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第3章

第280話 洗濯

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「‥‥いよいよであるか。長かったであるな。」

マーギットさんが腕組みをして感慨深そうに言った。ユリウスはちょっと慌てた様子で冒険者ギルドの方をチラリと見た。

「ローレ氏達とお別れでござるか?」
「まあ、そうだけど。多分、休憩の街くらいまでは同じ方向だと思うよ。」
「そうでござったかぁ!これっきりかと思ったでござるよ。」
「馬車が別方向だっとしても、出発前に挨拶くらいはするだろう。」
ホッとした様子のユリウスに、トマソンが眉間に皺を寄せて突っ込みを入れた。

デリックさんは顎に手を当てて首をひねった。

「今から洗濯をして朝までに乾くだろうか。」
「え?洗濯?」
「いつ出発かが判らず、洗濯するタイミングを逃していたのだ。」

デリックさんが自ら洗濯をするというのが意外で、訊き返してしまったけど、旅費の節約の為だよな。
今まで特に自分で洗濯しているとは言ってなかったけど、出発時間とかの予定が決まっている時は自分達で洗濯をしていたらしい。
トマソンも頷いた。

「いつ避難勧告が出るか分からないと思ってたが、さっさと洗濯してしまえばよかったな。」
「温風魔法かけようか?」
「いや、暖房の管のところに置けば乾くだろう。

貴族令息なのに所帯染みた会話をしている。マーギットさんとユリウスはどうしていたのだろうと思ったけど、湯浴みの度に来ていたものを洗濯して、マーギットさんの風魔法で乾かしていたらしい。

「マーカス氏とジョス氏は、洗濯は宿に頼んでいるのでござるか?」
ユリウスに訊かれたので俺は首を横に振った。

「いや、クリーン魔法で済ましてる。」
「は!?」

ユリウスが目と口を同時に開いた。

「クリーン魔法!その手があったでござるか?」
「いや、洗った方がスッキリするっていいう人も居るし、好みな方法で良いんじゃない?」

俺の言葉にユリウスはバッとマーギットさんに詰め寄った。マーギットさんは、「ふむ。」と頷いた。

「寝袋はクリーン魔法をかけたというのに、習慣で洗濯していたであるな。」
「インターバルがあるでござるが、洗って乾かすより早そうでござるぅ!』

基本的なクリーン魔法だと対象物が一つだけだから,靴下一組でも二回クリーン魔法を使う事になる。
それが面倒というのは有るだろう。そうは言っても宿の部屋で寛ぐくらいの余裕が有る時なら問題なさそうだけど。

実家では使用人が洗濯をするから、衣類にクリーン魔法を使うという発想がなかったらしい。
学園の寮でも、湯浴み代わりにクリーン魔法は使うのに、衣類は洗濯していたそうだ。

そんな話をしていたら、ロアン君達が冒険者ギルドから出て来た。俺達の姿を見て手を振ってくる。

「あれ?待っててくれたんですか?」
「いや、立ち話をしてたんだよ。」

ロアン君達はそれぞれ報酬が入っているらしい革袋を大事そうに抱えていた。

「報酬貰えて助かりました!」

ロアン君が言うと、ローレ嬢とデヴィン君も嬉しそうに頷いた。

「今度は緊急用の分は実家に送らないで残しておこうと思って。」
「え、全部緊急用で良いんじゃない?」
「でも、護衛している時あまりジャラジャラさせていると‥‥。狙われたりしそうで‥‥。」
「小金貨とかならそうジャラジャラしないんじゃなにの?」
「え?」

ローレ嬢が慌てて、持っていた革袋の中を覗き込んだ。
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