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第3話 翌朝
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「う、う~ん……」
例のフィリップの誕生日パーティーの翌日。
シルヴィアはぼんやりとした頭で眠気眼を開けたら、見覚えのない美青年の顔が至近距離で視界に入り込んで来た。
上等な絹糸のようなさらさらとした長めの綺麗な銀髪に、深い海のような青い瞳。
陶器のようなすべすべした真っ白な頬に、血色の良い綺麗な形の薄い唇。
それぞれ顔の一級品のパーツが完璧な位置に配置され、女神様も裸足で逃げ出すかのような圧倒的な美しさである。
シルヴィアは彼のことは見覚えはなかったけれど、ここまで美しい美青年は初めてお目にかかった。
このレベルの顔立ちだと一度お目にかかったらそうそう忘れる訳がない。
朝から至近距離での美青年の微笑みは心臓にとても悪い。
シルヴィアは寝ぼけてぼんやりしていたが、急に頭が覚醒状態になる。
「あっ、起きたんだね。おはよう」
「お、おはようございます……」
シルヴィアは胸をドキドキさせながら美青年におはようの挨拶を返す。
(美青年は声まで美声なのね……朝から心臓に悪すぎるわ)
状況から察するに、どうやらシルヴィアはこの美青年と同じベットで同衾していたようである。
美青年の方もシルヴィアよりも先に目が覚めた様だが、シルヴィアの隣でシルヴィアと同じベッドに横になっている。
そこまで頭が回ったところで、シルヴィアははっと我に返る。
美青年と同じベッドで、彼と一緒に横になっているという今の状況は貴族令嬢として呑気にしていられるような状況ではないからだ。
(ふ、服は……良かった、着てる! 薄手のふりふりなネグリジェだけど。でもこの人、下半身はともかく上半身は裸……! 細いけれど、腹筋もしっかり割れてて……ってそうじゃなくて! も、もしかして……一夜の過ちとか言うのをやっちゃったのかしら? 何も覚えてないから、怖くて聞きたくないけれどこの人に聞かないと……)
シルヴィアは全身から変な汗をだらだらと流しながら、赤くなったり、真っ青になったりと表情がせわしなく変わる。
「忙しなく色々考えてることは何となく想像がつくけれど、まず、二日酔いは大丈夫? 僕が見ていた限り、君はかなり飲んでいたようだったけれど……」
「二日酔いは……」
シルヴィアは大丈夫と続けようとした矢先にズキッと頭が痛む。
「……大丈夫じゃなさそうだね。二日酔いの薬は朝食の後にあげるから飲んでね」
「すみません、ありがとうございます」
シルヴィアは美青年にお礼を言い、意を決して昨夜のことを尋ねる。
「それで、私、昨日酒場に行って一人で飲んでいたところまでしか覚えてないのですが、まずあなたのお名前をお伺いしても?」
「あれだけ名前を呼ばせたのに覚えてないなんて酷いな、シルヴィ」
美青年はわざとらしく芝居がかったような言い回しをするが、それどころではない。
「シ、シルヴィですって!?」
シルヴィアは家族を含め本当に親しい極少数の者にしかシルヴィと呼ばせていない。
それが昨夜会ったばかりで、しかも記憶にない美青年にそう呼ぶよう言ったなんて考えにくい。
「言っておくけれど、僕がそう呼びたいと言ったんじゃなくて君の方からそう呼んでと言ってきたんだからね? シルヴィア嬢。因みにローランズ公爵家には僕から既に君を一晩我が屋敷で預かると連絡を入れてるから、君がローランズ公爵邸のどこにもいないという騒ぎにはなっていないはずだよ」
「それはお手数をお掛けしました。こっそり屋敷を抜け出して、帰りもこっそり屋敷に戻ろうと思っていましたので、あなたが連絡して下さらなかったら、家族に要らぬ心配をかけるところでした。ありがとうございます。……って、あなたのお名前!」
「僕はルーク。家名は今の時点では内緒。家名は言えないけれど、れっきとした貴族でどこの馬の骨とも知らない者ではないから安心してよ」
家名は言えないが、れっきとした貴族と言うルークをシルヴィアは胡散臭いとは思ったが、それよりも昨夜の出来事を把握したい気持ちが勝り、胡散臭いという点はとりあえず今はスルーすることにした。
「ルーク様……ですか。申し訳ありませんが、昨夜の出来事について教えて頂けませんか?」
「やだなぁ、僕のことはルークって呼んでよ。ルークって呼ばなきゃ昨夜のことは教えてあげないよ?」
ルークはどことなく意地悪な表情で敬称なしで呼ぶことを強要してくる。
(これ、ルークと呼ぶまで返事しないパターンだわ)
すぐそう気づいたシルヴィアは無駄な抵抗は諦め、すぐに彼のお望みの呼び方で彼を呼んだ。
「わかりましたわ、ルーク。教えて下さい」
ルークはシルヴィアが自分の名を呼んだことに満足し、にっこりと笑う。
