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第7話 酒場にて④ ルーク視点
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王妃はともかく、あの兄上が長年、次期王妃になるべく教育を受けた由緒正しき公爵令嬢であるシルヴィア嬢を捨てて、ぽっと出の男爵令嬢をフィリップの新たな婚約者として認めるはずがないと思うけれど……。
王族と婚約するには身分の釣り合いが取れないし、下級貴族と上級貴族では学ぶマナーが違うから王太子妃ひいては王妃としてどこに出しても恥ずかしくない程度にマナーを身につけるには長期間勉強することを覚悟しなければならない。
また、国に貢献するような大きな功績を打ち立てた訳でもない。
国に貢献するような功績があるのなら、王族の結婚相手として認められてもおかしな話ではないが、そのような話は聞かない。
国に貢献した功績は国王陛下直々に大々的に式典を行って表彰するから、そんな表彰があれば僕が知らないということは考えにくい。
身分の釣り合いに関しては、侯爵家や公爵家に養子縁組すれば解決するが、シルヴィア嬢の実家であるローランズ公爵家を敵に回す危険を冒してまで養子縁組する価値が果たしてその男爵令嬢にあるのか疑問だ。
それに、仮にフィリップが兄上に話をした上で認めたという話が本当なら、フィリップが要らぬ騒動を起こす前に内密にローランズ公爵夫妻とシルヴィア嬢を呼び出して婚約解消の手続きをするはずだ。
シルヴィア嬢の話を聞いているとどうにも事前にそんな根回しは行われた様子はない。
……ということは十中八九フィリップの独断で、兄上夫妻が認めているということにしたのだろう。
王太子が実際に国王夫妻が言っていないことを言ったことにするということも、王太子としてはあってはならないことだ。
国王陛下の意思を捻じ曲げて公の場で伝えるのは言語道断である。
そう思ったけれど、今は彼女の話を聞くことが先だ。
「理不尽って具体的には?」
「わたくしは小さい頃からぁ~ず~っと勉強やマナーのレッスンを受けさせられてぇ~ちょっとでも間違えば厳しい叱責~。それなのに婚約者はぁ~婚約者のお母様に甘やかされているからぁ~そんなレッスンをどれだけさぼってもぉ~なんのお咎めもなしぃ~」
……心当たりはある。
客観的に見ても義姉上はフィリップを甘やかし過ぎだ。
数年前、一度フィリップの家庭教師が彼の勉強の進捗状況を義姉上に報告しているところにたまたま遭遇したが、”フィリップが勉強をさぼってばかりだから全然進まない。だから王妃殿下からフィリップに勉強するよう注意をして欲しい”と言っても、”フィリップは勉強しなくてもいいのよ。周囲を賢い者で固めたら良いのだから”と返答していた。
それを許したら、フィリップが国王に即位した時、その周囲の者にとって都合の良い傀儡の王になりかねない。
その時、僕はそう思ったが、彼女から今の話を聞いてフィリップの代わりにシルヴィア嬢に徹底的に王家の教育を仕込む方針だったのだと今更ながら理解した。
「我が家が望んだ婚約でもないのにぃ~、厳しいレッスンと理不尽に耐えた結果がぁ~婚約者の浮気と婚約破棄なんてぇ~やってられないわぁ~。婚約破棄された娘なんてぇ~実家にも迷惑がかかるしぃ~しかもあの婚約者と婚約破棄されたわたくしには~条件の良い縁談なんてもう望めないだろうし……。……という訳でぇ~ヤケ酒でもしようかな~と。マスタぁ~、次はミモザをちょーだい」
彼女の注文したミモザが彼女の目の前に音も立てずスッと置かれる。
華奢なフルートグラスに注がれた黄色で無数の小さな泡がシュワシュワと立ち上っているそのカクテルはいかにも若い女の子が好きそうなものだ。
彼女の説明からするとヤケ酒するのも納得する。
しかも自分の身内がしでかしたことが原因だから、余計に申し訳なく感じる。
「ん~! 美味しい!! 私のことは話したからぁ~次はお兄さんの話が聞きたいなぁ~。お兄さんはどうしてここに~?」
「お兄さんじゃなくて、僕のことはルークって呼んでよ」
