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第3章

第296話 ツヴァン到着

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山を越えると、積雪量が前の街より少ない地域に出たようで、除雪魔法でできる壁の高さが低くなった。
豪雪地帯ではないのは良いのだが、雪の壁の高さが低いと、周辺に魔獣がいた場合に壁だけで防御ができなくなる。
それを考慮してなのか、道の幅がぐっと広くなっていた。
除雪範囲を広くして集める雪の量を増やして少しでも壁を高くするようにしているようだ。

幸い、少し低めの雪の壁を乗り越えてくる魔獣は出現しなかったようで、無事にツヴァンに到着した。

ピーッと笛の音がしたと思ったら、ふわっと雪が吹き上がった。商業旅団が王都を出る時にやった出発の合図にちょっと似ていた。
ワーッと歓声が聞こえて来た。
漸く着いたと、皆が思ったらしい。

ツヴァンの乗降広場に馬車隊の馬車がずらりと並んだ。馬車を降りてみると、先頭の馬車の近くでドルートルさんと除雪魔導士の人達が握手をしていた。

「漸く着いたでござるなぁ!」

ユリウスがピョーンと馬車を降りたって伸びをしながら言った。

「ここで一旦降りるであるか?」

マーギットさんは、馬車を降りずに、ドアを開け放った状態で俺に聞いて来た。俺は頷いた。

「少ししたら宿泊出来るところに向かうけど、ドルートルさんへ挨拶とかあるからちょっと行ってくるよ。魔導科クラスの子達ともここで話をした方が良いよね。」
「そうであるな。魔導科クラスのメンバーの馬車はここに呼べば良いであるか?」
「広場が混み合うから馬車を動かすのは出発の時でよいと思うよ。」

商業旅団の馬車隊の馬車は、ずらりと、到着順に乗降広場の中に列を作っている。すぐに宿や別の街に向かう馬車などは、そこから列を離れて出発していく。
魔導科クラスのメンバーが乗っている貸し切りの馬車は、ツヴァンまでという契約になっているそうなのだが、宿泊施設までは乗せていってくれるそうだ。

乗降広場は馬車を降りて荷物を運び出す人だとか迎えに来た馬車に乗り込む人だとか、かなり混み合っている。だがいつまでも広場を占有しているわけにはいかないから、ささっと用事をすませないといけない。

ドルートルさんに挨拶に行ったら、シャインさんとコンラートさんに、別れを惜しまれた。

「また雪の壁の上を一緒に歩きたいっすね。」
「それ非常事態でしょ。」
「除雪魔法の新しい利用方法を学ばせてもらったよ。」
「こちらこそ勉強になりました。スロープの作り方とか流石でした。」

シャインさんとは一緒に戦ってちょっと戦友みたいな感じだ。コンラートさんとは接する機会が少なかったけど、アイスワームを退治しに行く途中とか協力してくれたし良い人のような気がする。
商業旅団は一旦ここで解散らしい。ツヴァンで行商する人もいるし、そのままこの先の街に行く馬車もいるそうだ。
シャインさん達は、少し身体を休めたら、王都に向かう方面の馬車隊にまた除雪魔導士として乗り込むのだそうだ。

「あまり休んでいる間がないのですね。」
「冬場は稼ぎ時だから、こんなもんっすよ。」

ハードそうだなと思ったけど、シャインさんとコンラートさんはわりと淡々としていた。
ツヴァンで一泊か二泊するというので、ツヴァン滞在中に会う機会があるかもしれないけど、会えるかわからない。餞別にクリーン魔法と温風魔法のご贈答用の魔法陣を二人に一組ずつ渡した。
とても喜んでくれた。

ドルートルさんにも同じ物を進呈した。

「ありがとう。色々世話になったね。」
「こちらこそお世話になりました。」
「いつか君と一緒に仕事をしてみたいね。‥‥そう言えば、商業ギルドでちょっと話題になっていたよ。
誰がレイゾーリ男爵に騎士団の出動を要請したのかって。」

キラリとドルートルさんが鋭い目線を俺に向ける。

「‥‥レイゾーリ男爵領なんだから、レイゾーリの騎士団が出動するのはあたりまえじゃないですか。」
「いや、あの街の商業ギルド長の話では、領主は救援依頼を出してもいつも中々重い腰を上げてくれないのだそうだ。だから誰が頼んだんじゃないかってね。それに、金級冒険者パーティまで駆けつけただろう?あの,ロトヴィック殿という人がいうには、商人からの依頼で来たと言っていたらしくてね。それなら騎士団もそうなんじゃないかってね。」

ドルートルさんがじっと俺のかを覗き込む。

「君のところの商会が動いていたりしないかね。」
「なんで俺のところと思うんですか?」
「君は貴族子息だろう。貴族が関連している商会経由だったから、レイゾーリ男爵も動いたんじゃないかって思ってね。」

「貴族が関連している商会なんていくらでもありますけど。そもそも貴族家経由じゃなきゃ動かない男爵ってどうなんですか。」
「うん‥‥。そこはどうなんだって思うね。」

レイゾーリ男爵は、以前魔獣溢れが起きた時も、救援を派遣したりしなかったという。やったことって、あのギルドマスターを冒険者ギルドに寄越したくらい?
それってダメじゃねって思うよね。
ちょっとレイゾーリ男爵領を調べた方が良いだろうか。
まあ、それは置いておいて、ドルートルさんは結構鋭いところをついてきたけど、レイゾーリ男爵騎士団と呼び寄せたって言っても、ジョセフィンと商会の従業員が活躍してくれただけなんだよな。無理に隠す必要はないかもしれないけど、俺自身はあまり具体的なことは把握していないから、スルーしてしまった。
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