191 / 324
第3章
第190話 芋を焼く
しおりを挟む
「ふむ。彼らがその芋は君にあげたものだというので‥‥貴族から物を盗んだという罪は成立しないことになる。よかったな。」
「え?貴族!」
デリックさんの言葉にタフィ君の身体が撥ねた。顔色が蒼白になった。
「ぼ、僕達‥‥貴族の方のものを‥‥。あなたは貴族‥‥。
」
タフィ君が絶望的な表情でマルロイ君を見上げた。マルロイ君は、ぎょっとちょっと慌てた様子でキョロキョロと視線を彷徨わせた。
「僕だけじゃないっぺ、皆貴族だっぺ。」
「え?」
タフィ君もミルフィちゃんも驚愕した様子。クラフティ君は、ミルフィちゃんにしがみついたまま、涙一杯の目で俺達を見上げていた。
ジョセフィンがパン屋に向かって歩いて行く。マーギットさんが付いて行ってくれるようだ。保護者を呼びに行ったのだ。
子供達をパン屋に連れて行った方が早そうだが、母親が病気というので全員で向かうのは良くないかもしれないと判断した。
ジョセフィン達が路地の角の見えない位置に入ったと思ったら、少しして男性が路地から飛び出てきた。キョロキョロした後、はっとしてこちらに向かって駆け出して来た。
その後ろにジョセフィン達の姿が見えた。
「タフィ、ミルフィ、クラフティ!」
大柄で髭面の男性は、消音魔法のエリアに入ると子供達の名前を怒鳴るように呼んだ。怪我をしたのは右腕らしい。板のような物で固定して包帯でグルグル捲きにしていた。
「「「お父さーん!!!」」」
子供達が飛びつくように男性にだきついた。男性はタフィ君の頭を掴むと、地面に膝をつき、タフィ君達も強引に跪かせて頭を深々と下げた。
「大変申し訳ございません!処罰は俺が受けますから!子供達の命だけはお助けを!」
「お、お父さん‥‥。」
「お父さん、死んじゃ嫌~。」
おとうさーん‥‥。」
パン屋のお父さんも子供達も泣いている。
ちょっとしたパニック状態だ。
問題の芋は、タフィ君にあげた事になったから、衛兵につきだしたりはしないと説明しても泣いていた。
パン屋のお父さんの名前はクグロフさん。タフィ君達が説明していた通り、腕を骨折してパンを捏ねることができない状態になり、パン屋を休業してしまっていた。少し前まで生活の為にクグロフさんの奥さんで彼らの母親のフィユテさんが食堂に働きに出ていたそうだ。しかし、先週くらいから熱を出して寝込んでいるという。
食堂の給金だけではなんとか食べて行くだけで精一杯で蓄えがなかったから薬も買えない状態になっているらしい。
奥さんの容態を聞き、旅用に持っていた薬を渡そうかと少し考えたが、医者を呼びに行かせる事にした。
ミルフィちゃんが案内してくれると言うのでユリウスとトマソンに一緒に向かってもらう。
懐中時計で、街の残りの滞在時間を計算し、まだ時間に余裕はある事を確認した。
店の中の様子を確認させてもらうと、薪は怪我をする前に冬仕度で大量に仕入れてあった。小麦もある。
だが、クグロフさんがパンを捏ねる事ができないから営業ができないのだ。
店内は思ったより広い。そして綺麗に清掃されていた。室内が意外と暖かいと思ったら、家族が食べる分だけ片手でパンを捏ねて焼いていたところだという。
「釜は温まっているし‥‥芋でも焼いたらどうですかね。」
ふと、タフィ君が握りしめている麻袋の中身を思い出して言ってみた。
「芋‥‥ですか?」
クグロフさんは、よく理解できないという様子で聞き返してきた。
「芋なら捏ねない焼くだけでしょう? 暖かくて馬車内にも持っていけるから馬車旅の団体が来た時に売れますよ。」
「な、なるほど‥‥。しかし‥‥店は‥‥。」
クグロフさんはチラリと店の正面玄関の方をみやった。そういえば雪で埋もれていたよな。
勝手口から外にでて店の周辺を見た。広場に面した側は雪の壁が出来ていてほとんど店が埋もれてしまっている。
クグロフさんは休業中で、街の商工会の会費が払えなかった為に店の前が除雪の対象外となっているという。それにしてもこれはちょっとないよねー。
店の前を除雪しないのと,店の前に雪を積み上げるのは別問題だ。
営業妨害じゃないか。
「え?貴族!」
デリックさんの言葉にタフィ君の身体が撥ねた。顔色が蒼白になった。
「ぼ、僕達‥‥貴族の方のものを‥‥。あなたは貴族‥‥。
」
タフィ君が絶望的な表情でマルロイ君を見上げた。マルロイ君は、ぎょっとちょっと慌てた様子でキョロキョロと視線を彷徨わせた。
「僕だけじゃないっぺ、皆貴族だっぺ。」
「え?」
タフィ君もミルフィちゃんも驚愕した様子。クラフティ君は、ミルフィちゃんにしがみついたまま、涙一杯の目で俺達を見上げていた。
ジョセフィンがパン屋に向かって歩いて行く。マーギットさんが付いて行ってくれるようだ。保護者を呼びに行ったのだ。
子供達をパン屋に連れて行った方が早そうだが、母親が病気というので全員で向かうのは良くないかもしれないと判断した。
ジョセフィン達が路地の角の見えない位置に入ったと思ったら、少しして男性が路地から飛び出てきた。キョロキョロした後、はっとしてこちらに向かって駆け出して来た。
その後ろにジョセフィン達の姿が見えた。
「タフィ、ミルフィ、クラフティ!」
大柄で髭面の男性は、消音魔法のエリアに入ると子供達の名前を怒鳴るように呼んだ。怪我をしたのは右腕らしい。板のような物で固定して包帯でグルグル捲きにしていた。
「「「お父さーん!!!」」」
子供達が飛びつくように男性にだきついた。男性はタフィ君の頭を掴むと、地面に膝をつき、タフィ君達も強引に跪かせて頭を深々と下げた。
「大変申し訳ございません!処罰は俺が受けますから!子供達の命だけはお助けを!」
「お、お父さん‥‥。」
「お父さん、死んじゃ嫌~。」
おとうさーん‥‥。」
パン屋のお父さんも子供達も泣いている。
ちょっとしたパニック状態だ。
問題の芋は、タフィ君にあげた事になったから、衛兵につきだしたりはしないと説明しても泣いていた。
パン屋のお父さんの名前はクグロフさん。タフィ君達が説明していた通り、腕を骨折してパンを捏ねることができない状態になり、パン屋を休業してしまっていた。少し前まで生活の為にクグロフさんの奥さんで彼らの母親のフィユテさんが食堂に働きに出ていたそうだ。しかし、先週くらいから熱を出して寝込んでいるという。
食堂の給金だけではなんとか食べて行くだけで精一杯で蓄えがなかったから薬も買えない状態になっているらしい。
奥さんの容態を聞き、旅用に持っていた薬を渡そうかと少し考えたが、医者を呼びに行かせる事にした。
ミルフィちゃんが案内してくれると言うのでユリウスとトマソンに一緒に向かってもらう。
懐中時計で、街の残りの滞在時間を計算し、まだ時間に余裕はある事を確認した。
店の中の様子を確認させてもらうと、薪は怪我をする前に冬仕度で大量に仕入れてあった。小麦もある。
だが、クグロフさんがパンを捏ねる事ができないから営業ができないのだ。
