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第3章

第233話 騎士爵の子息

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「まだ、ここの地域の事を把握されている途中なので、相談するなら副ギルドマスターの方が良いわよ。」
「それ‥‥先に教えて欲しかったです。」
「ごめんなさいね!流石に副ギルドマスターが不在でギルドマスターは居るのに、『責任者は居ません』とは言い辛くって。」

フレイヤさんはそう言って口の端を上げてから「それに」と付け加えた。

「何か重要な事があるなら、ギルドマスターにも相談したという実績も大事でしょう?」
「‥‥そうですね。」

フレイヤさんはその後、副ギルドマスターが戻ってきそうな時間帯や、緊急の事なら商業ギルドのギルドマスターに話すのも手だと教えてくれた。
商業ギルドのギルドマスターは、数ヶ月前の魔獣溢れのときの、住民避難のときに馬車の手配や食糧の手配などに尽力した人物なのだそうだ。
それなら商業ギルドに行ってみるかということになった。

「あ、昨日の!」

冒険者ギルドを出ると、ギルド脇の小道から声がかかった。見るとロアン君達だった。大きな革袋を抱えていた。
武器を磨いて討伐隊の馬車に運ぶ手伝いをしているらしい。

「これ運び終わったら一旦手伝いは終わりで、今日馬車が出発しないようなら、一日分の依頼を受けようと思ってます。」

寝袋で眠れないという事はなかったようで、元気そうだった。

「クリーン魔法かけてもらえてよかったです!臭くて眠れない!なんて言っている人もいましたから。」

あははとにこやかに笑っている。ローレ嬢は、他の女性冒険者と話しができたりして楽しかったらしい。
元気そうでよかったが、ラドロの事を思い出して訊いて見た。

「え、ラドロ兄様が?」
ロアン君とローレ嬢がびっくりして顔を見合わせた。

「うん。朝になったら冒険者ギルドに会いに行くって言ってたから、そろそろ来るかもしれないよ。」
「‥‥僕達の事‥‥わかるかな‥‥。」

ロアン君の声が急に自信無さげに小さくなった。
ラドロとはラドロが学園に入学する直前に会ったきりだそうだ。休暇にも実家に帰って来ず、卒業後も連絡もなかったので何処にいるかもわからなかったらしい。

「似てるから兄弟だってすぐ判ったよ。」
「え‥‥そうなんですか‥‥。」

ロアン君とローレ嬢は何だか落ち着かない様子になった。
その時、ちょうどラドロがやって来た。俺達と一緒に居る赤毛の二人を見て、すぐに自分の弟妹だとわかったようだ。
遠くから名前を呼んだ。

「ロアン!ローレ!」
「ラドロ兄様‥‥?」
「兄様だ‥‥。」

ロアン君とローレ嬢は一度互いに顔を見合わせた後,おずおずとラドロの方に向かって歩き出した。
兄妹達が再会をして話をしているのを遠巻きに見ながらデヴィン君が言った。

「ロアン達の家は、長男以外は放置って感じなんですよ。だから、ラドロさんも学費稼ぎの為に休暇も帰って来なかったらしくって。
‥‥まあ、どこの貴族家も跡継ぎが大事なんだろうし、そんなもんなんでしょうけど。」
「デヴィン君の家は騎士爵なんだったっけ。」
「ええ‥‥。」

家柄の話題を出したとき、デヴィン君は急に不機嫌そうに眉を顰めた。聞かれたくなさそうなんだけど、気になっている点があるんだよな。

「デヴィン君は騎士になろうとか思ったりはする?」
「はぁ!??」

デヴィン君が声を張り上げた。魔力がどーんと頭部から溢れ出る。ロアン君達が振り向いて何事かと駆け寄って来た。
ジョセフィンは、ぐいっと俺とデヴィン君の間に入る。
怒鳴り出しそうだったデヴィン君は大きく口を開けた所で動きを止めた。ジョセフィンの顔をチラリと一瞬見て目を逸らした。

「‥‥な、‥‥なんだよ。騎士爵の家の子は貴族学園に入れないって‥‥知ってるだろ。ロアン達は金を貯めたら行けるって言うけどさ‥‥。もう‥‥この冬が終わったら
入学時期なんだぜ。無理だろ‥‥。」

チラッチラッとジョセフィンの方に時々目線を動かしながらデヴィン君が言う。
駆け寄って来たローレ嬢が、デヴィン君に言う。

「デヴィン!諦めたらダメだって!お金、溜めるだけ溜めて王都に行こうよ!」
「そうだよ!入学前の説明会っていうのがあるらしいから、そのときに一緒に行けば良いよ!そこでお金足りないって言われたら、もっと稼ごうよ!」
ローレ嬢とロアン君の言葉に、デヴィン君は唇を歪めた。
「だから‥‥行けるか判らないもんにさぁ‥‥。」
「僕達からもお願いしてみるよ!」

そう言ってデヴィン君の腕を掴むロアン君と、うんうんと頷くローレ嬢。
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