上 下
242 / 324
第3章

第241話 街の様子

しおりを挟む
アイスワームの全長は、街の通り二ブロック分くらい。まあまあ巨大か。
刺激しないようにかなり上空から見て回る、アイスリザードの方もスロープを使って街道に入ろうとしている奴は今はあまり居ない。
たまたま目撃した時がアイスワームに追い立てられていた時だったんだろう。
ただ、既に街道内に入り込んでしまったアイスリザードが相当数居る。

上空からの目線で見ていると、雪で覆われた真っ白な平原の中の白い壁で囲まれた大きな溝みたいな通路に、白っぽいけど金属的な光沢がギラギラしたアイスリザードがうようよしているように見える。

いっそ、街道に沿って別の道を作ったらとも思うけど、単純な話ではないよな。
アイスワームが居ない側に、新たな街道を造るとしたら、街道外にいるアイスリザードを討伐しながらになるし、アイスワームが街にとって脅威な状況は変わらない。

避難経路として作るならありかもしれないけど、今の所は北へ行く道は安全な状態だ。新しい街道に労力を注ぐのはあまり建設的じゃないかな。

アイスワームの偵察以外の事を考え始めてしまったので、感覚共有を切って、魔鳥達にも戻るように伝えた。

「2ブロック分ですか‥‥。結構大きいですね。」

アイスワームの様子を聞いたジョセフィンが難しそうな顔をして表情を曇らせた。

「ちょっと危険だよね。そのサイズがこの辺をうろうろしてるのは。」
「街を封鎖して避難、ですかね。」
「騎士団なら討伐できるんじゃない?」
「どうでしょうか‥‥。この付近ではアイスリザードは雪の壁で防御だけして、春先になって気温が上昇してきて弱った時に討伐するみたいですけど。」
「それはそれで効率的だけどね。積極的に魔獣討伐をしないでいたから、アイスワームを見逃したのかもね。」

レイゾーリ騎士団がアイスワームをバサッと討伐してくれると良いんだけどな。
そうは言っても、商業旅団が避難をする判断をする方が先になる可能性も結構高い気がする。

部屋で、魔法陣玉を作ったりしながら、待機をしていたけれど商業旅団からの出発の笛の音は聞こえて来なかった。
少し日が陰って来た頃に、様子を見に街に出てみることにした。
今度は、マーギットさん、ユリウス、トマソン、デリックさんも一緒だ。

街の通りは朝より騒然としていた。
溢れそうな程の荷物を詰め込んで走っていく馬車。怒鳴り声やら赤ん坊の泣き声もあちこちから聞こえる。
まだ明るい時間だけど、商店はみんなクローズ状態だ。扉を閉め切って閉店の看板を出している。

「宿の中は結構落ち着いてたのに‥‥。」
「宿の方が情報が入って来ているから落ち着いているのかもね。」

店の扉を半分閉めながら、パンを投げ売りしている店があった。

「安くするから買って行っておくれよ!旅費を稼がないとならないんだよ!」

パン屋のおばちゃんが、相場の半値以下の値段を提示して、売り込んで来た。

「旅費がないの?」
「そうなんだよ!ちょうど釜を新しくしたばっかりでさ。ああ、それなのに釜を置いて逃げないとならないなんて!」

パンの焼き釜を新しくする為に借金もしていて、避難をするにも馬車はあるが宿泊費も避難先での生活資金の目処も立たないという。
泣きそうな顔でパンをうっているおばちゃんに、マーギットさんがすっと銀貨を数枚差し出した。

「パンは買うである。しかしまだ悲観することはないある。冒険者ギルドが討伐に動いているし、領主家の騎士団もこちらに向かっているである。」
「え?領主様の騎士団が?」

パン屋のおばちゃんの目を瞬かせた。

マーギットさんは「うむ」と頷いた。

「到着まではまだ時間がかかるようであるが、まだ街も魔獣被害が出ているわけじゃないである。落ち着いて稼ぐであるよ。」
「拙者も出すでござる!」
ユリウスも銀貨を差し出した。

皆でお金を出す事にしパンを買えるだけ買い、相場よりかなり多めの金額を支払っておいた。
おばちゃんは涙ぐんでいて、店の奥から旦那さんらしきスキンヘッドの男性もお礼を言って来た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか

宮崎世絆
ファンタジー
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。しかも公爵家の長女、レティシア・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「もしかして乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢ですか?!」と混乱するレティシア。 溺愛してくる両親に義兄。幸せな月日は流れ、ある日の事。 アームストロング公爵のほかに三つの公爵が既存している。各公爵家にはそれぞれ同年代で、然も眉目秀麗な御子息達がいた。 公爵家の領主達の策略により、レティシアはその子息達と知り合うこととなる。 公爵子息達は、才色兼備で温厚篤実なレティシアに心奪われる。 幼い頃に、十五歳になると魔術学園に通う事を聞かされていたレティシア。 普通の学園かと思いきや、その魔術学園には、全ての学生が姿を変えて入学しなければならないらしく……? 果たしてレティシアは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレティシアは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レティシアは一体誰の手(恋)をとるのか。 これはレティシアの半生を描いたドタバタアクション有りの爆笑コメディ……ではなく、れっきとした恋愛物語である。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

処理中です...