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魔王討伐の結果
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「――って言うかナオキ! 何で何にも言い返さなかったの! そんなんだから馬鹿にされるのよ!」
明日香は話の矛先をナオキへ向けた。
「い、いや~。あの人たちに圧倒されちゃってさ、言葉が出てこなくって……」
正確にはナオキの頭の中は真っ白になっていた。召喚する前、玲といじめを受けていたあの頃の記憶がフラッシュバックして蘇ったのだ。暴力こそ受けなかったがあの悪意に満ちた目を向けられると身体が硬直し何も考えられなくなってしまう。
「センパイ。大丈夫ですか? 顔色悪いですし汗かいてますよ?」
ナオキの変化に気が付いたルカがナオキを気遣う。
「あぁ、大丈夫。疲れただけだよ。ありがとう」
「ナオキ君、休憩所までもう少しだけど行けるかい? 何なら少し休んでもいいけど……」
八京もナオキを気遣う。だが、これ以上みっともないところを周りに見せたくはなかった。
「本当に大丈夫ですよ。休憩所までなら行けます」
「そうかい? でも無理しないで何かあったら言ってくれよ」
尚も心配して八京は言った。
「寝不足で疲れてるだけでしょ? まったく、もっとしっかりしなさいよ! さっきの奴ら、ナオキの事見下してたのよ!? 悔しくないの?」
「そりゃ悔しいけど、オレまだ何にも出来てないから……明日香みたいに気も強く無いし」
「そういうところが駄目なのよ! 何も出来てなくったって悔しいなら少しは言い返しなさいよ! これから先、ずーーーーーーっとあんな奴らに見下されて馬鹿にされてもいいの?」
明日香の口調に熱がこもってくる。それだけさっきの人間に怒りを感じているのだ。
「あのさ、君の言うあんな奴らの上司がここにいるんで、もうそのくらいにしてもらえるかな? あぁいう連中でも私のカワイイ部下なんでね」
すっかり存在を忘れていた。今回の訓練の責任者が今ここにいた。ジュダに言われて明日香も言い過ぎたと感じたのだろう。言葉に詰まっている。
「とはいえ、確かに彼らの言動には目を余るものがある。彼らの上司として謝罪させてもらう。彼らには後で私から注意はしておく。それでいいかい? 元気なお嬢さん?」
「ま、まぁ上司の人がそう言ってくれるならいいけど……でも厳しく注意してやってくださいね」
「ハハハ、わかったよ。キツク言っておくから大丈夫」
ジュダの言葉を受けて明日香も何とか落ち着いたようだ。
「いや~、ウチの部下がホント申し訳なかった。八京にもそっちの新人君たちにも不快な思いをさせてしまった」
軽い口調だったが、ジュダは八京に頭を下げた。
「そんな、気にしないでください。でも、頭を下げるなら途中で止めてくれても良かったんじゃないですか?」
確かに……
スグ近くにいたならいつでも止めることが出来たハズだ。それをしなかった理由は……
「だって、彼らがリスタに対してどう思ってるか確認しときたかったんだ。私の前だとなかなか本性出さなくてね」
悪びれることも無くジュダは言い放った。その姿には清々しさすら感じられる。八京はそんなジュダに呆れていた。
「まったく……ホントに人が悪い。僕だけならまだしも明日香さんやナオキ君、ルカさんまで巻き込んで」
「だからこうやって謝ってるだろ? それに、これ以上リスタへの嫌がらせを無くしたいんだったらそろそろ『剣聖』の件、前向きに考えてくれてもいいんじゃないか?」
八京の肩を叩きながらジュダは言った。こっちの人間にもかかわらず、ジュダと八京の関係は良好のようだ。
