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島国の戦士
第76話 すれ違い ~麻乃 1~
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昨夜は傷のせいで発熱してつらかった。寝て起きてもまだ微熱があるようで、体全体がだるい。薬のおかげで傷は痛まないけれど、相変わらずうつぶせたままで寝苦しいのが嫌だ。
爺ちゃん先生に見つかったら、また無茶をしてると怒られるかもしれないけれど、麻乃はこっそり体を起こしてベッドに腰をかけていた。ちょっとだけ歩いてみようかと、ベッドの脇に立てかけてあった松葉杖に触れようとしたとき、こっちへ向かってくる足音が聞こえた。急いで布団をかぶって寝たふりをする。
ノックが響いてドアが開き、薄目を開けて入ってきた人影を確認した。
「なんだ、あんたたちか」
起きあがってベッドに座り直すと、今、入ってきた鴇汰と穂高を交互に見た。
「てっきり先生が来たとばかり思って、無駄に動いちゃったよ。一体どうしたのさ、こんなところまで」
「昨日、中央でガルバスが出たって聞いてね。演習場で聞いてみたら、出たのはここだって言うし、本当に驚いたよ」
「しかも麻乃が当事者かよ……またそんな怪我してやがる。このあいだの怪我だって、まだ完全に治ってないんだろ? どうして逃げなかったのよ?」
差し入れと報告書だと言って手渡してきた袋と封筒を受け取った。穂高の横で、鴇汰は心配しているのか怒っているのか、どちらとも取れる表情で、麻乃を見ている。
「そんなことを言ったってしょうがなかったんだよ。一人だったらみんなが来るまで手を出さなかったけど、ちょうど班の子を半分以上も倒しちゃってたから」
「あ……そっか。演習中だったもんな」
「残った子たちだけじゃ一度に抱えられないし、みんなデカイから、あたしじゃ運んで逃げるのも無理だったしさ。誰かが来るまであたしが喰い止めるしかなかったんだよ」
袋の中からおいしそうな匂いがして、気になって視線がつい向いてしまう。
「それに、見た目より大した怪我じゃないし」
「そうは言ってもなにも聞いてなかったからさ。当然驚くし心配もするよ。麻乃の大したことがないは、あてにならないしな。そうだよな? 鴇汰」
穂高に話しを振られても、鴇汰はまだ黙ったままで不機嫌な顔をしている。このごろ、眉間にシワが寄ってる顔を見ることが多い。
「……うん。心配させてごめん。それに、わざわざ来てくれてありがとう」
「なんだよ、やけに素直じゃん」
「あたしね、本当に怖かったんだ。武器は演習用の刀しかないし、間近で見たら凄くデカかったんだもん。みんなをかばい切れずに誰かを亡くしたらどうしようかと、たまらなく怖かった」
思い出すと今でも冷汗が出る。みんなが無事で良かったと思うし、麻乃自身も怪我程度で済んで良かったと、心から思っている。
「麻乃以外みんな、無事だったのかい?」
「ううん、二人、怪我をさせちゃったんだよね……」
「何人がかりで倒したの?」
「あたし一人で」
「えっ? だっておまえ、武器、なかったんだろ?」
「折れた演習用の刀で刺した」
穂高の問いに答えた麻乃に、鴇汰が驚いた顔で聞き返してきた。椅子を引いて腰をかけた穂高が、しみじみと麻乃を見つめている。
「そりゃあ……俺も必要に迫られたら同じことをしたと思う。でも一人で倒しきれるかどうかは疑問だよ。まぁ、腕の問題もあるんだろうけど、大したものだよなぁ」
「そんなことはないよ。あのときはああするしかないと思ったけど、もっとほかに手はあったんじゃないか、って今は思うよ。実際、演習も始ったばかりなのに、こんな怪我をしてなんの役にもたってないんだもんね」
座っている自分の足もとを見た。麻乃の左足は今、ちゃんと力が入らない。早く戻りたくて、気ばかりが急くのに。
爺ちゃん先生に見つかったら、また無茶をしてると怒られるかもしれないけれど、麻乃はこっそり体を起こしてベッドに腰をかけていた。ちょっとだけ歩いてみようかと、ベッドの脇に立てかけてあった松葉杖に触れようとしたとき、こっちへ向かってくる足音が聞こえた。急いで布団をかぶって寝たふりをする。
ノックが響いてドアが開き、薄目を開けて入ってきた人影を確認した。
「なんだ、あんたたちか」
起きあがってベッドに座り直すと、今、入ってきた鴇汰と穂高を交互に見た。
「てっきり先生が来たとばかり思って、無駄に動いちゃったよ。一体どうしたのさ、こんなところまで」
「昨日、中央でガルバスが出たって聞いてね。演習場で聞いてみたら、出たのはここだって言うし、本当に驚いたよ」
「しかも麻乃が当事者かよ……またそんな怪我してやがる。このあいだの怪我だって、まだ完全に治ってないんだろ? どうして逃げなかったのよ?」
差し入れと報告書だと言って手渡してきた袋と封筒を受け取った。穂高の横で、鴇汰は心配しているのか怒っているのか、どちらとも取れる表情で、麻乃を見ている。
「そんなことを言ったってしょうがなかったんだよ。一人だったらみんなが来るまで手を出さなかったけど、ちょうど班の子を半分以上も倒しちゃってたから」
「あ……そっか。演習中だったもんな」
「残った子たちだけじゃ一度に抱えられないし、みんなデカイから、あたしじゃ運んで逃げるのも無理だったしさ。誰かが来るまであたしが喰い止めるしかなかったんだよ」
袋の中からおいしそうな匂いがして、気になって視線がつい向いてしまう。
「それに、見た目より大した怪我じゃないし」
「そうは言ってもなにも聞いてなかったからさ。当然驚くし心配もするよ。麻乃の大したことがないは、あてにならないしな。そうだよな? 鴇汰」
穂高に話しを振られても、鴇汰はまだ黙ったままで不機嫌な顔をしている。このごろ、眉間にシワが寄ってる顔を見ることが多い。
「……うん。心配させてごめん。それに、わざわざ来てくれてありがとう」
「なんだよ、やけに素直じゃん」
「あたしね、本当に怖かったんだ。武器は演習用の刀しかないし、間近で見たら凄くデカかったんだもん。みんなをかばい切れずに誰かを亡くしたらどうしようかと、たまらなく怖かった」
思い出すと今でも冷汗が出る。みんなが無事で良かったと思うし、麻乃自身も怪我程度で済んで良かったと、心から思っている。
「麻乃以外みんな、無事だったのかい?」
「ううん、二人、怪我をさせちゃったんだよね……」
「何人がかりで倒したの?」
「あたし一人で」
「えっ? だっておまえ、武器、なかったんだろ?」
「折れた演習用の刀で刺した」
穂高の問いに答えた麻乃に、鴇汰が驚いた顔で聞き返してきた。椅子を引いて腰をかけた穂高が、しみじみと麻乃を見つめている。
「そりゃあ……俺も必要に迫られたら同じことをしたと思う。でも一人で倒しきれるかどうかは疑問だよ。まぁ、腕の問題もあるんだろうけど、大したものだよなぁ」
「そんなことはないよ。あのときはああするしかないと思ったけど、もっとほかに手はあったんじゃないか、って今は思うよ。実際、演習も始ったばかりなのに、こんな怪我をしてなんの役にもたってないんだもんね」
座っている自分の足もとを見た。麻乃の左足は今、ちゃんと力が入らない。早く戻りたくて、気ばかりが急くのに。
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