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第3章

第190話 芋を焼く

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「ふむ。彼らがその芋は君にあげたものだというので‥‥貴族から物を盗んだという罪は成立しないことになる。よかったな。」
「え?貴族!」

デリックさんの言葉にタフィ君の身体が撥ねた。顔色が蒼白になった。

「ぼ、僕達‥‥貴族の方のものを‥‥。あなたは貴族‥‥。

タフィ君が絶望的な表情でマルロイ君を見上げた。マルロイ君は、ぎょっとちょっと慌てた様子でキョロキョロと視線を彷徨わせた。

「僕だけじゃないっぺ、皆貴族だっぺ。」
「え?」

タフィ君もミルフィちゃんも驚愕した様子。クラフティ君は、ミルフィちゃんにしがみついたまま、涙一杯の目で俺達を見上げていた。

ジョセフィンがパン屋に向かって歩いて行く。マーギットさんが付いて行ってくれるようだ。保護者を呼びに行ったのだ。
子供達をパン屋に連れて行った方が早そうだが、母親が病気というので全員で向かうのは良くないかもしれないと判断した。

ジョセフィン達が路地の角の見えない位置に入ったと思ったら、少しして男性が路地から飛び出てきた。キョロキョロした後、はっとしてこちらに向かって駆け出して来た。
その後ろにジョセフィン達の姿が見えた。

「タフィ、ミルフィ、クラフティ!」
大柄で髭面の男性は、消音魔法のエリアに入ると子供達の名前を怒鳴るように呼んだ。怪我をしたのは右腕らしい。板のような物で固定して包帯でグルグル捲きにしていた。
「「「お父さーん!!!」」」

子供達が飛びつくように男性にだきついた。男性はタフィ君の頭を掴むと、地面に膝をつき、タフィ君達も強引に跪かせて頭を深々と下げた。

「大変申し訳ございません!処罰は俺が受けますから!子供達の命だけはお助けを!」
「お、お父さん‥‥。」
「お父さん、死んじゃ嫌~。」
おとうさーん‥‥。」

パン屋のお父さんも子供達も泣いている。
ちょっとしたパニック状態だ。

問題の芋は、タフィ君にあげた事になったから、衛兵につきだしたりはしないと説明しても泣いていた。
パン屋のお父さんの名前はクグロフさん。タフィ君達が説明していた通り、腕を骨折してパンを捏ねることができない状態になり、パン屋を休業してしまっていた。少し前まで生活の為にクグロフさんの奥さんで彼らの母親のフィユテさんが食堂に働きに出ていたそうだ。しかし、先週くらいから熱を出して寝込んでいるという。

食堂の給金だけではなんとか食べて行くだけで精一杯で蓄えがなかったから薬も買えない状態になっているらしい。
奥さんの容態を聞き、旅用に持っていた薬を渡そうかと少し考えたが、医者を呼びに行かせる事にした。
ミルフィちゃんが案内してくれると言うのでユリウスとトマソンに一緒に向かってもらう。
懐中時計で、街の残りの滞在時間を計算し、まだ時間に余裕はある事を確認した。
店の中の様子を確認させてもらうと、薪は怪我をする前に冬仕度で大量に仕入れてあった。小麦もある。
だが、クグロフさんがパンを捏ねる事ができないから営業ができないのだ。

店内は思ったより広い。そして綺麗に清掃されていた。室内が意外と暖かいと思ったら、家族が食べる分だけ片手でパンを捏ねて焼いていたところだという。

「釜は温まっているし‥‥芋でも焼いたらどうですかね。」

ふと、タフィ君が握りしめている麻袋の中身を思い出して言ってみた。

「芋‥‥ですか?」
クグロフさんは、よく理解できないという様子で聞き返してきた。

「芋なら捏ねない焼くだけでしょう? 暖かくて馬車内にも持っていけるから馬車旅の団体が来た時に売れますよ。」
「な、なるほど‥‥。しかし‥‥店は‥‥。」

クグロフさんはチラリと店の正面玄関の方をみやった。そういえば雪で埋もれていたよな。

勝手口から外にでて店の周辺を見た。広場に面した側は雪の壁が出来ていてほとんど店が埋もれてしまっている。
クグロフさんは休業中で、街の商工会の会費が払えなかった為に店の前が除雪の対象外となっているという。それにしてもこれはちょっとないよねー。

店の前を除雪しないのと,店の前に雪を積み上げるのは別問題だ。
営業妨害じゃないか。
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