店内は思ったより広い。そして綺麗に清掃されていた。室内が意外と暖かいと思ったら、家族が食べる分だけ片手でパンを捏ねて焼いていたところだという。
「釜は温まっているし‥‥芋でも焼いたらどうですかね。」
ふと、タフィ君が握りしめている麻袋の中身を思い出して言ってみた。
「芋‥‥ですか?」
クグロフさんは、よく理解できないという様子で聞き返してきた。
「芋なら捏ねない焼くだけでしょう? 暖かくて馬車内にも持っていけるから馬車旅の団体が来た時に売れますよ。」
「な、なるほど‥‥。しかし‥‥店は‥‥。」
クグロフさんはチラリと店の正面玄関の方をみやった。そういえば雪で埋もれていたよな。
勝手口から外にでて店の周辺を見た。広場に面した側は雪の壁が出来ていてほとんど店が埋もれてしまっている。
クグロフさんは休業中で、街の商工会の会費が払えなかった為に店の前が除雪の対象外となっているという。それにしてもこれはちょっとないよねー。
店の前を除雪しないのと,店の前に雪を積み上げるのは別問題だ。
営業妨害じゃないか。
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
転生したらチートでした
ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!
見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く
堂夏千聖
ファンタジー
年の差のある夫に嫁がされ、捨て置かれていたエレオノーラ。
ある日、夫を尾行したところ、馬車の事故にあい、記憶喪失に。
記憶喪失のまま、隣国の王宮に引き取られることになったものの、だんだんと記憶が戻り、夫がいたことを思い出す。
幼かった少女が成長し、見向きもしてくれなかった夫に復讐したいと近づくが・・・?
始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです
夢々(むむ)
ファンタジー
今世の家庭環境が最低最悪な前世の記憶持ちの少女ラフィリア。5歳になりこのままでは両親に売られ奴隷人生まっしぐらになってしまうっっ...との思いから必死で逃げた先で魔法使いのおじいさんに出会い、ほのぼのスローライフを手に入れる............予定☆(初投稿・ノープロット・気まぐれ更新です(*´ω`*))※思いつくままに書いているので途中書き直すこともあるかもしれません(;^ω^)
この野菜は悪役令嬢がつくりました!
真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。
花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。
だけどレティシアの力には秘密があって……?
せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……!
レティシアの力を巡って動き出す陰謀……?
色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい!
毎日2〜3回更新予定
だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!
死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと
Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。
全能で楽しく公爵家!!
山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。
未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう!
転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。
スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。
※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。
※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。
転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する
山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。
やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。
人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。
当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。
脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。
旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉
Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」
華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。
彼女の名はサブリーナ。
エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。
そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。
然もである。
公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。
一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。
趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。
そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。
「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。
ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。
拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる