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開戦
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レイは八京へ斬りかかった。そのスピードは凄まじく、すでに八京の目の前にいた。
レイの斬り落とした剣を八京は大きな黒刀で受ける。二人の剣と剣がぶつかった瞬間、風圧がテント中に吹き荒れた。
「やるね。一撃でやられるところだったよ」
「そんなこと言って。オタク、まだまだ全然余裕じゃないか」
「そんなことないさ。こんなに真剣になったのはドラゴンと戦った時以来だよ」
「じゃあ俺はドラゴンと同等以上ってことかな?」
「それは君次第さ」
二人は会話をしながら斬り合っている。それはお互いの技量を確かめながら、少しずつ自身の攻撃のスロットルを上げているように見えた。そして、斬り合っているにも関わらず二人は戦いを楽しんでいるようにも見える。
「……ふ、二人とも凄い……」
ナオキには二人の戦いを目で追うのが精一杯だった。
「観戦中申し訳ないけど、キミには私と戦ってもらうよ。お互い、手持無沙汰だろう?」
ジュダが剣を握ってこちらへ歩いてきていた。八京とレイの戦いに夢中になってジュダの存在を忘れていた。
「ジュダさん……」
「あそこまで啖呵を切ったんだ。嫌とは言わせない」
ジュダは剣を構える素振りも見せずにいきなりナオキへ向かってきた。その体制は低く、速く、ナオキが剣を構える前にジュダは剣を薙ぎ払っていた。
「っ!!」
寸でのところでナオキは後ろへ躱したが剣先がナオキの腹を掠めた。
「いい反応だ。流石リスタ」
ジュダはゆっくり構えながら嬉しそうに言った。
「ジュ、ジュダさんこそ。動き、速すぎませんか?」
ナオキもつられて剣を構えた。いつさっきのような攻撃を受けてもいいように心も体も警戒をしている。
「そりゃそうだ。そうでなきゃここまでの地位にはいない」
「なるほど、出来れば手を抜いてもらえると嬉しいんですけど」
マジでお願いします
「それは無理だ。君は軍規に違反している。私も軍人でね、不本意ながら本気で行かせてもらうよ」
そう言ったジュダの表情は、不本意とは全く受け取れない嬉々とした表情だった。
「私は仕事をサッサと終わらせてゆっくりしたい人間なんだ。ナオキ君には悪いが、この仕事もサッサと終わらせてもらうよ」
今度はナオキの方へ飛びながら剣を振りかぶり、ナオキの脳天目掛けて振り下ろしてきた。
ジュダから振り下ろされた剣をナオキは自らの剣で受け止め、そこから振りぬきジュダを後方へ振り飛ばした。
今度はナオキがジュダへ切りかかった。勿論、ジュダを殺すつもりはない。ジュダを動けなくすればそれでいい。
ナオキが剣を振る度、ジュダの剣がぶつかり合う。また、ジュダが剣を振る度、ナオキの剣がぶつかった。
――強い――
ジュダと剣を交える度ナオキは思った。
先程のゾーラ達3人との戦闘より遥かにジュダとの戦闘はナオキの神経をすり減らした。
「ナオキ君、やっぱり君は筋が良い。八京が一目置くだけのことはある。どうだい? 怪我をする前に今からでもこっちに付かないかい?」
「ありがとうございます。でもオレも男なんで、何度も友人を裏切れませんよ」
「ほう? 過去には友を裏切ったことがあると?」
しまった。失言だった。
「さ、さぁ。どうでしょう? ただ、今回のことは貫き通します」
「それは残念だ。なら仕方がない。最悪、殺してしまったとしても諦めるとしよう」
ジュダの剣が速くなった。今までは手を抜いていたのか? いや、そうではない。明らかに先ほどとジュダの雰囲気が違った。ナオキを斬ることにしたのだ。その覚悟がジュダの剣をより強いモノにした。
ジュダの覚悟に比べてナオキはジュダを斬ることを恐れていた。多少の怪我は問題ないが、一歩間違えばジュダを殺してしまう。そのことがナオキの剣を鈍らせていた。
その差はジリジリとナオキを追い込んでいった。今まではお互い攻守が入れ替わっていたが、今ではナオキは防戦一方だ。気を抜けば一撃でナオキは死ぬかもしれない。そんな恐怖が脳裏をよぎるとナオキはジュダへの攻撃を躊躇し、ただ自分の身を守るだけになってしまった。
「どうした? さっきと違って動きが鈍いぞ?」
「くっ!」
わかっている。ジュダの一瞬の間を付いて踏み込まなければいけないことを。でもその一瞬の判断を誤ればその先は――