「またその話ですか。それは何度も断ってるじゃないですか。僕にはそんな大それた者になる資格はありませんよ」
「――ねぇ八京さん、その『剣聖』って何ですか? 私も聞いたこと無いんですけど……」
二人の会話に明日香が割って入る。『剣聖』確かにナオキも聞いたことが無い。
「あぁ、君たちはまだ知らないか……」
ジュダが説明をしてくれるらしい。どうやらリスタだからと言って接し方は変わらないようだ。
「『剣聖』って言うのは、我が国での称号なんだ。武器を使った国内最強の者が名乗れる。他にも体術を極めた『拳聖』。魔法のスペシャリストの『賢聖』。我が国の法を司る『憲聖』がある。それらを総称して『四聖天』と呼ばれてる。剣聖になればその権力は我々貴族を凌ぐほどだ。それも、帝国のみならず他国への影響もすさまじいモノがある。八京が剣聖になれば君たちリスタへの反応も変わってくるだろう」
「へぇ、剣聖って凄いんですね」
「八京さんなら当然よね」
「あの……や、八京さん。さ、流石です」
「勿論、剣聖の資格はかなり厳しいが、八京の実力・実績・人格どれをとっても申し分ないと私は考えている。これはガルシア隊長も同じだ。それなのに八京ときたら頑なに拒否をするんだ。一体何が不満なんだか……理解に苦しむよ」
ジュダの八京への信頼と評価は相当なもののようだ。それをよそに当の八京は浮かない顔をしていた。
「ジュダさんたちの提案は有難いんだけど、やっぱり僕には無理ですよ」
「無理なもんか。何が不安だ? 貴族たちの圧力か? そんなものは私や隊長が何とかする!」
「………………」
「……ひょっとしてムサシのことか?」
ムサシ……その名前を聞いた八京の表情が険しくなる。
ジュダはため息をついた。
「やはりな。でもあれはお前の責任じゃない。どうすることもできなかった。そんな中でお前は良くやってくれたじゃないか」
「それでも、あの時僕がもっと強ければあんなことにはならなかった……」
二人の周りの空気が重いものになる。
とてもムサシなる人物のことを訊ける雰囲気ではない。
「――そのムサシさんって誰なんですか?」
明日香だ
流石だ。八京のこととなると見境が無い。その鋼のメンタルがナオキには羨まし……くはなかった。
「え? あ、あぁ。ムサシはね、君たちと同じリスタなんだけど……」
ジュダはそこまで言って八京の顔を見た。どこまで説明していいのか八京の顔を伺っているようだ。
「ムサシさんは僕の師匠だった人だよ」
今度は八京自ら話し出した。
「だったって……どういうことですか?」
すかさず明日香が聞いてくる。
「……亡くなったんだ。大規模な討伐でね。その時は僕も一緒だったんだけど、ムサシさんも他の人たちも救えなかった……」
「え? そ、それってもしかして……」
ルカも思わず会話に入る。
「あぁ、八京以外の10000人が死んだ……全滅だ」
「そ、そんな……」
「八京を含めたリスタ4人、帝国騎士9000人、冒険者1000人の計10004人の精鋭で我が帝国始まって以来の魔王討伐に挑んだ。しかし結果はさっき言った通り。魔王とその配下に殺された」
ジュダの顔も沈んでいる。ジュダだけではない。明日香もルカも沈んだ顔をしている。もちろんナオキも……
「……あの戦場はとても悲惨だった……初めて僕たちが戦争をしているんだって実感した瞬間だったよ。今更だけど、魔王になんて挑まなかったほうが良かったんだ。そうすれば死なずに済んだ人たちが大勢いた……」
ナオキ達の周りだけ妙な静けさが包んでいる。そこだけどこか別の世界にいるようだ。
「だ、だけど悪い話ばっかりじゃない。八京が自身の最大の功績である、魔王の片腕を持ち帰ってきたんだ」
「え? 魔王の腕!? 八京さん、そこまで魔王を追い詰めたんですか!?」
