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第3章

第196話 イーモの騎士

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「‥‥俺はそんなに怖がられてるんだろうか。」
「そうかもしれませんねぇ‥‥。」
俺の呟きにジョセフィンが答えてくれた。

「怒鳴ったり、殴ったりもしていないよ?」
「そもそもお説教をあまりされたことがない子息子女なんでしょう。‥‥という事にしておきます。」
「という事って何?」
「うーん‥‥。ユリウスの言う、ヒュービリビリは慣れない者にはきつかったんじゃないかと。‥‥でも、ユリウス、人が良いですね。悪く言われた相手に芋を差し出すなんて。」
「そうだな。ちょっと格好良かったな。」

馬車隊の先頭の方の様子を確認しながら、俺達もクグロフさんに挨拶をして、馬車に戻ることにした。
奥さんのフィユテさんも店の奥から顔を出して挨拶をしてくれた。無理しなくてよいのにと思うのだが、薬を処方されたら少し楽になったらしい。

「僕ね,美味しく芋が焼けるようになるよ!」
「私も!」
「イーモ!イーモ!」
タフィ君達も笑顔で見送ってくれた。でも、パン焼きの修業をした方が良いと思うぞ。

クグロフさんの怪我が直っても本業「芋屋」になってたりしないよね。需要があるなら良いんだろうけどパンも販売して欲しい。そこら辺は近々店を訪問予定の商会の従業員とも話し合ってもらおう。

見送りの際に俺達も焼き芋を貰った。馬車に戻ってから分配をしてユリウスの前にも配るとユリウスがビックリした顔をした。

「せ、拙者の分は既に受け取ってたでござるよ!」
「フォーゲル君達に渡すって知っててクグロフさんが持たせてくれた分だろ。これは俺達用にって渡してくれた奴だからね。そもそも沢山あるんだから受け取っておけよ。」

マルロイ君から返却されていた紐が切れた麻袋にホカホカした芋を入れてやると、ユリウスはそれを受け取ってイソイソと懐の中に入れた。

「は~、あったかいでござるぅ~。」
「ふふふ。焼き芋は良いであるな。」
マーギットさんも芋を手にして嬉しそうだ。

ピーーー!ピーーー!

笛の音が二度なった。出発の合図らしい。ユリウスはハッとして馬車の窓から顔を外に出した。
馬車隊の先頭の方を注意深く見ている。
馬車が動き出した。暫くして、先頭馬車が街の外に出て除雪を始めるのを見届けてから、ユリウスが座席に座り直して溜め息をついた

「ああーーっ。ぶわっとしなかったでござる。やはり王都だけでござるかなぁ。」
除雪開始の雪を吹き上げる光景が見たかったようだ。

「除雪魔導士の人達かなり疲れてたみたいだったからね。少なくとも今日はもうやらないだろう。」
「明日の朝の出発では、見られるでござるかなぁ。」
「どうだろう。どの街でやるか観察しておくのは面白いかもね。予想では、領都とか大きな街でしかやらないんじゃないかな。」
「領都はありえそうでござるなぁ。」
ユリウスは楽しそうに地図を眺めていた。

「そういえばユリウス。フォーゲル君達に躊躇なく芋を提供していたの、格好良かったな。」
「そ、そうでござるか?」

先程の光景を思い出してユリウスを褒めたら、ユリウスが恥ずかしそうに左手を顔の前にやって封印しているらしい左手の手袋の甲の部分をこちらに向けた。

「うん。騎士って感じで。‥‥お芋の騎士?」
「い、お芋の騎士はちょっと響きがダサイ気がするでござる!‥‥イーモの騎士はどうでござるか?」
「イーモなら良いのか?」
「イーモは人々を笑顔にするのでござる!イーモ!!」
「まあ、確かに笑顔にしてるね。」
「イーモ!イーモ!」
ユリウスは懐の芋を服の上からポンポンと軽く叩いて笑った。

その様子を微笑んでみていたマーギットさんが、ふと俺の方を見た。

「そういえば、マーカス君は商人としてちゃんと活動しているのであるな。商人の縁者なのかと思っていたが、旅団長や商工会長とも渡り合っていて立派だったである。」
「それは私も思ったよ。医者を呼びにやった時は臣民の為に治療費を援助しようという気持ちであったのだが、賠償金をもぎ取った上に芋の売上げで利益までもたらしすとは驚きだった。」
デリックさんまでが褒めてくれた。
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