ナオキは今自分の死と隣り合わせの状況を実感し恐怖を感じていた。ジュダよりもゾーラのほうがナオキに向ける殺気や憎悪は大きかった。だがゾーラ達よりジュダのほうが恐ろしかった。理由は簡単だ。ゾーラ達はナオキより弱かったからだ。3人に斬りかかられ、魔法を放たれたが、ナオキは心のどこかでまだ余裕があった。それがいい方へと働き、ゾーラ達を倒せた。だがジュダは強かった。おそらく実力ではナオキのほうが優っているだろう。だが、その差を埋め、更に実力を逆転させるのにジュダの覚悟は充分なものだった。
「何やってんだナオキ! もっと攻めろ!」
八京との斬り合いの中、レイが声を掛ける。
わかってる。けどそれが出来ないんだ。クソ、さっきの戦いでは出来たのに。どうすればいいんだ……
ジュダを殺すリスクが無くて勝つ方法……そんな都合が良い方法があるだろうか? ナオキは必死に考えた。
オレが本気で斬りかかれば勝てるかもしれない。けど、ジュダさんがどうなるか分からない。考えが甘いのは分かってる、だけど……
「ナオキ! さっきから何やってんだ。守ってばっかりじゃいずれやられるぞ」
「わかってる。でも……」
「でもじゃねぇだろ。お前、何のために戦ってるんだ! 目的を見失うな! って、うわっ――」
「話に集中してると君が怪我をするよ。もっとも、僕としてはそっちのほうが助かるけどね」
「俺がそんなヘマをするかよ。こっちのほうもしっかり集中してるよ。じゃなきゃアンタ、マジでヤベェからな」
「それはありがとう。君も僕の予想以上だよ。本来ならもう決着をつけてナオキ君を止めてる予定なんだけどね」
「そんなことにはならねぇよ。何故なら俺がアンタを倒してナオキもアイツを倒すからな」
「自信があるんだね?」
「当たり前だろ? じゃなきゃこんな危険な橋渡ってねぇ」
レイと八京は話しながらも剣を交える強さを弱めなかった。むしろその激しさは増していた。だがそんな二人の戦いをナオキは見る余裕が無かった。ジュダの攻撃を捌くので精一杯だった。
「ナオキ、一体どうしちまったんだ? 何で責めない!」
苛立つようにレイが言った。
「……こ、怖いんだ」
「はぁ?」
「ここに来る前に戦った時はある程度加減が出来た。けど今はそれが出来ない。もし本気の一撃でジュダさんにもしものことがあったらッて思うと……」
「ふん。私も随分と舐められたもんだ」
「ナオキお前、そんなこと考えながら戦ってたのかよ……」
「仕方ないだろ。戦ってても相手を殺したくないんだから」
「いいか!? 戦いの最中は全力で相手を倒すことだけを考えろ! でないとお前が殺されちまうぞ!」
「それは僕のセリフだよ――」
話に意識がいったレイを八京は見逃さなかった。八京の剣がレイの左腕を貫いた。
レイの斬り落とした剣を八京は大きな黒刀で受ける。二人の剣と剣がぶつかった瞬間、風圧がテント中に吹き荒れた。
「やるね。一撃でやられるところだったよ」
「そんなこと言って。オタク、まだまだ全然余裕じゃないか」
「そんなことないさ。こんなに真剣になったのはドラゴンと戦った時以来だよ」
「じゃあ俺はドラゴンと同等以上ってことかな?」
「それは君次第さ」
二人は会話をしながら斬り合っている。それはお互いの技量を確かめながら、少しずつ自身の攻撃のスロットルを上げているように見えた。そして、斬り合っているにも関わらず二人は戦いを楽しんでいるようにも見える。
「……ふ、二人とも凄い……」
ナオキには二人の戦いを目で追うのが精一杯だった。
「観戦中申し訳ないけど、キミには私と戦ってもらうよ。お互い、手持無沙汰だろう?」
ジュダが剣を握ってこちらへ歩いてきていた。八京とレイの戦いに夢中になってジュダの存在を忘れていた。
「ジュダさん……」
「あそこまで啖呵を切ったんだ。嫌とは言わせない」
ジュダは剣を構える素振りも見せずにいきなりナオキへ向かってきた。その体制は低く、速く、ナオキが剣を構える前にジュダは剣を薙ぎ払っていた。
「っ!!」
寸でのところでナオキは後ろへ躱したが剣先がナオキの腹を掠めた。
「いい反応だ。流石リスタ」
ジュダはゆっくり構えながら嬉しそうに言った。
「ジュ、ジュダさんこそ。動き、速すぎませんか?」
ナオキもつられて剣を構えた。いつさっきのような攻撃を受けてもいいように心も体も警戒をしている。
「そりゃそうだ。そうでなきゃここまでの地位にはいない」
「なるほど、出来れば手を抜いてもらえると嬉しいんですけど」
マジでお願いします
「それは無理だ。君は軍規に違反している。私も軍人でね、不本意ながら本気で行かせてもらうよ」
そう言ったジュダの表情は、不本意とは全く受け取れない嬉々とした表情だった。
「私は仕事をサッサと終わらせてゆっくりしたい人間なんだ。ナオキ君には悪いが、この仕事もサッサと終わらせてもらうよ」
今度はナオキの方へ飛びながら剣を振りかぶり、ナオキの脳天目掛けて振り下ろしてきた。
ジュダから振り下ろされた剣をナオキは自らの剣で受け止め、そこから振りぬきジュダを後方へ振り飛ばした。
