいしね。急にそんなことを聞いてくるなんてなによ?」
「別になにも。ただ、一般的にどうなのかな~? って思ってさ」
「一般的にねぇ、どうなんだろうね? でも修治さんは、そんなことは気にしないでしょ?」
「修治はね、気にしないと思うけど……でもあいつ、守ってあげるタイプが好きだと思うよ。今の人がそういう人だもん」
大岩に寝そべるように体をあずけ、頬づえをついた。背中と足の傷に湯が沁みてたまらない。
「へぇ。意外だね。あの人はあんたみたいに、一緒に闘えるようなタイプが好きなんだと思ってたわ」
麻乃はフーッと深く大きく息をつくと、しみじみとつぶやいた。
「あたしは旦那より、嫁さんがほしいかも。も~、一生懸命に闘って稼いでくるから、掃除と洗濯とおいしい料理を作ってほしいよ」
「だったら、おクマさんなんてどうよ? 料理はうまいし家事もできるし」
比佐子は立ちあがって腕にリストバンドを巻き、アームウォーマーをはめた。リュックを背負い、武器を手にしている姿を見ると、麻乃も動きたくなってウズウズする。
「おクマさんはさぁ、嫁さんってよりお母さんじゃん。それに、もしも怒らせたらとんでもないことになるよ」
「お母さんは良かったね。ま、確かに、親と同じ歳のころだしねぇ」
比佐子が大声で笑い、腰に当てた手が麻乃の目に入った。
「チャコ、ちょっとリストバンド、見せな」
「ん? なに?」
差し出された左腕をつかんで引き寄せた。六と焼印が押されている。
「あっ! あんたもう五回も倒されたの?」
「久しぶりだったんだからしょうがないじゃない。それに、やけに出くわすのよね」
「当たり前だよ。チャコは見つけやすいんだってば」
これは絶対、うちの部隊で情報が回る。比佐子は気配が濃い。それにブランクがあって、まだなじみきれていないだろう。
「早く勘が戻らないとカモられるよ。手加減はなしで、本気でやっていいからね」
「本気でいいの? 勘が戻るまでは本当に加減が効かないよ?」
「いいよ。やって。こっち側が舐められちゃ困る。うちのやつらはきっと、チャコを探すよ。稼げるからね」
「そんなことがわかるの?」
「わかるよ。だって、あたしならそうする」
比佐子はふっ、と軽く息をはき、背筋を正すと、真顔で麻乃にうなずいてみせた。
「わかった。それなら本気でやるよ」
行ってくるよ、と言って入り口に立ち、何か思い出したように比佐子は少し顔を上に向けると、麻乃を振り返った。
「そういえばいるじゃない? 一人。料理もうまくていい子がさ。鴇汰なんかどうよ? いい奥さんタイプじゃないの」
麻乃がなにか言い返そうとするよりも早く、比佐子は屈託のない笑顔を見せてから、外へ駆け出していった。
「うん、そうする」
麻乃は早々に左足の包帯を外し、上着を脱ぐと、左腕と背中に巻かれた包帯を外した。比佐子が手を貸してくれながらその傷を見て、包帯を巻き取りながら言った。
「話しには聞いていたけど、思ったよりひどいじゃないの。ねぇ呼ぶの早過ぎた? もう少し休んでたほうが良かった?」
「全然。あのまま医療所で横になっていたら、こっちのことが気になってイライラするだけで休めやしなかったよ。ここにいたところで、なにができるわけでもないけど、動けるようになったらすぐに出られると思うと安心する」
服を脱ぎ、ぬるめのお湯に足先をつけ、ゆっくりと足をおろす。
「……いてっ……くぅーっ……沁みる……いててっ」
傷の痛みに、つい小声を漏らしながらも麻乃は全身を沈め、大きめの岩縁に腕をもたれて寄りかかった。
「私は現役を退いてからもう四年もたつけど、よくこんなことをやっていたと今じゃ思うわよ。久々に参加して余計に思うわ。あんた、こんなキツイことをよく続けてられるわよね」
「そうかな? 巧さんに言わせれば、これが普通らしいよ。だってあたしら、戦士なんだもん」
「そうなんだろうけどさ、そんな怪我をしてまでも。巧さんにしても、あんたにしても、根っからの戦士よねぇ」
寄りかかっていた体を起こすと、比佐子を見あげて問いかけた。
「ねぇ、やっぱりそういうの、男の人って気にするものなのかな? 穂高はチャコが戦士のままでいるの、嫌がったりした?」
「うちは……穂高は嫌がったりしないけど、私が嫌だったのよ。あいつより先に死にたくなかったの。子どももほしいしね。急にそんなことを聞いてくるなんてなによ?」
「別になにも。ただ、一般的にどうなのかな~? って思ってさ」
「一般的にねぇ、どうなんだろうね? でも修治さんは、そんなことは気にしないでしょ?」
「修治はね、気にしないと思うけど……でもあいつ、守ってあげるタイプが好きだと思うよ。今の人がそういう人だもん」
大岩に寝そべるように体をあずけ、頬づえをついた。背中と足の傷に湯が沁みてたまらない。
「へぇ。意外だね。あの人はあんたみたいに、一緒に闘えるようなタイプが好きなんだと思ってたわ」
麻乃はフーッと深く大きく息をつくと、しみじみとつぶやいた。
「あたしは旦那より、嫁さんがほしいかも。も~、一生懸命に闘って稼いでくるから、掃除と洗濯とおいしい料理を作ってほしいよ」
「だったら、おクマさんなんてどうよ? 料理はうまいし家事もできるし」
比佐子は立ちあがって腕にリストバンドを巻き、アームウォーマーをはめた。リュックを背負い、武器を手にしている姿を見ると、麻乃も動きたくなってウズウズする。
「おクマさんはさぁ、嫁さんってよりお母さんじゃん。それに、もしも怒らせたらとんでもないことになるよ」
「お母さんは良かったね。ま、確かに、親と同じ歳のころだしねぇ」
比佐子が大声で笑い、腰に当てた手が麻乃の目に入った。
「チャコ、ちょっとリストバンド、見せな」
「ん? なに?」
差し出された左腕をつかんで引き寄せた。六と焼印が押されている。
「あっ! あんたもう五回も倒されたの?」
「久しぶりだったんだからしょうがないじゃない。それに、やけに出くわすのよね」
「当たり前だよ。チャコは見つけやすいんだってば」
これは絶対、うちの部隊で情報が回る。比佐子は気配が濃い。それにブランクがあって、まだなじみきれていないだろう。
「早く勘が戻らないとカモられるよ。手加減はなしで、本気でやっていいからね」
「本気でいいの? 勘が戻るまでは本当に加減が効かないよ?」
「いいよ。やって。こっち側が舐められちゃ困る。うちのやつらはきっと、チャコを探すよ。稼げるからね」
「そんなことがわかるの?」
「わかるよ。だって、あたしならそうする」
比佐子はふっ、と軽く息をはき、背筋を正すと、真顔で麻乃にうなずいてみせた。
「わかった。それなら本気でやるよ」
行ってくるよ、と言って入り口に立ち、何か思い出したように比佐子は少し顔を上に向けると、麻乃を振り返った。
「そういえばいるじゃない? 一人。料理もうまくていい子がさ。鴇汰なんかどうよ? いい奥さんタイプじゃないの」
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