「僕じゃない。ムサシさんの功績だよ。僕はその腕をもって逃げてきたんだ……」
「八京。魔王軍に挑んで生還しただけでも十分だ。それに魔王の腕1本で魔石何十いや、それ以上の価値があるか。更にあのムサシの剣まで持って帰ってきたんだ。お前は最悪の状況で最大の功績を残したんだ」
ジュダは大袈裟に声を挙げてこの場の雰囲気を変えようとしていた。
「ムサシさんの剣ってそんなに価値があるんですか?」
ナオキもこの場の空気を変えようとした。本当はもっと魔王の話を聞きたかったが更に空気が重くなるのは避けたかった。
「ん? あぁ、我が国で最高の剣だぞ。国宝と言ってもいい」
「そんなに凄い剣なんですね。オレも一度見てみたいなぁ」
「その剣なら今八京が持ってるじゃないか。背中のヤツがそうだぞ」
ジュダが八京の背中を指さしながら言った。
「え? ……ええええぇぇぇぇ!」
ナオキも明日香もルカも一斉に驚きの声を挙げた。
「や、八京さん。その剣ってそんなに凄いモノだったんですか?」
特別な剣だとは言っていたが、まさか魔王と戦った時に使用された剣だとは……しかも数か月前にはドラゴン討伐に時にも使われている。流石は八京だ。
「うん。魔王討伐から帰還した後、国王様から直々に渡されてね。断ろうとしたんだけど、王様の手前断ることもできなくって。ムサシさんの形見ってことも有るし大事に使ってるよ」
「その剣はかなり重くてな、ムサシや八京くらいしか使いこなせないんだよ。私なんか持ち上げるのがやっとなんだ」
やはり八京は帝国のトップクラスでは無くて最強剣士なのだ。そんな人に剣術を教えてもらっていることがナオキは誇らしく思えた。
「話は戻るけど、やっぱり剣聖は八京しかいないんだよ。国王様がその剣を渡したのも信頼の証だ」
尚もジュダは食い下がる。余程八京に剣聖になってほしいらしい。
「申し訳ありませんが僕には務まりません。それに、僕が剣聖になったらこういった訓練や討伐にもそんなに行けなくなる。そうしたら他のリスターターや騎士の負担も危険も増えてしまう。もうあの時みたいな惨劇は起こってほしくないんです……」
「八京さん……」
明日香の視線が八京にくぎ付けになっている。
あの時の惨劇……魔王討伐の事だろう。ガルシアも言っていたが、ドラゴン討伐も八京がいなかったらどうなっていたか分からなかっただろう。八京はリスタや国の兵士を想い剣聖にならないというのも納得がいった。
「……そうか……残念だがそこまで考えてくれているのならもう何も言うまい。八京。お前は自分の信じる道を進め! 私はそれを応援するぞ!」
八京の背中をバシバシ叩きながらジュダは笑った。
『自分の信じる道』ジュダの言った言葉が心に残る。ナオキの信じる道は一体何なのだろう? その答えは出ないが一つ分かっていることがある――
――玲の思いを忘れてはいけない――
玲がナオキに望んだもの。託した思い。それを忘れずにナオキはこれからを生きようと心に決めていた。
「何だか話し込んでしまったな。私は持ち場に戻るぞ。八京、まずは新人教育をしっかりやれよ」
「はい。しっかり育てますよ」
「あと新人たち。八京のようになれとは言わない、色々思うことはあると思うけど、自分の責務を精一杯やってもらいたい。簡単なことじゃ無いことは理解しているがよろしく頼む」
ナオキ達に頭を下げてジュダは言った。
「はい!」
「はい」
「は、はい」
ナオキ達の返事を聞いてジュダは前へ行った。
「みんな。この世界で任されたことを行うことも大切だけど、一番大事なものは自分の命だ。もし無理だと感じたら迷わず逃げてほしい。いいね? 僕は君たちに死んでほしくないんだ」
そうだ。八京の言う通り危険な時は逃げてもいいのだ。それを聞いたら幾分気持ちが楽になった。
「さぁ、休憩所が見えてきたよ。あそこで一休みしよう」
ようやく一休みできる……もう色々と限界だ。
明日香は話の矛先をナオキへ向けた。
「い、いや~。あの人たちに圧倒されちゃってさ、言葉が出てこなくって……」
正確にはナオキの頭の中は真っ白になっていた。召喚する前、玲といじめを受けていたあの頃の記憶がフラッシュバックして蘇ったのだ。暴力こそ受けなかったがあの悪意に満ちた目を向けられると身体が硬直し何も考えられなくなってしまう。
「センパイ。大丈夫ですか? 顔色悪いですし汗かいてますよ?」
ナオキの変化に気が付いたルカがナオキを気遣う。
「あぁ、大丈夫。疲れただけだよ。ありがとう」
「ナオキ君、休憩所までもう少しだけど行けるかい? 何なら少し休んでもいいけど……」
八京もナオキを気遣う。だが、これ以上みっともないところを周りに見せたくはなかった。
「本当に大丈夫ですよ。休憩所までなら行けます」
「そうかい? でも無理しないで何かあったら言ってくれよ」
尚も心配して八京は言った。
「寝不足で疲れてるだけでしょ? まったく、もっとしっかりしなさいよ! さっきの奴ら、ナオキの事見下してたのよ!? 悔しくないの?」
「そりゃ悔しいけど、オレまだ何にも出来てないから……明日香みたいに気も強く無いし」
「そういうところが駄目なのよ! 何も出来てなくったって悔しいなら少しは言い返しなさいよ! これから先、ずーーーーーーっとあんな奴らに見下されて馬鹿にされてもいいの?」
明日香の口調に熱がこもってくる。それだけさっきの人間に怒りを感じているのだ。
「あのさ、君の言うあんな奴らの上司がここにいるんで、もうそのくらいにしてもらえるかな? あぁいう連中でも私のカワイイ部下なんでね」
すっかり存在を忘れていた。今回の訓練の責任者が今ここにいた。ジュダに言われて明日香も言い過ぎたと感じたのだろう。言葉に詰まっている。
「とはいえ、確かに彼らの言動には目を余るものがある。彼らの上司として謝罪させてもらう。彼らには後で私から注意はしておく。それでいいかい? 元気なお嬢さん?」
「ま、まぁ上司の人がそう言ってくれるならいいけど……でも厳しく注意してやってくださいね」
「ハハハ、わかったよ。キツク言っておくから大丈夫」
ジュダの言葉を受けて明日香も何とか落ち着いたようだ。
「いや~、ウチの部下がホント申し訳なかった。八京にもそっちの新人君たちにも不快な思いをさせてしまった」
軽い口調だったが、ジュダは八京に頭を下げた。
「そんな、気にしないでください。でも、頭を下げるなら途中で止めてくれても良かったんじゃないですか?」
確かに……
スグ近くにいたならいつでも止めることが出来たハズだ。それをしなかった理由は……
「だって、彼らがリスタに対してどう思ってるか確認しときたかったんだ。私の前だとなかなか本性出さなくてね」
悪びれることも無くジュダは言い放った。その姿には清々しさすら感じられる。八京はそんなジュダに呆れていた。
「まったく……ホントに人が悪い。僕だけならまだしも明日香さんやナオキ君、ルカさんまで巻き込んで」
「だからこうやって謝ってるだろ? それに、これ以上リスタへの嫌がらせを無くしたいんだったらそろそろ『剣聖』の件、前向きに考えてくれてもいいんじゃないか?」
八京の肩を叩きながらジュダは言った。こっちの人間にもかかわらず、ジュダと八京の関係は良好のようだ。
「またその話ですか。それは何度も断ってるじゃないですか。僕にはそんな大それた者になる資格はありませんよ」
「――ねぇ八京さん、その『剣聖』って何ですか? 私も聞いたこと無いんですけど……」
