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島国の戦士
第20話 古巣での待ち人 ~麻乃 3~
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修治が裏口のドアに右手をかけながら、左手で脇差をつかんだのが目に入り、麻乃はますます気が重くなった。
手を伸ばし、そっと修治のシャツの背をつかむと、修治はわずかに顔を麻乃に向けた。
「少しだけ下がっておけ」
言われたとおりに数歩さがると、それに合わせて修治は引き戸を開けた。
一歩足を踏み入れたとたん、中からいくつもの打矢が飛んできた。
なにかくるだろうと予測していたのか、修治はそれらを軽く払い落としている。
けれど、前方に集中していて、全体までは目が届いていなかったらしく、視界の端にいた師範がなにか大きなものを投げたところを見落としたようだ。
後ろから修治をすり抜けて道場へ入ると、麻乃は脇差しの柄を当て、それを弾き落とした。
その瞬間、おおっ、と子供たちの歓声がわいた。
足もとに落ちたのが槍だったのを見て、修治と二人、唖然として顔を見あわせた。
「帰ってきたな、未熟者どもが」
「槍はないでしょう? 先生」
礼をして高田の前に正座すると、拾った槍を膝の前に置いた。
さすがに不機嫌になった修治の顔を見て、高田は豪快に笑った。
「活を入れてやっただけだ。腕が落ちたわけではないようだな。怪我も……大したことはないか?」
傷の具合を確かめるように麻乃の肩に触れた高田の手はあたたかい。
そのまま促されて、奥の部屋へと入った。
「おとといはずいぶんな目にあったようだな」
改めて向かい合わせに座り、麻乃と修治を交互にみると、そう問いかけてきた。
「油断していました。いえ……侮っていたのかもしれません」
「時にはそんなこともある。戦闘に出る以上、命のやり取りは当たり前だが慢心していると判断も鈍る。その判断次第でどうにでも転がるから、ああしておけばよかった、こうしておけば違ったのじゃないか、と、そんな気迷いもでるだろう」
その言葉に麻乃も修治も、静かにうなずいた。
「それでもおまえたちは、迷っている暇はない。亡くした命のぶんまでしっかりと立ち、次に備えなければならないのだからな。おまえたちの背負っているものは、それほどに大きい」
麻乃は高田の言葉を聞きながら、膝に置いた手をジッと見つめた。
言われていることはわかる。頭では理解している。
でも……。
麻乃自身が高田のいうとおりで未熟だからか、気持ちが追いついていかない。
本当は今も、逝ってしまった隊員たちを思うと、どうしようもなく泣いてしまいたくなる。
また、チリチリと左腕の火傷がうずき、苛立ちをおぼえた。
「――そういうことだ。麻乃?」
呼ばれてハッと顔をあげた。
少しのあいだ、ぼんやりしていたせいで、途中から話しを聞いていなかった。
「おまえたち、今日はここの手伝いをして、一晩泊まっていけ。修治は道場の掃除と修繕を手伝ってもらおうか。麻乃、おまえは子どもたちと演習に出てこい」
「えっ?」
驚いて高田をみた。
「せ、先生、あたしこれでも一応、怪我人なんですけど……まだ傷もふさがってないし……」
「む、そうか。それはハンデにちょうどいいな」
プッと吹きだした修治を、麻乃はきつく睨んだ。
「えっと……あの、それに実は紅華炎刀が……この間の戦闘で壊れて、修理に出さないと使いものには……」
「もう一刀、帯びているじゃないか。それは大丈夫なのだろう?」
つと刀に目をやってから、修治に目線をうつした。
修治も困ったように自分の刀を見ている。
麻乃も修治も言葉にできずに柄に触れてうつむいた。
「なんだ! はっきり言わんか!」
「はいっ! これは……抜けません!」
「抜けない? おまえまさか、それは炎魔刀の炎か?」
「……はい」
久しぶりに怒鳴られ、情けなくて顔をあげられずにいると、高田は修治に向かって問いかけた。
「そうすると、おまえのそれは、炎魔刀の獄か。そしてそれも抜けないのだな?」
「はっ……」
修治の返事にかぶさるように、ふーっと大きなため息が聞こえた。
「おまえたち、抜けもしない刀を後生大事に帯びていてどうする。炎魔刀が麻乃の両親ののこしたものだということはわかっているがな。こう考えたことはないのか? もしも、その刀がちゃんと抜けて、おまえたちが二刀で戦っていたら、先だっての戦争で失った命はもっと少なかったのじゃないだろうか、と」
