上 下
202 / 324
第3章

第201話 内職三昧

しおりを挟む
初回限定価格は終了したので、特別提供か書く魔法陣1枚で銀貨一枚という倍の値段にしたら在庫がなくなるまで売れた。
通常の魔法陣は1つ銀貨一枚では買えるものではないのだが、クリーンという初級魔法なのと、可能な限り使用する羊皮紙を小さくして、費用を削減したのだ。
そんなに日常に使うものならあまり高い価格設定にしたくはないのだが、下手するとクリーン魔法専用の魔法陣職人になりかねないので、特別提供価格ももう少ししたら終了すると伝えておいた。

「こちらはほどよい小遣い稼ぎとなるが、彼女達は旅行費用を使い切ってしまったりしないであるか。
だからといって,安くしすぎると、こちらがクリーン魔法陣漬けになってしまうであるが。」
「羊皮紙もなくなりそうだよね。価格は見直して状況によって割引とかにするか。」
「これだけ売れると知ったら、ユリウスが、必死になりそうであるな。」
「ツヴァンに付く前に描けるようになっていればよいですけど、それ以降でもちゃんと描けるようになったら認定出しますよ。」
「ふ。感謝する。我らも行商の旅になって来たである。さすが、商業旅団である。」
「はははっ。」

マーギットさんと笑いながら話をして馬車に戻ると、既にトイレ休憩から馬車に戻った後、お茶休憩をしていたトマソンとユリウスとデリックさんは、魔法陣の在庫がなくなる程売れたと聞いて驚愕していた。

「そ、それはうかうかしていられないでござる!一刻も早く魔法陣を作成できるようになるでござる!」
「うむ。俺も描く。」
「私も頑張るぞ。」

お茶を飲む手を止めて、魔法陣練習を再開しようとする三人を止める。

「ちょっと根詰めすぎだよ。ちゃんと休憩の時は休憩した方が良いよ。お茶飲んでゆったりしたり、外散歩して身体を動かしたり。」
「買い取る人がいるうちに完成させたいでござるよ!少しでも稼ぎたいでござる!」
「実家が困窮しているのに、働きに出て稼ぐ余裕がないのだ。少しでも稼げるならやりたいんだ。」
「うむ。他にも効率よく稼ぐ方法はあるだろうが、馬車に乗っている時間を有効活用できるなら、やっておきたいのだよ。」

ユリウスの実家もトマソンとデリックさんの実家も、魔獣被害で経済的に厳しい状況だから馬車に乗っている間に魔法陣の内職ができるというのは魅力的らしい。
クリーンの魔法陣はそう高額では売れないけど、上達していったら他の有用な魔法陣も描けるようになるだろう。
ある意味有意義な馬車旅なんだけど、クリーン魔法陣漬けはなあ‥‥。

ピーッピーッと出発を知らせる笛が鳴った。ぞろぞろと先頭の馬車から動き始めて、俺達が乗る馬車もゆっくりと動き出したと思ったら、車輪が石にでも乗っかったのかゴトンと馬車が揺れた。

「ああ!」

揺れで線がぶれてしまって哀しそうな顔をするユリウス。

「練習用の魔法陣なんだから続きを描いちゃえばいいんじゃない?」
「そうでござるが‥‥。ここまでは良い出来だったでござるよ‥‥。」
「描き慣れて来たってことじゃない?次はもっとすらすら描けるようになるんじゃないかな。」
「そうでござるかぁ?」

クリーン魔法陣漬けはちょっと、と思ったけど、宿泊予定の街に近付くまではほとんどする事はなかったので、魔法陣教室と、クリーン魔法陣の内職が続いた。

カランカラン。

馬車内に設置した小さい鐘が鳴り響いた。御者からの合図だ。もう少ししたら宿泊で滞在する街に到着する。
羽根ペンを置いてうーんと伸びをする。結局、馬車に乗っている間ずっと魔法陣を描いてしまっていた。

チラリと皆の様子を見ると、ジョセフィン以外は皆魔法陣を描いていた。ジョセフィンは手帳に何か記入していた。ふとジョセフィンが顔を上げて俺の方を見た。

「次の街はランガーヴェスタには、日暮れ前に着きますね。少し街を見て回れるかもしれません。」
「ああ、それはいいね。」

宿を取る予定の街には、日暮れ過ぎに到着する場合もある。日ガ暮れると開いている店は、食堂か居酒屋くらいになってしまう。
まだ明るい時間なら、他の店も開いている可能性があるのだ。冬季休業で閉まっていることもあるだろうけど。

「街歩きできるでござるか?」
ユリウスがパッと顔を上げた。

「日暮れまでの少しだけね。まあ、雪でほぼ動き回れないかもしれないけど。」
「少しでも良いでござる。朝の出発は早いでござるから、少しでも街の様子が見られるなら見たいでござる。」

ユリウスがそう言うと、トマソンが頷いた。
「うむ。別に買い物をしたい訳ではないが、街並くらいは見ておきたい。」
マーギットさんやデリックさんも街歩きんは賛成のようだった。

「じゃあ、宿にチェックイン後に少し外に出よう。暖かい格好しておいてね。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

処理中です...