ラスト・チケット

釜瑪 秋摩

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榎木 勝太

第4話 おれの四日目

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――四日目――

 どこにも行く気になれず、部屋でゴロゴロと過ごしていると、やけに外が騒々しい。
 起きあがって外にでてみると、アパートの周りにテレビのヤツらが来ている。

「なんだ? なんかの撮影でもあんのか?」

 そういやあ昔、アパートの近くの土手で、ドラマの撮影があったっけ。
 様子をみに近くまで行っていみると、大家さんがマイクを向けられていた。

――そうですね……働いてはいないようでしたけど、挨拶はしてくれるし、悪い人では……。

――でもですね、飲酒運転ですよね?

――まあ……お酒は……よく飲まれていたようですけど……。

「おい、なんだこりゃあ? おれのことか? おれのことを聞きに来たのか?」

 こういうシーンは、テレビのニュースで良く見る。
 事件や事故を起こしたヤツの近所や知り合いに、話を聞いているところだ。

「おれの事故がニュースになってんのか? なあ! おい!」

 カメラを持ったヤツや、その周辺のヤツらに聞いても、誰も答えない。
 撮影を辞めさせようとしても、すり抜けて止められない。
 乗り移って辞めさせようとしても、なぜか、乗り移ることができなかった。

 野次馬が集まってきて、遠巻きにみんながおれのアパートを見あげては、ヒソヒソとなにかを話している。
 おれはその場を逃げ出すと、駅前の家電量販店に入ってテレビの前を陣取った。

 たくさんのテレビが、昼のニュースを流している。
 しばらく待つと、あの事故のニュースが流れた。

 おれがぶつかった車は、そのまま信号待ちをしていた人波に突っ込んだらしい。
 玉突きで、ほかの車もひっくり返ったり、中央分離帯に衝突していた。
 何人もが亡くなっている。

「マジか……こんな事故になっていたなんて……」

 レポーターが飲酒運転が原因だと伝えていた。
 事故現場に置かれた献花台に訪れた人に、話を聞いたりしている。

 こんなに大ごとになっているとは、思いもしなかった。
 そりゃあ、万里加も逃げるだろう。

 全国に放送されるんだろうか?
 両親や兄弟も、見ているんだろうか?
 かつての女房たちも……。

 誰もが酷い事故だと、おれを許せないといっている。
 そんなことを言われても、おれだって事故を起こそうと思っていたワケじゃあない。
 今までだって、飲んだあとに運転しても、事故なんて起こさなかった。

――この事故、酷いね。飲酒運転とか、最悪じゃん?

――運転手も死んでるんだろ?

――そいつ、この近所に住んでいたらしいぜ。

 おれの後ろには、いつの間にか人だかりができている。
 みんな、口々におれを悪く言う。

「たっ……たまたまだろうが! 運が悪かっただけで、おれのせいじゃあねえ!」

 そうだ。
 おれがぶつかったのは、前の車だけじゃあないか。
 歩道に突っ込んだのは、そいつが悪い。

 人が大勢死んだのも、そいつのせいで、おれのせいじゃあない。
 そう叫んでみても、誰も聞いちゃあいない。
 さっきのニュースで事故の検証をした説明を、アナウンサーがしていたんだから、おれが悪いんじゃあないとわかるよな?

 おれは必死に言いわけをしているのに、どこにも届かないのがもどかしい。
 テレビではおれの名前まで流れた。
 最近じゃあ、ニュースで名前が流れることは少ないと思っていたけれど、そうじゃあないのか?

 こんなふうに人の悪意を肌で感じたのは、昔……最初の就職先に勤めていたとき以来だ。
 たまに喧嘩をしたり、馬の合わないヤツと言い争ったりしても、ここまで悪意を持ってみられたことはない。
 おれは急いでその場を離れ、街なかを闇雲に走った。

 パチンコなんて行く気にもなれず、アパートにはまだテレビのヤツらがいるかもしれない。
 人けのない場所を探して、たどり着いたのはアパートの近くの土手だ。
 薄暗くなっていく中、人の姿が少なくなると、おれは重い腰をあげて、物陰からアパートの様子を窺った。

「さすがにもう帰ったか……」

 誰もいなくなったアパートに、見えもしないのにこっそりと戻り、息をひそめて部屋で横になった。
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