二人の会話に明日香が割って入る。『剣聖』確かにナオキも聞いたことが無い。
「あぁ、君たちはまだ知らないか……」
ジュダが説明をしてくれるらしい。どうやらリスタだからと言って接し方は変わらないようだ。
「『剣聖』って言うのは、我が国での称号なんだ。武器を使った国内最強の者が名乗れる。他にも体術を極めた『拳聖』。魔法のスペシャリストの『賢聖』。我が国の法を司る『憲聖』がある。それらを総称して『四聖天』と呼ばれてる。剣聖になればその権力は我々貴族を凌ぐほどだ。それも、帝国のみならず他国への影響もすさまじいモノがある。八京が剣聖になれば君たちリスタへの反応も変わってくるだろう」
「へぇ、剣聖って凄いんですね」
「八京さんなら当然よね」
「あの……や、八京さん。さ、流石です」
「勿論、剣聖の資格はかなり厳しいが、八京の実力・実績・人格どれをとっても申し分ないと私は考えている。これはガルシア隊長も同じだ。それなのに八京ときたら頑なに拒否をするんだ。一体何が不満なんだか……理解に苦しむよ」
ジュダの八京への信頼と評価は相当なもののようだ。それをよそに当の八京は浮かない顔をしていた。
「ジュダさんたちの提案は有難いんだけど、やっぱり僕には無理ですよ」
「無理なもんか。何が不安だ? 貴族たちの圧力か? そんなものは私や隊長が何とかする!」
「………………」
「……ひょっとしてムサシのことか?」
ムサシ……その名前を聞いた八京の表情が険しくなる。
ジュダはため息をついた。
「やはりな。でもあれはお前の責任じゃない。どうすることもできなかった。そんな中でお前は良くやってくれたじゃないか」
「それでも、あの時僕がもっと強ければあんなことにはならなかった……」
二人の周りの空気が重いものになる。
とてもムサシなる人物のことを訊ける雰囲気ではない。
「――そのムサシさんって誰なんですか?」
明日香だ
流石だ。八京のこととなると見境が無い。その鋼のメンタルがナオキには羨まし……くはなかった。
「え? あ、あぁ。ムサシはね、君たちと同じリスタなんだけど……」
ジュダはそこまで言って八京の顔を見た。どこまで説明していいのか八京の顔を伺っているようだ。
「ムサシさんは僕の師匠だった人だよ」
今度は八京自ら話し出した。
「だったって……どういうことですか?」
すかさず明日香が聞いてくる。
「……亡くなったんだ。大規模な討伐でね。その時は僕も一緒だったんだけど、ムサシさんも他の人たちも救えなかった……」
「え? そ、それってもしかして……」
ルカも思わず会話に入る。
「あぁ、八京以外の10000人が死んだ……全滅だ」
「そ、そんな……」
「八京を含めたリスタ4人、帝国騎士9000人、冒険者1000人の計10004人の精鋭で我が帝国始まって以来の魔王討伐に挑んだ。しかし結果はさっき言った通り。魔王とその配下に殺された」
ジュダの顔も沈んでいる。ジュダだけではない。明日香もルカも沈んだ顔をしている。もちろんナオキも……
「……あの戦場はとても悲惨だった……初めて僕たちが戦争をしているんだって実感した瞬間だったよ。今更だけど、魔王になんて挑まなかったほうが良かったんだ。そうすれば死なずに済んだ人たちが大勢いた……」
ナオキ達の周りだけ妙な静けさが包んでいる。そこだけどこか別の世界にいるようだ。
「だ、だけど悪い話ばっかりじゃない。八京が自身の最大の功績である、魔王の片腕を持ち帰ってきたんだ」
「え? 魔王の腕!? 八京さん、そこまで魔王を追い詰めたんですか!?」
「僕じゃない。ムサシさんの功績だよ。僕はその腕をもって逃げてきたんだ……」
