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第3章

第213話 雪の壁の案内

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その後の馬車旅は比較的順調だった。オンブ便が後ろに着いて来ているから、どうしても宿不足になりがちではあったが、少なくとも除雪魔導士の宿は手配してもらえるようになったようで、彼らが宿探しに走る事はなくなった。
更に宿が不足した場合に夜間のロビーを宿泊用に提供をしてもらえるように、商業旅団が商業ギルドを通して各地の宿に依頼をしてくれたそうだ。
部屋泊よりロビー泊の利用料の方が安いが、部屋不足の時だけという条件で宿と合意できたようだ。

宿としても、春になって凍死者が発見されるなんてリスクが減るし、ロビー泊分の収入が増える。ロビーで夜明かしする人達を宿が許容するのを好まない客も中には居るが、商業ギルドの要請だという言い訳がつく。管理等の手間は増えるだろうが一応宿にもメリットはあるのだ。
俺達の場合は宿は予約済みではあるのだが、同じ学園の生徒や知り合った魔導士が、真冬の夜に行き場を無くす心配が減ったのはほっとした。

馬車内での魔法陣の練習と内職?も順調だった。
ユリウスも5回に一回は合格ラインのクリーン魔法が描けるようになった。

「これは、惜しいやつだね。ここの線のところ魔力が均一じゃない。使用時に効果が安定しなくなる。」
「おおー、これは結構行けるかと思ったでござるのに。」
「クリーン魔法自体は起動すると思うから自分用にしたら?」
「そうするでござる。」

ユリウスは機嫌よさそうに、傍らに置いてある「ユリウス用」と書かれた箱に作成した魔法陣を入れた。
販売基準に達したものは、こちらで預かり、起動はするけど販売基準未満のものは、自分で使用する分として箱に保管している。すでに何枚か溜めてあった。

ニコニコしながら、魔法陣を箱に仕舞ったユリウスは、ふと窓の外を見て言った。

「真っ白で何も見えないでござるな。」
窓に近付いて更に外を見回す。

窓の外は、街道の両脇に雪の壁がそびえ立っていて、雪の壁以外は空しか見えない状況だった。
「ここら辺は、北ミッダル湿原が近い。アイスリザードがいるから雪の壁で防いでいるんだよ。」

除雪魔導士達もこの付近を通過するときは、かなり慎重に魔法を放っている。単純に通り道の雪を退けるのではなく、前に通った隊列が作った雪の壁を強化するように
除雪した雪を壁に結合させていく。
それもあって、この付近の雪の壁は高く分厚いのだ。

「アイスリザードでござるか。」
ユリウスがちょっと怯えて、窓から身体を離した。

「街道内に入り込んだりはしないのだろうか。」
デリックさんが、窓の外を見ながらまぶしそうに目を細めた。

「街道内に入って来てしまったら、こちらの逃げ場がなくなりそうだな。」
トマソンが眉間の皺を深めた。ヒィッとユリウスが身体を揺らした。

「この旅団は護衛の冒険者を同行させているから、街道内に魔獣が出たら彼らが討伐することになっているよ。
この付近に関して言うと、雪の壁の隙間を作らないように中継の街へ続く道と街道との接合箇所もきっちり壁で覆っているそうだよ。」

「ほう。そうなると暫くは外は雪の壁しか見られないであるな。‥‥しかしずっと同じ景色だと、何処を通っているかわからなくなるである。」
マーギットさんの言葉に、ユリウスがハッとしてこちらを振り向いた。

「街に近付いているのに気付かずに通り過ぎたりしないでござるか?」
「それは色々工夫しているらしいよ。」

俺は、懐中時計をとりだして時刻を確認した。次の宿泊予定の街に到着する迄、後もう少しという頃だ。

「そろそろ街に近付く頃だから,雪の壁を良く見てて。色が変わっている所があると思うよ。」

俺がそう言ったので、皆一斉に窓の外を見た。少し日が暮れかけているが,雪が反射して明るく見える。トマソンが何かを発見したらしい。
「雪が青く染まってる?」

「お?おおー?ホントでござる。何カ所か雪の色が変わっている所があるでござるよ。」
前を走る馬車からの除雪魔法で、雪の壁が新たな雪で覆われて見えにくくなっているが、よく見ると何カ所か雪の壁に色がついている部分がある。

「街に近付くにつれて、色の点が多く付けられているはずだよ。」
「おお?黄色も加わったでござる。」
「街道との分岐点は,赤い色も加わると思う。」

暫く窓の外を見ていると、赤い点が見えた頃にピーッピーッと街に近付いた事を知らせる笛の音が鳴った。
ずっと外を見ていると馬車が街道から、別の道に逸れたのもわかった。

「成る程。色で街への分岐路が判るのか。しかし、誰が色をつけて回っているんだ?除雪や振った雪でも、埋もれてしまわないか?」
デリックさんが首を傾げた。

「色弾を打ち込む係がいるんですよ。主に出発時に色をつけて行くらしいです。」
街出発直後、街道との合流時、四半刻経過した頃など、通過した馬車隊が決められたルールで色弾を打ち込んでいるのだ。
街に向かう側でなく街から出発した側が実施する理由は、街からの距離が測りやすいからだ。
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