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第3章

第212話 朝食前に解決

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暫く沈黙して申請用紙を見つめていたロドンは、チラリと客室へ続く通路の方を見た。

「せ、責任者を呼んできやすんで待っててくだせぃ。」

立ち上がって、俺達が止めないのを確認してから客室の方に駆けて行った。
ドルートルさんは、ロドンの駆けて行く姿を眺めた後、俺の方を見て、ちょっと肩を竦めた。

「これで満足かね。この後は業者同士の話だ。後はこちらで話をしておくよ。」
「助かりました。ありがとうございます。」
「こちらこそだよ。はあ、また王都に鷹便をださんとなぁ。」
「ヨロシクお願いします。‥‥ああ、こちらよろしければお使い下さい。」

ジョセフィンから装飾を施した小さい封筒を受け取って差し出した。エルスト商会のロゴ付きだ。

「お、魔法陣ですか‥‥。ほう‥‥。温風魔法とクリーン魔法。馬車旅ではありがたいですなぁ。」
「ええ、よかったらぜひ。ユロールさんにも。」

そう言ってユロールさんにも魔法陣の入った封筒を差し出した。
二人の表情が急に和やかになった。文句ばっかり言ってるみたいになってるからね。なるべく友好的になるようにしておきたい。

オンブ便の業者との話し合いは、後はドルートルさんに任せることにして、宿を後にした。
クレイリー君だけ宿が違うので、送って行く。

「あのぅ。ありがとうございましたぁ。」

宿に戻る途中、クレイリー君は独特の語尾を伸ばすしゃべり方で、お礼を言って来た。

「マ、マーカスさんてぇ、凄い商人なんですかぁ?」
「凄くはないよ。学生やってるし。」
「で、でもぉ。旅団長とも対等に話してたみたいだしぃ。」
「うーん。貴族ってことで覚えられやすかったり、若造だけど、気を遣ってくれたりって言うのもあると思うんだよね。」
「でも凄いですよぉ。」

クレイリー君はそういうと、懐の上に手を置いた。ジャラリと微かに硬貨がぶつかる音がした。

「キャンセル料、帰って来てホント良かったですぅ。これで、ちょっと余裕できますぅ。貸し切りだとちょっと割安らしくて、馬車代払ってもちょっと余るみたいでぇ。」
「ああ、割安になるのか。よかったね。」
「はいぃ。」

ヘラリとクレイリー君が口元を綻ばせた。

クレイリー君を宿に送り届けると、ちょうど朝食の時間になったようだった。ロドンとの面会を朝早くに設定したので、朝食前に出たのだ。
朝食に間に合ったと聞いてクレイリー君は嬉しそうだった。食堂に降りて来たフォーゲル君達と合流していった。

「俺達も早く朝食食べに戻ろう。」

懐中時計をちらりと見て、時間を確認した。ユリウス達が食堂で待っているかもしれない。
マルロイ君とシン君は、宿はユリウスと一緒の部屋に泊まったので朝食は俺達の宿で採る予定だ。しかし馬車はフォーゲル君達の馬車に乗るので、早めに朝食を食べ終えてフォーゲル君達の宿泊する宿に行くのだ。
雪が歩道に沢山の残っている道を急いで宿に引き返した。

「ちょっと聞いてもいいかい?あの馬車業者との話だけど。」
宿に向かって歩きながらデリックさんが話しかけて来た。

「はい。」
「商業旅団が除雪した跡に除雪跡を元に戻しながら走るのは可能なのかい?確か、除雪魔導士はクグロフさんの店の前の雪の壁を壊すという話の時には無理だと言っていただろう?」
「ああ‥‥。除雪跡を全て元に戻しながら走るのは難しいでしょうね。」
「はったりだったということかい?」
「いえ、除雪跡は一部だけ元に戻すのは多少無理すれば可能だと思います。街道の一部だけでも除雪が出来ない後続の馬車は大打撃ですよね。」
「そうか‥‥。旅団長も同じ認識だったから話を会わせてたんだね。」
「そうだと思いますよ。」
「なるほど。」

デリックさんは納得したのか眉間の皺を少し緩めて頷いた。マーギットさんがフフフと笑い出した。

「我は、マーカス君なら、除雪跡を戻す作業をできるのではないかと思ったである。」
「ええー?いやいやいや。馬車旅の間ひたすら除雪跡を戻すってことですか?罰ゲームみたいじゃないですか。」
「一部なら不可能ではないであるな?」
「‥‥まあ、一部でしたらね。」
「なるほど、やはり除雪魔法を持っているであるか‥‥。いや、失礼。保有魔法の詮索は無粋であった。」

チロリ、とジョセフィンが目を細めてマーギットさんを見たので、マーギットさんが手をヒラヒラと振って謝罪して来た。
マーギットさんは魔法が気になるんだろうな。

「ジョス、マーギットさんも悪気はないと思うよ。‥‥除雪魔法は持ってますよ。そんなに使わないんで得意ではないですけど。」

俺がそう言うと、マーギットさんは納得したように頷いた。
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