「八京。魔王軍に挑んで生還しただけでも十分だ。それに魔王の腕1本で魔石何十いや、それ以上の価値があるか。更にあのムサシの剣まで持って帰ってきたんだ。お前は最悪の状況で最大の功績を残したんだ」
ジュダは大袈裟に声を挙げてこの場の雰囲気を変えようとしていた。
「ムサシさんの剣ってそんなに価値があるんですか?」
ナオキもこの場の空気を変えようとした。本当はもっと魔王の話を聞きたかったが更に空気が重くなるのは避けたかった。
「ん? あぁ、我が国で最高の剣だぞ。国宝と言ってもいい」
「そんなに凄い剣なんですね。オレも一度見てみたいなぁ」
「その剣なら今八京が持ってるじゃないか。背中のヤツがそうだぞ」
ジュダが八京の背中を指さしながら言った。
「え? ……ええええぇぇぇぇ!」
ナオキも明日香もルカも一斉に驚きの声を挙げた。
「や、八京さん。その剣ってそんなに凄いモノだったんですか?」
特別な剣だとは言っていたが、まさか魔王と戦った時に使用された剣だとは……しかも数か月前にはドラゴン討伐に時にも使われている。流石は八京だ。
「うん。魔王討伐から帰還した後、国王様から直々に渡されてね。断ろうとしたんだけど、王様の手前断ることもできなくって。ムサシさんの形見ってことも有るし大事に使ってるよ」
「その剣はかなり重くてな、ムサシや八京くらいしか使いこなせないんだよ。私なんか持ち上げるのがやっとなんだ」
やはり八京は帝国のトップクラスでは無くて最強剣士なのだ。そんな人に剣術を教えてもらっていることがナオキは誇らしく思えた。
「話は戻るけど、やっぱり剣聖は八京しかいないんだよ。国王様がその剣を渡したのも信頼の証だ」
尚もジュダは食い下がる。余程八京に剣聖になってほしいらしい。
「申し訳ありませんが僕には務まりません。それに、僕が剣聖になったらこういった訓練や討伐にもそんなに行けなくなる。そうしたら他のリスターターや騎士の負担も危険も増えてしまう。もうあの時みたいな惨劇は起こってほしくないんです……」
「八京さん……」
明日香の視線が八京にくぎ付けになっている。
あの時の惨劇……魔王討伐の事だろう。ガルシアも言っていたが、ドラゴン討伐も八京がいなかったらどうなっていたか分からなかっただろう。八京はリスタや国の兵士を想い剣聖にならないというのも納得がいった。
「……そうか……残念だがそこまで考えてくれているのならもう何も言うまい。八京。お前は自分の信じる道を進め! 私はそれを応援するぞ!」
八京の背中をバシバシ叩きながらジュダは笑った。
『自分の信じる道』ジュダの言った言葉が心に残る。ナオキの信じる道は一体何なのだろう? その答えは出ないが一つ分かっていることがある――
――玲の思いを忘れてはいけない――
玲がナオキに望んだもの。託した思い。それを忘れずにナオキはこれからを生きようと心に決めていた。
「何だか話し込んでしまったな。私は持ち場に戻るぞ。八京、まずは新人教育をしっかりやれよ」
「はい。しっかり育てますよ」
「あと新人たち。八京のようになれとは言わない、色々思うことはあると思うけど、自分の責務を精一杯やってもらいたい。簡単なことじゃ無いことは理解しているがよろしく頼む」
ナオキ達に頭を下げてジュダは言った。
「はい!」
「はい」
「は、はい」
ナオキ達の返事を聞いてジュダは前へ行った。
「みんな。この世界で任されたことを行うことも大切だけど、一番大事なものは自分の命だ。もし無理だと感じたら迷わず逃げてほしい。いいね? 僕は君たちに死んでほしくないんだ」
そうだ。八京の言う通り危険な時は逃げてもいいのだ。それを聞いたら幾分気持ちが楽になった。
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