「わかった。じゃあ教えてあげる、昨夜のことを」
そしてルークは昨夜のことをシルヴィアに語り始める――。
例のフィリップの誕生日パーティーの翌日。
シルヴィアはぼんやりとした頭で眠気眼を開けたら、見覚えのない美青年の顔が至近距離で視界に入り込んで来た。
上等な絹糸のようなさらさらとした長めの綺麗な銀髪に、深い海のような青い瞳。
陶器のようなすべすべした真っ白な頬に、血色の良い綺麗な形の薄い唇。
それぞれ顔の一級品のパーツが完璧な位置に配置され、女神様も裸足で逃げ出すかのような圧倒的な美しさである。
シルヴィアは彼のことは見覚えはなかったけれど、ここまで美しい美青年は初めてお目にかかった。
このレベルの顔立ちだと一度お目にかかったらそうそう忘れる訳がない。
朝から至近距離での美青年の微笑みは心臓にとても悪い。
シルヴィアは寝ぼけてぼんやりしていたが、急に頭が覚醒状態になる。
「あっ、起きたんだね。おはよう」
「お、おはようございます……」
シルヴィアは胸をドキドキさせながら美青年におはようの挨拶を返す。
(美青年は声まで美声なのね……朝から心臓に悪すぎるわ)
状況から察するに、どうやらシルヴィアはこの美青年と同じベットで同衾していたようである。
美青年の方もシルヴィアよりも先に目が覚めた様だが、シルヴィアの隣でシルヴィアと同じベッドに横になっている。
そこまで頭が回ったところで、シルヴィアははっと我に返る。
美青年と同じベッドで、彼と一緒に横になっているという今の状況は貴族令嬢として呑気にしていられるような状況ではないからだ。
(ふ、服は……良かった、着てる! 薄手のふりふりなネグリジェだけど。でもこの人、下半身はともかく上半身は裸……! 細いけれど、腹筋もしっかり割れてて……ってそうじゃなくて! も、もしかして……一夜の過ちとか言うのをやっちゃったのかしら? 何も覚えてないから、怖くて聞きたくないけれどこの人に聞かないと……)
シルヴィアは全身から変な汗をだらだらと流しながら、赤くなったり、真っ青になったりと表情がせわしなく変わる。
「忙しなく色々考えてることは何となく想像がつくけれど、まず、二日酔いは大丈夫? 僕が見ていた限り、君はかなり飲んでいたようだったけれど……」
「二日酔いは……」
シルヴィアは大丈夫と続けようとした矢先にズキッと頭が痛む。
「……大丈夫じゃなさそうだね。二日酔いの薬は朝食の後にあげるから飲んでね」
「すみません、ありがとうございます」
シルヴィアは美青年にお礼を言い、意を決して昨夜のことを尋ねる。
「それで、私、昨日酒場に行って一人で飲んでいたところまでしか覚えてないのですが、まずあなたのお名前をお伺いしても?」
「あれだけ名前を呼ばせたのに覚えてないなんて酷いな、シルヴィ」
美青年はわざとらしく芝居がかったような言い回しをするが、それどころではない。
「シ、シルヴィですって!?」
シルヴィアは家族を含め本当に親しい極少数の者にしかシルヴィと呼ばせていない。
それが昨夜会ったばかりで、しかも記憶にない美青年にそう呼ぶよう言ったなんて考えにくい。
「言っておくけれど、僕がそう呼びたいと言ったんじゃなくて君の方からそう呼んでと言ってきたんだからね? シルヴィア嬢。因みにローランズ公爵家には僕から既に君を一晩我が屋敷で預かると連絡を入れてるから、君がローランズ公爵邸のどこにもいないという騒ぎにはなっていないはずだよ」
「それはお手数をお掛けしました。こっそり屋敷を抜け出して、帰りもこっそり屋敷に戻ろうと思っていましたので、あなたが連絡して下さらなかったら、家族に要らぬ心配をかけるところでした。ありがとうございます。……って、あなたのお名前!」
「僕はルーク。家名は今の時点では内緒。家名は言えないけれど、れっきとした貴族でどこの馬の骨とも知らない者ではないから安心してよ」
家名は言えないが、れっきとした貴族と言うルークをシルヴィアは胡散臭いとは思ったが、それよりも昨夜の出来事を把握したい気持ちが勝り、胡散臭いという点はとりあえず今はスルーすることにした。
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「やだなぁ、僕のことはルークって呼んでよ。ルークって呼ばなきゃ昨夜のことは教えてあげないよ?」
ルークはどことなく意地悪な表情で敬称なしで呼ぶことを強要してくる。
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「わかりましたわ、ルーク。教えて下さい」
ルークはシルヴィアが自分の名を呼んだことに満足し、にっこりと笑う。
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