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島国の戦士
第89話 再生 ~麻乃 2~
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演習場に着くと、拠点ではもう比佐子が待っていて、麻乃を見るなり駆け寄ってくる。その勢いに思わず足を止めた。
「久しぶりだね。あんた、相変わらずチビっこいねぇ」
フフッと笑いながら頭をグリグリとなで回してくる。百八十センチの身長の比佐子からしたら、十八センチ以上も差があると、本当に小さく見えるらしい。
麻乃はムッとしてその手を払いのけた。
「やめてよ! 縮んだらどうしてくれんのさ。あんたたちみんな、無駄にデカイからって寄ってたかって頭をなでるのやめてよね」
乱れた癖毛を片手ですいて直す。
「生意気なことを言っちゃって。昼ご飯は食べたの? 食べてから出る? それともすぐに出る?」
「ん……食べて出ようかな。その前に、師範の方々にあいさつしてくるよ」
「ああ、そうだね、そうしないとね。穂高、アンタはどうする?」
「俺はいったん、詰所に戻るよ。長い時間はいられないから、ちょくちょく顔は出そうと思っているけどね」
「穂高、いろいろとありがとう」
あらためてお礼を言うと、穂高は照れ臭そうな顔を見せ、詰所に戻っていった。
拠点で休憩を取っている師範の方々に、あいさつと怪我で抜けて迷惑をかけたお詫びを言って回る。今、出ている方々にも、くれぐれもよろしく伝えてくださいと伝言を残し、比佐子と一緒に食事を済ませた。
「テントはもう張ってあるんだよ。荷物も必要だと思うものは、もう全部運び込んである。あとはこの荷物と薬の類だけ?」
「うん、すばやく動けないから、気配を探って人けのないところを選んでいこう。それでももし追って来られたら、そのときはチャコ、よろしく頼むね」
「わかってるよ。私もなるべく気配を抑えるようにするけど苦手なんだよねぇ。昔から」
苦笑してみせる比佐子に、麻乃はからかうようにフフッと笑った。
「それでよく、巧さんに怒られてたよね」
「そうそう『気配丸だしで、あんた私にやられるのが楽しいのかい?』ってね。あんたにも相当やられたよねぇ」
「だって見つけやすかったんだもん。いやぁ、ホントにいいカモだった」
「馬鹿タレ!」
比佐子は笑いながら、こぶしで麻乃の頭を小突いてきた。
「さ、そろそろ出ようか? 暗くなったら足もとが心配だしね。それとも修治さん待ってから出る?」
「いや。その必要はないよ。行こう」
ゆっくり立ち上がると、演習用の刀を腰に帯びた。荷物を背負った比佐子を前に、森の入り口に立つと人の気配を避けながら進んだ。
安定しない足場で、松葉杖での移動は本当につらく感じ、気を抜くと転んでしまいそうになる。
登りや下りの多い場所では比佐子の手を借りて、できるだけ早めに歩く。幸いにも誰にも出会うことなく思った以上の時間はかかったけれど、無事に目的の大きな椎の木にたどり着いた。
大きなうろを持った椎の木が目印で、その後ろの岩陰に洞穴がある。そこを降りると、こぢんまりとした洞窟があった。
誰が最初に見つけたのか、それともあえて作ったのかはわからない。ただわかってるのは、先人は女性だったということ。そこには温泉が湧いていて、疲労の回復や傷に良いと言われていた。
長いあいだ、女戦士にのみ口頭で伝えられ続け、長い演習の際には休息を取る場所として利用されてきた。古参から新人へと場所の引き継ぎがされている。
今回は、麻乃から新人の女の子たちに伝えるはずが、怪我のせいで伝えられないかもしれないと思っていた。それが、比佐子のおかげで無事に引き継ぎができた。一度では場所を覚えきれないから、最低でも三度は連れてくる予定だ。残りの二回も、比佐子が誘ってくれるという。
中へ入ると、洞窟の入り口に近い場所にテントが張られていた。
「つかったり上がったりするには、湯に近いほうがいいかとも思ったんだけど、熱気がこもるから」
ゴツゴツとした岩場を、麻乃はしゃがんだ状態で少しずつ下り、比佐子の手を借りてテントの中に入った。
「ここなら風通しもいいし、地面もわりと滑らかで乾いているから、寝心地もそこそこだと思うのよね」
ビニールシートが何重にも敷かれたうえに、さらに寝袋が敷かれている。うつぶせても楽なように丸めたままの寝袋も枕の替わりに置いてあった。
「チャコ一人で良くこれだけ準備できたね。凄いよこれ。ありがとうね」
「ま、私もここに休みに来たいし、自分の居心地がいいように作っただけよ」