「ルーク?」
「うん。差し支えがなければで構わないけれど、もし良かったら君の名前も教えてくれる?」
「私はシルヴィア。ここで会ったのも何かの縁ということでぇ~、ルークは特別にぃ~シルヴィって呼んでいいよぉ~」
お酒に酔ってとろんとしたアメジストのような紫の瞳を向けてくるシルヴィア嬢に僕の心がドクンと跳ねた。
王族と婚約するには身分の釣り合いが取れないし、下級貴族と上級貴族では学ぶマナーが違うから王太子妃ひいては王妃としてどこに出しても恥ずかしくない程度にマナーを身につけるには長期間勉強することを覚悟しなければならない。
また、国に貢献するような大きな功績を打ち立てた訳でもない。
国に貢献するような功績があるのなら、王族の結婚相手として認められてもおかしな話ではないが、そのような話は聞かない。
国に貢献した功績は国王陛下直々に大々的に式典を行って表彰するから、そんな表彰があれば僕が知らないということは考えにくい。
身分の釣り合いに関しては、侯爵家や公爵家に養子縁組すれば解決するが、シルヴィア嬢の実家であるローランズ公爵家を敵に回す危険を冒してまで養子縁組する価値が果たしてその男爵令嬢にあるのか疑問だ。
それに、仮にフィリップが兄上に話をした上で認めたという話が本当なら、フィリップが要らぬ騒動を起こす前に内密にローランズ公爵夫妻とシルヴィア嬢を呼び出して婚約解消の手続きをするはずだ。
シルヴィア嬢の話を聞いているとどうにも事前にそんな根回しは行われた様子はない。
……ということは十中八九フィリップの独断で、兄上夫妻が認めているということにしたのだろう。
王太子が実際に国王夫妻が言っていないことを言ったことにするということも、王太子としてはあってはならないことだ。
国王陛下の意思を捻じ曲げて公の場で伝えるのは言語道断である。
そう思ったけれど、今は彼女の話を聞くことが先だ。
「理不尽って具体的には?」
「わたくしは小さい頃からぁ~ず~っと勉強やマナーのレッスンを受けさせられてぇ~ちょっとでも間違えば厳しい叱責~。それなのに婚約者はぁ~婚約者のお母様に甘やかされているからぁ~そんなレッスンをどれだけさぼってもぉ~なんのお咎めもなしぃ~」
……心当たりはある。
客観的に見ても義姉上はフィリップを甘やかし過ぎだ。
数年前、一度フィリップの家庭教師が彼の勉強の進捗状況を義姉上に報告しているところにたまたま遭遇したが、”フィリップが勉強をさぼってばかりだから全然進まない。だから王妃殿下からフィリップに勉強するよう注意をして欲しい”と言っても、”フィリップは勉強しなくてもいいのよ。周囲を賢い者で固めたら良いのだから”と返答していた。
それを許したら、フィリップが国王に即位した時、その周囲の者にとって都合の良い傀儡の王になりかねない。
その時、僕はそう思ったが、彼女から今の話を聞いてフィリップの代わりにシルヴィア嬢に徹底的に王家の教育を仕込む方針だったのだと今更ながら理解した。
「我が家が望んだ婚約でもないのにぃ~、厳しいレッスンと理不尽に耐えた結果がぁ~婚約者の浮気と婚約破棄なんてぇ~やってられないわぁ~。婚約破棄された娘なんてぇ~実家にも迷惑がかかるしぃ~しかもあの婚約者と婚約破棄されたわたくしには~条件の良い縁談なんてもう望めないだろうし……。……という訳でぇ~ヤケ酒でもしようかな~と。マスタぁ~、次はミモザをちょーだい」
彼女の注文したミモザが彼女の目の前に音も立てずスッと置かれる。
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「ルーク?」
「うん。差し支えがなければで構わないけれど、もし良かったら君の名前も教えてくれる?」
「私はシルヴィア。ここで会ったのも何かの縁ということでぇ~、ルークは特別にぃ~シルヴィって呼んでいいよぉ~」
お酒に酔ってとろんとしたアメジストのような紫の瞳を向けてくるシルヴィア嬢に僕の心がドクンと跳ねた。
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