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島国の戦士
第11話 過ちの記憶 ~修治 1~
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「鴇汰のやつ、やけに興奮してやがったな。馬鹿なことを言いやがって……ガキでもあるまいし」
蓮華の中で一番年上の徳丸がため息をつき、閉じられた扉を眺めながら言った。
徳丸に近い年齢の巧と梁瀬もそれにうなずいた。
「鴇汰が心配する気持ちもわかるけどねぇ。シュウちゃんにあたっても仕方ないのに」
「いやぁ、それより僕は、修治さんのセリフに驚いたよ」
梁瀬がそう言うと、巧の表情がパッと変わって修治に向いた。
「そうそう! 責任を取るなんて言っちゃって。なによ? シュウちゃんてば、やっぱり今もそうだったの?」
「やっぱり今も、ってなんだよ。俺はおまえらの暇つぶしの材料になる気はないぞ」
修治は椅子の背にもたれると、肘掛けに頬づえをついてフッと鼻で笑い、窓の外へ視線を移した。
どうやら話しがおかしなほうへ向かいそうだ。
「だってねぇ、なかなか言えないじゃないのよ、あんなセリフ」
「しかも、あの状況で修治さんの口からでたから驚きっスよね」
「うん、俺も本当に驚いたよ。あんなにキッパリと言いきるんだもんね」
岱胡と穂高までもが、巧にならって興味を向けてくる。
さすがに何人もに問われると、逃げ道がなくなってなにを言わされるかわからない。
追いやるように手を振って、四人を遠ざけた。
今はまだ、自分のことを話す気はない。
時期がくれば話さなければならないのは承知している。
「おまえら、うるさいんだよ。こんな話になると食いついてきやがって。トクさん、そろそろ引きあげよう。それと梁瀬、ちょっといいか?」
まだなにか言いたげな巧の視線をさけて軽く笑いながら徳丸をうながすと、小声で梁瀬に耳打ちをして会議室を出た。
梁瀬は小首をかしげながらも、なにも聞かずにあとを追ってきてくれた。
ほかの誰もついてきていないことを確認すると、修治の個室へといざなった。
軍部には、蓮華にそれぞれ個室が与えられている。
こんなときにそれがあると、本当に便利だ。
梁瀬に椅子をすすめ、自分も腰をおろした。
「今日のやつらのことなんだが……」
「ああ、僕はチラッと見ただけですぐに砲台に向かったんだけど」
「穂高に聞いた。それより、術をかけられているように見えたって?」
「うーん……最初はね、そう思った。傀儡でもつかってるのかな、って」
うなずくいた梁瀬が顎をなでながら、なにかを思い出そうとするように数十秒考え込んでいる。
「でもねぇ、僕はあの国に、あんな術をつかえるほどの術師がいるって、聞いたことがないんだよ」
「そうか……」
「そんなにすごいやつがいたら、僕ら術師のあいだで話題にあがらないはずがないんだよね。どんなに頑張ったって、四、五体が限界だから」
「四、五体が限界?」
修治に向かってうなずいてみせた梁瀬は、慎重な口調で続けた。
「何人もの術師が動かしていた可能性もあるけど、そうなると動きにバラつきも出るだろうし、一万の兵に対して術師が約二千人じゃ、どう考えても効率が悪すぎるよね?」
そう問いかけられると、最もだと思う。
修治は組んだ手に額をおいて考えた。
数分ジッとしていて、梁瀬が黙ったままでいることに気づいた。
視線をあげると、梁瀬がやけに真面目な顔で修治を見ていた。
目が合うのを待っていたかのように、梁瀬がまた話し始めた。
「全員が限界までの人数を動かせるとは思えないし、浜辺まで距離もだいぶあったから動かせなくなる兵も当然でてくる。それに、あれは生きた人間だったよね」
「ああ。けどやつら、確実に仕留めたのに動いていやがった」
「もしかして洗脳かとも思ったんだけど、それでも、あんなに多くの人間を動かせるほどの術を使えるものがいるなんて、やっぱり僕は聞いたことがない」
「仮に強力な術師がいたとして、洗脳だけで死んだやつを動かせるものなのか?」
修治の問いかけに、梁瀬も身をのりだして答えてくれた。
「そう、そこなんだよね。いくらうまく洗脳したって、死んだらそこで終わり。ゾンビでもあるまいし、また起きあがってくるなんてことはあり得ない。死体を使った傀儡だとも考えられるけど、あれだけきれいな状態で、あんなにも集めるのは相当難しいと思う」
「大陸じゃあ戦争にでもなれば、死体は山ほどでるだろうが、きっと一目見て、それとわかる状態だろうからな」
敵兵と向き合ったときのことを思い出す。
武器は古びていたけれど、体に欠損や傷のあった兵は絶対にいなかった。
それは修治自身の目で見てはっきりわかっている。
梁瀬は表情を曇らせ、肩をすくめて天井を見あげた。
「うん。あれが死体だとすると、あんな数を今日のためだけに集めたのか、だとしたらどうやって集めたのか、考えるだけでゾッとするね」
「そうだな。奇麗なままの大人ばかりの死体を国中から集めたって、一日やそこらじゃ……保管しているわけもないだろうし、傷つかないやり方で殺したってことか……」