今度はナオキがジュダへ切りかかった。勿論、ジュダを殺すつもりはない。ジュダを動けなくすればそれでいい。
ナオキが剣を振る度、ジュダの剣がぶつかり合う。また、ジュダが剣を振る度、ナオキの剣がぶつかった。
――強い――
ジュダと剣を交える度ナオキは思った。
先程のゾーラ達3人との戦闘より遥かにジュダとの戦闘はナオキの神経をすり減らした。
「ナオキ君、やっぱり君は筋が良い。八京が一目置くだけのことはある。どうだい? 怪我をする前に今からでもこっちに付かないかい?」
「ありがとうございます。でもオレも男なんで、何度も友人を裏切れませんよ」
「ほう? 過去には友を裏切ったことがあると?」
しまった。失言だった。
「さ、さぁ。どうでしょう? ただ、今回のことは貫き通します」
「それは残念だ。なら仕方がない。最悪、殺してしまったとしても諦めるとしよう」
ジュダの剣が速くなった。今までは手を抜いていたのか? いや、そうではない。明らかに先ほどとジュダの雰囲気が違った。ナオキを斬ることにしたのだ。その覚悟がジュダの剣をより強いモノにした。
ジュダの覚悟に比べてナオキはジュダを斬ることを恐れていた。多少の怪我は問題ないが、一歩間違えばジュダを殺してしまう。そのことがナオキの剣を鈍らせていた。
その差はジリジリとナオキを追い込んでいった。今まではお互い攻守が入れ替わっていたが、今ではナオキは防戦一方だ。気を抜けば一撃でナオキは死ぬかもしれない。そんな恐怖が脳裏をよぎるとナオキはジュダへの攻撃を躊躇し、ただ自分の身を守るだけになってしまった。
「どうした? さっきと違って動きが鈍いぞ?」
「くっ!」
わかっている。ジュダの一瞬の間を付いて踏み込まなければいけないことを。でもその一瞬の判断を誤ればその先は――
ナオキは今自分の死と隣り合わせの状況を実感し恐怖を感じていた。ジュダよりもゾーラのほうがナオキに向ける殺気や憎悪は大きかった。だがゾーラ達よりジュダのほうが恐ろしかった。理由は簡単だ。ゾーラ達はナオキより弱かったからだ。3人に斬りかかられ、魔法を放たれたが、ナオキは心のどこかでまだ余裕があった。それがいい方へと働き、ゾーラ達を倒せた。だがジュダは強かった。おそらく実力ではナオキのほうが優っているだろう。だが、その差を埋め、更に実力を逆転させるのにジュダの覚悟は充分なものだった。
「何やってんだナオキ! もっと攻めろ!」
八京との斬り合いの中、レイが声を掛ける。
わかってる。けどそれが出来ないんだ。クソ、さっきの戦いでは出来たのに。どうすればいいんだ……
ジュダを殺すリスクが無くて勝つ方法……そんな都合が良い方法があるだろうか? ナオキは必死に考えた。
オレが本気で斬りかかれば勝てるかもしれない。けど、ジュダさんがどうなるか分からない。考えが甘いのは分かってる、だけど……
「ナオキ! さっきから何やってんだ。守ってばっかりじゃいずれやられるぞ」
「わかってる。でも……」
「でもじゃねぇだろ。お前、何のために戦ってるんだ! 目的を見失うな! って、うわっ――」
「話に集中してると君が怪我をするよ。もっとも、僕としてはそっちのほうが助かるけどね」
「俺がそんなヘマをするかよ。こっちのほうもしっかり集中してるよ。じゃなきゃアンタ、マジでヤベェからな」
「それはありがとう。君も僕の予想以上だよ。本来ならもう決着をつけてナオキ君を止めてる予定なんだけどね」
「そんなことにはならねぇよ。何故なら俺がアンタを倒してナオキもアイツを倒すからな」
「自信があるんだね?」
「当たり前だろ? じゃなきゃこんな危険な橋渡ってねぇ」
レイと八京は話しながらも剣を交える強さを弱めなかった。むしろその激しさは増していた。だがそんな二人の戦いをナオキは見る余裕が無かった。ジュダの攻撃を捌くので精一杯だった。
「ナオキ、一体どうしちまったんだ? 何で責めない!」
苛立つようにレイが言った。
「……こ、怖いんだ」
「はぁ?」
「ここに来る前に戦った時はある程度加減が出来た。けど今はそれが出来ない。もし本気の一撃でジュダさんにもしものことがあったらッて思うと……」
「ふん。私も随分と舐められたもんだ」
「ナオキお前、そんなこと考えながら戦ってたのかよ……」
「仕方ないだろ。戦ってても相手を殺したくないんだから」
「いいか!? 戦いの最中は全力で相手を倒すことだけを考えろ! でないとお前が殺されちまうぞ!」
「それは僕のセリフだよ――」
話に意識がいったレイを八京は見逃さなかった。八京の剣がレイの左腕を貫いた。
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