ズキンと胸が痛む。
あまりにも最もなことを言われ、返す言葉もない。
手を伸ばし、そっと修治のシャツの背をつかむと、修治はわずかに顔を麻乃に向けた。
「少しだけ下がっておけ」
言われたとおりに数歩さがると、それに合わせて修治は引き戸を開けた。
一歩足を踏み入れたとたん、中からいくつもの打矢が飛んできた。
なにかくるだろうと予測していたのか、修治はそれらを軽く払い落としている。
けれど、前方に集中していて、全体までは目が届いていなかったらしく、視界の端にいた師範がなにか大きなものを投げたところを見落としたようだ。
後ろから修治をすり抜けて道場へ入ると、麻乃は脇差しの柄を当て、それを弾き落とした。
その瞬間、おおっ、と子供たちの歓声がわいた。
足もとに落ちたのが槍だったのを見て、修治と二人、唖然として顔を見あわせた。
「帰ってきたな、未熟者どもが」
「槍はないでしょう? 先生」
礼をして高田の前に正座すると、拾った槍を膝の前に置いた。
さすがに不機嫌になった修治の顔を見て、高田は豪快に笑った。
「活を入れてやっただけだ。腕が落ちたわけではないようだな。怪我も……大したことはないか?」
傷の具合を確かめるように麻乃の肩に触れた高田の手はあたたかい。
そのまま促されて、奥の部屋へと入った。
「おとといはずいぶんな目にあったようだな」
改めて向かい合わせに座り、麻乃と修治を交互にみると、そう問いかけてきた。
「油断していました。いえ……侮っていたのかもしれません」
「時にはそんなこともある。戦闘に出る以上、命のやり取りは当たり前だが慢心していると判断も鈍る。その判断次第でどうにでも転がるから、ああしておけばよかった、こうしておけば違ったのじゃないか、と、そんな気迷いもでるだろう」
その言葉に麻乃も修治も、静かにうなずいた。
「それでもおまえたちは、迷っている暇はない。亡くした命のぶんまでしっかりと立ち、次に備えなければならないのだからな。おまえたちの背負っているものは、それほどに大きい」
麻乃は高田の言葉を聞きながら、膝に置いた手をジッと見つめた。
言われていることはわかる。頭では理解している。
でも……。
麻乃自身が高田のいうとおりで未熟だからか、気持ちが追いついていかない。
本当は今も、逝ってしまった隊員たちを思うと、どうしようもなく泣いてしまいたくなる。
また、チリチリと左腕の火傷がうずき、苛立ちをおぼえた。
「――そういうことだ。麻乃?」
呼ばれてハッと顔をあげた。
少しのあいだ、ぼんやりしていたせいで、途中から話しを聞いていなかった。
「おまえたち、今日はここの手伝いをして、一晩泊まっていけ。修治は道場の掃除と修繕を手伝ってもらおうか。麻乃、おまえは子どもたちと演習に出てこい」
「えっ?」
驚いて高田をみた。
「せ、先生、あたしこれでも一応、怪我人なんですけど……まだ傷もふさがってないし……」
「む、そうか。それはハンデにちょうどいいな」
プッと吹きだした修治を、麻乃はきつく睨んだ。
「えっと……あの、それに実は紅華炎刀が……この間の戦闘で壊れて、修理に出さないと使いものには……」
「もう一刀、帯びているじゃないか。それは大丈夫なのだろう?」
つと刀に目をやってから、修治に目線をうつした。
修治も困ったように自分の刀を見ている。
麻乃も修治も言葉にできずに柄に触れてうつむいた。
「なんだ! はっきり言わんか!」
「はいっ! これは……抜けません!」
「抜けない? おまえまさか、それは炎魔刀の炎か?」
「……はい」
久しぶりに怒鳴られ、情けなくて顔をあげられずにいると、高田は修治に向かって問いかけた。
「そうすると、おまえのそれは、炎魔刀の獄か。そしてそれも抜けないのだな?」
「はっ……」
修治の返事にかぶさるように、ふーっと大きなため息が聞こえた。
「おまえたち、抜けもしない刀を後生大事に帯びていてどうする。炎魔刀が麻乃の両親ののこしたものだということはわかっているがな。こう考えたことはないのか? もしも、その刀がちゃんと抜けて、おまえたちが二刀で戦っていたら、先だっての戦争で失った命はもっと少なかったのじゃないだろうか、と」
ズキンと胸が痛む。
あまりにも最もなことを言われ、返す言葉もない。
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