騎士志望のご令息は暗躍がお得意

第3章

第247話 番号

行って見ると人が集まっていた。人の隙間から馬車や、見覚えがあるローブ姿の人物が見えた。

「シャインさんじゃない？」

何やら怒鳴り声が響いているのを訊きながら人の間をすり抜けて前に出てみた。
道路の真ん中に高さの低い雪の壁が出来ていた。その手前に馬車が止まっていて、御者席に座っている男性が怒鳴っている。
怒鳴っている先はやはりシャインさんだった。コンラートさんも居る。

「ふざけんな！道の真ん中にこんなもん作りやがって！危うくぶつかる所だろうが！」
「その馬車は、商業旅団の馬車っす。降りるっす。」
「これは俺の馬車だって言ってんだろ！」
「絶対違うっす！降りるっす！」

シャインさんは男性が乗っている馬車は、商業旅団の馬車だと主張しているようだ。馬車には旅団のプレートが付けられているはずだが、それは見当たらなかった。
しかし、よく見る型の馬車で、商業旅団の馬車隊でも同じ型の馬車があったと思う。

カランカランカラン

知らせを受けたのか、衛兵が鳴らすベルの音が近付いて来た。
おっと。これはドルートルさんに連絡した方がよいな。
ドルートルさんは，何処に居るんだろう。

魔鳥達にドルートルさんを探させつつ、状況を確認しに行こうとしたら、コンラートさんが俺達に気がついたようだ。
コンラートさんがこちらに目を向けたら、ユリウスが飛び出した。

「喧嘩は良くないでござるよ！」
「何だお前は！」
「落ち着くでござる！腹が減ってるでござるか？」
「はあ？」

何だか新たなトラブルが起きそうな感じがしたので、慌てて皆で割って入った。
同時くらいに衛兵達が到着した。

状況を訊いてみると、シャインさんとコンラートさんが食事の買い出しに通りを歩いていたら、路肩に商業旅団のものと思われる馬車が停めてあるのに気がついたそうだ。
もしや避難が開始されたのかと、状況を訊きに行こうと近付いたら、全く知らない男性が御者席に乗り込んできて、出発しようとしていたから、
慌てて歩道脇に寄せ集めら手居た雪を使って、雪の壁を作って停めたという。

御者席に居た男性は，馬車を出そうとしたらいきなり雪の壁で進路を塞がれて、怒っているようだ。
シャインさんは絶対に商業旅団の馬車だと譲らないので、話が大きくなりそうだと、助けを求めるためにコンラートさんが雪の噴水を上げたらしい。

結果的にシャインさんの主張は正しかった。衛兵が来て馬車中の積荷を確認したときに、商業旅団の書類が出て来たのだ。分が悪くなった御者席の男性は逃げ出そうとして、凍り付いた路面で足を滑らせて転倒した所を捕まった。
ドルートルさんを見つけて魔鳥達に案内をさせて到着した頃には大体解決していた。

「番号つけてるっすよ。旅団のプレートなくてもわかるっす。」

商業旅団の馬車隊に良く同行をする除雪魔導士達は乗り込む馬車を間違えないように、旅団のプレートとは別に馬車の後ろに馬車番号を書いているのだという。
御者席に居た男は、商業旅団の馬車隊のプレートをわざわざ外して馬車を盗みだしていたようだが、
馬車の後ろに手書きで書かれた番号は気にしていなかったらしい。

駆けつけて来たドルートルさんは青ざめた顔をしていた。馬車が旅団の物だと証明できたので取り戻せたという事を聞いて、ほっとした様子にはなったが
酷く疲れているようだった。

「また馬車が盗まれたと聞いて、非情に焦ったよ。しかし戻って来て良かった。」
「また盗まれたとは？」

ドルートルさんによると、馬車の盗難事件が多発していて、商業旅団の馬車も被害に合っているという。一台目は商業旅団のプレートを外そうとしているところを取り押さえたそうだ。
そしてこれが二台目らしい。