「手間がかかっているようにみえる割に、目的が見えてこないんだよね。まさか術師の訓練ってこともないだろうし。そんなことなら、わざわざ海を渡らなくても大陸でやれるんだし」
蓮華の中で一番年上の徳丸がため息をつき、閉じられた扉を眺めながら言った。
徳丸に近い年齢の巧と梁瀬もそれにうなずいた。
「鴇汰が心配する気持ちもわかるけどねぇ。シュウちゃんにあたっても仕方ないのに」
「いやぁ、それより僕は、修治さんのセリフに驚いたよ」
梁瀬がそう言うと、巧の表情がパッと変わって修治に向いた。
「そうそう! 責任を取るなんて言っちゃって。なによ? シュウちゃんてば、やっぱり今もそうだったの?」
「やっぱり今も、ってなんだよ。俺はおまえらの暇つぶしの材料になる気はないぞ」
修治は椅子の背にもたれると、肘掛けに頬づえをついてフッと鼻で笑い、窓の外へ視線を移した。
どうやら話しがおかしなほうへ向かいそうだ。
「だってねぇ、なかなか言えないじゃないのよ、あんなセリフ」
「しかも、あの状況で修治さんの口からでたから驚きっスよね」
「うん、俺も本当に驚いたよ。あんなにキッパリと言いきるんだもんね」
岱胡と穂高までもが、巧にならって興味を向けてくる。
さすがに何人もに問われると、逃げ道がなくなってなにを言わされるかわからない。
追いやるように手を振って、四人を遠ざけた。
今はまだ、自分のことを話す気はない。
時期がくれば話さなければならないのは承知している。
「おまえら、うるさいんだよ。こんな話になると食いついてきやがって。トクさん、そろそろ引きあげよう。それと梁瀬、ちょっといいか?」
まだなにか言いたげな巧の視線をさけて軽く笑いながら徳丸をうながすと、小声で梁瀬に耳打ちをして会議室を出た。
梁瀬は小首をかしげながらも、なにも聞かずにあとを追ってきてくれた。
ほかの誰もついてきていないことを確認すると、修治の個室へといざなった。
軍部には、蓮華にそれぞれ個室が与えられている。
こんなときにそれがあると、本当に便利だ。
梁瀬に椅子をすすめ、自分も腰をおろした。
「今日のやつらのことなんだが……」
「ああ、僕はチラッと見ただけですぐに砲台に向かったんだけど」
「穂高に聞いた。それより、術をかけられているように見えたって?」
「うーん……最初はね、そう思った。傀儡でもつかってるのかな、って」
うなずくいた梁瀬が顎をなでながら、なにかを思い出そうとするように数十秒考え込んでいる。
「でもねぇ、僕はあの国に、あんな術をつかえるほどの術師がいるって、聞いたことがないんだよ」
「そうか……」
「そんなにすごいやつがいたら、僕ら術師のあいだで話題にあがらないはずがないんだよね。どんなに頑張ったって、四、五体が限界だから」
「四、五体が限界?」
修治に向かってうなずいてみせた梁瀬は、慎重な口調で続けた。
「何人もの術師が動かしていた可能性もあるけど、そうなると動きにバラつきも出るだろうし、一万の兵に対して術師が約二千人じゃ、どう考えても効率が悪すぎるよね?」
そう問いかけられると、最もだと思う。
修治は組んだ手に額をおいて考えた。
数分ジッとしていて、梁瀬が黙ったままでいることに気づいた。
視線をあげると、梁瀬がやけに真面目な顔で修治を見ていた。
目が合うのを待っていたかのように、梁瀬がまた話し始めた。
「全員が限界までの人数を動かせるとは思えないし、浜辺まで距離もだいぶあったから動かせなくなる兵も当然でてくる。それに、あれは生きた人間だったよね」
「ああ。けどやつら、確実に仕留めたのに動いていやがった」
「もしかして洗脳かとも思ったんだけど、それでも、あんなに多くの人間を動かせるほどの術を使えるものがいるなんて、やっぱり僕は聞いたことがない」
「仮に強力な術師がいたとして、洗脳だけで死んだやつを動かせるものなのか?」
修治の問いかけに、梁瀬も身をのりだして答えてくれた。
「そう、そこなんだよね。いくらうまく洗脳したって、死んだらそこで終わり。ゾンビでもあるまいし、また起きあがってくるなんてことはあり得ない。死体を使った傀儡だとも考えられるけど、あれだけきれいな状態で、あんなにも集めるのは相当難しいと思う」
「大陸じゃあ戦争にでもなれば、死体は山ほどでるだろうが、きっと一目見て、それとわかる状態だろうからな」
敵兵と向き合ったときのことを思い出す。
武器は古びていたけれど、体に欠損や傷のあった兵は絶対にいなかった。
それは修治自身の目で見てはっきりわかっている。
梁瀬は表情を曇らせ、肩をすくめて天井を見あげた。
「うん。あれが死体だとすると、あんな数を今日のためだけに集めたのか、だとしたらどうやって集めたのか、考えるだけでゾッとするね」
「そうだな。奇麗なままの大人ばかりの死体を国中から集めたって、一日やそこらじゃ……保管しているわけもないだろうし、傷つかないやり方で殺したってことか……」
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