洞窟の奥のほうは徐々に狭くなっていて、所々で枝わかれしている。わずかに風が通り抜けることを考えると、どこかに通じてはいるんだろう。密閉された空間ではないから、火を焚いても特に問題もなく、食事の支度もここでできる。
「久しぶりだね。あんた、相変わらずチビっこいねぇ」
フフッと笑いながら頭をグリグリとなで回してくる。百八十センチの身長の比佐子からしたら、十八センチ以上も差があると、本当に小さく見えるらしい。
麻乃はムッとしてその手を払いのけた。
「やめてよ! 縮んだらどうしてくれんのさ。あんたたちみんな、無駄にデカイからって寄ってたかって頭をなでるのやめてよね」
乱れた癖毛を片手ですいて直す。
「生意気なことを言っちゃって。昼ご飯は食べたの? 食べてから出る? それともすぐに出る?」
「ん……食べて出ようかな。その前に、師範の方々にあいさつしてくるよ」
「ああ、そうだね、そうしないとね。穂高、アンタはどうする?」
「俺はいったん、詰所に戻るよ。長い時間はいられないから、ちょくちょく顔は出そうと思っているけどね」
「穂高、いろいろとありがとう」
あらためてお礼を言うと、穂高は照れ臭そうな顔を見せ、詰所に戻っていった。
拠点で休憩を取っている師範の方々に、あいさつと怪我で抜けて迷惑をかけたお詫びを言って回る。今、出ている方々にも、くれぐれもよろしく伝えてくださいと伝言を残し、比佐子と一緒に食事を済ませた。
「テントはもう張ってあるんだよ。荷物も必要だと思うものは、もう全部運び込んである。あとはこの荷物と薬の類だけ?」
「うん、すばやく動けないから、気配を探って人けのないところを選んでいこう。それでももし追って来られたら、そのときはチャコ、よろしく頼むね」
「わかってるよ。私もなるべく気配を抑えるようにするけど苦手なんだよねぇ。昔から」
苦笑してみせる比佐子に、麻乃はからかうようにフフッと笑った。
「それでよく、巧さんに怒られてたよね」
「そうそう『気配丸だしで、あんた私にやられるのが楽しいのかい?』ってね。あんたにも相当やられたよねぇ」
「だって見つけやすかったんだもん。いやぁ、ホントにいいカモだった」
「馬鹿タレ!」
比佐子は笑いながら、こぶしで麻乃の頭を小突いてきた。
「さ、そろそろ出ようか? 暗くなったら足もとが心配だしね。それとも修治さん待ってから出る?」
「いや。その必要はないよ。行こう」
ゆっくり立ち上がると、演習用の刀を腰に帯びた。荷物を背負った比佐子を前に、森の入り口に立つと人の気配を避けながら進んだ。
安定しない足場で、松葉杖での移動は本当につらく感じ、気を抜くと転んでしまいそうになる。
登りや下りの多い場所では比佐子の手を借りて、できるだけ早めに歩く。幸いにも誰にも出会うことなく思った以上の時間はかかったけれど、無事に目的の大きな椎の木にたどり着いた。
大きなうろを持った椎の木が目印で、その後ろの岩陰に洞穴がある。そこを降りると、こぢんまりとした洞窟があった。
誰が最初に見つけたのか、それともあえて作ったのかはわからない。ただわかってるのは、先人は女性だったということ。そこには温泉が湧いていて、疲労の回復や傷に良いと言われていた。
長いあいだ、女戦士にのみ口頭で伝えられ続け、長い演習の際には休息を取る場所として利用されてきた。古参から新人へと場所の引き継ぎがされている。
今回は、麻乃から新人の女の子たちに伝えるはずが、怪我のせいで伝えられないかもしれないと思っていた。それが、比佐子のおかげで無事に引き継ぎができた。一度では場所を覚えきれないから、最低でも三度は連れてくる予定だ。残りの二回も、比佐子が誘ってくれるという。
中へ入ると、洞窟の入り口に近い場所にテントが張られていた。
「つかったり上がったりするには、湯に近いほうがいいかとも思ったんだけど、熱気がこもるから」
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「ここなら風通しもいいし、地面もわりと滑らかで乾いているから、寝心地もそこそこだと思うのよね」
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「チャコ一人で良くこれだけ準備できたね。凄いよこれ。ありがとうね」
「ま、私もここに休みに来たいし、自分の居心地がいいように作っただけよ」
洞窟の奥のほうは徐々に狭くなっていて、所々で枝わかれしている。わずかに風が通り抜けることを考えると、どこかに通じてはいるんだろう。密閉された空間ではないから、火を焚いても特に問題もなく、食事の支度もここでできる。
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