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第3章
第189話 この芋は君のもの
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「きゃっ」
さっと避けた俺の傍を小さい人影がすり抜け、勢い余ったのか雪の上に転倒した。
女の子だ。
「ミルフィ姉ちゃん!」
小さい男の子が転倒した女の子に駆け寄った。その時目の端に動く影が映った。
「そっち‥‥!」
言いかけた時には、マルロイ君の手にしていた麻袋をひったくろうとする人影。
「うぉ!?」
ビーンと張りつめる麻袋の紐。男の子がマルロイ君と麻袋を引っぱり合っている状態になった。そして紐が引きちぎれた時には、マーギットさんが男の子を取り押さえていた。
「いけないであるよ。」
「ああ‥‥。」
男の子が絶望的な顔をした。
「タフィ兄ちゃん~!」
「お兄ちゃん~」
転んだ女の子と小さい男の子が泣き叫んだ。
「腹減ってたでござるか?」
ユリウスが腰を屈めて男の子の顔を覗き込んだ。
どうやら、女の子が俺にわざとぶつかり、騒いで注目を集めている隙に、マルロイ君がぶら下げていた麻袋を奪う作戦だったらしい。
俺が避けた為にぶつかり損なって女の子が転んだわけだが、注目は集まっていたので、そのまま作戦を続行して麻袋をひったくろうとしたようだ。
だが、マルロイ君が思ったよりしっかりと麻袋を掴んでいたから、引っぱり合う結果になってしまった。
ひったくりは犯罪なんだが、対象が芋だったのと、相手が痩せ細った子供達だったので、事情を聞いてみる事にした。
除雪済みの広場の端のベンチのところでお話。内容的に周囲に聞こえても良くないかと思って、消音魔法を展開する。
「あれ、なんか今魔法がでたっぺ?」
「なんだすかな。」
消音魔法に慣れていないマルロイ君達は、キョロキョロしていた。
「芋だったなんて‥‥。」
一番年上の男の子はタフィ君。12歳だそうだ。彼の言葉を信じるならばひったくりをしたのは初めて。意を決してひったくったものが、芋だった事が少しショックだったようだ。
麻袋を狙ったのはぶらぶらしていて奪いやすそうに見えたかららしい。
「お母さんの薬を買いたかったの‥‥。」
わぁっと女の子、ミルフィちゃんが泣き出した。ミルフィちゃんは10歳。タフィ君の妹で三兄弟。弟のクラフティ君は7歳だそうだ。
お父さんが怪我をして働けなくなり、生活費を稼ぐためにお母さんが働きに出ていたが高熱を出して寝込んでしまったそうだ。
薬屋に行ったがお金がなくて薬を手に入れる事ができず、困り果てて犯行を思いついたらしい。
「こんなことしたら、お母さんの病気どころか、一家で処罰されてしまうぞ。」
「ご、ごめっごめんなさい!うぅうぅぅ‥‥!」
眉間に深く皺を寄せたデリックさんとトマソンに見つめられてタフィ君も泣きじゃくり始めた。ミルフィちゃんもクラフティ君も泣いている。
外から見ると子供を囲んで泣かせているみたいに見えそうなので、消音魔法に周囲から見えないように壁をぼやかしモードをプラス。
広場に居る人達から注目はされていないな、と周囲を見回した時、路地の入り口近くのパン屋が目に留まった。
「もしかして君達の家ってパン屋?」
食堂でも仕入れ先のパン屋が怪我したって言っていたよな。
タフィ君とミルフィちゃんがはっとして顔を上げた。
みるみると顔を青ざめさせた。
「お、お父さんとお母さんは悪くないんだ。罰を受けるのは僕達だけで‥‥。」
「お父さん達も捕まっちゃうの‥‥?」
「‥‥こんな事を続ければいずれそうなるな。」
デリックさんはそう言うと、マルロイ君の方を振り返った。
「君が被害者だろう。どうする?衛兵につきだすか?」
「え? 衛兵だっぺ!?」
マルロイ君はいきなり、意見を求められて慌てて周囲を見回した。ユリウスと目が合うと,ユリウスの腕を掴んだ。
「ユリウス氏!元は君のものだっぺ!君の芋だっぺ!」
「拙者は、マルロイ氏にあげたでござるぅ。」
「そうだっぺか、じゃあ、僕は彼らにあげればいいだっぺ!」
マルロイ君が、シン君の方を見た。
「シン氏もそれで良いだっぺか? 彼ら腹ぺこだから芋はあげるっぺ?」
「僕もそれでいいだす。腹ぺこはつらいだす。」
シン君が頷いたのを見て、マルロイ君は取手の紐が切れた麻袋をタフィ君に差し出した。
「この芋は君のものだ。」
「‥‥あの‥‥、芋が欲しかった訳では‥‥。」
タフィ君は戸惑った様子で、目をキョロキョロさせながら麻袋を手にした。
さっと避けた俺の傍を小さい人影がすり抜け、勢い余ったのか雪の上に転倒した。
女の子だ。
「ミルフィ姉ちゃん!」
小さい男の子が転倒した女の子に駆け寄った。その時目の端に動く影が映った。
「そっち‥‥!」
言いかけた時には、マルロイ君の手にしていた麻袋をひったくろうとする人影。
「うぉ!?」
ビーンと張りつめる麻袋の紐。男の子がマルロイ君と麻袋を引っぱり合っている状態になった。そして紐が引きちぎれた時には、マーギットさんが男の子を取り押さえていた。
「いけないであるよ。」
「ああ‥‥。」
男の子が絶望的な顔をした。
「タフィ兄ちゃん~!」
「お兄ちゃん~」
転んだ女の子と小さい男の子が泣き叫んだ。
「腹減ってたでござるか?」
ユリウスが腰を屈めて男の子の顔を覗き込んだ。
どうやら、女の子が俺にわざとぶつかり、騒いで注目を集めている隙に、マルロイ君がぶら下げていた麻袋を奪う作戦だったらしい。
俺が避けた為にぶつかり損なって女の子が転んだわけだが、注目は集まっていたので、そのまま作戦を続行して麻袋をひったくろうとしたようだ。
だが、マルロイ君が思ったよりしっかりと麻袋を掴んでいたから、引っぱり合う結果になってしまった。
ひったくりは犯罪なんだが、対象が芋だったのと、相手が痩せ細った子供達だったので、事情を聞いてみる事にした。
除雪済みの広場の端のベンチのところでお話。内容的に周囲に聞こえても良くないかと思って、消音魔法を展開する。
「あれ、なんか今魔法がでたっぺ?」
「なんだすかな。」
消音魔法に慣れていないマルロイ君達は、キョロキョロしていた。
「芋だったなんて‥‥。」
一番年上の男の子はタフィ君。12歳だそうだ。彼の言葉を信じるならばひったくりをしたのは初めて。意を決してひったくったものが、芋だった事が少しショックだったようだ。
麻袋を狙ったのはぶらぶらしていて奪いやすそうに見えたかららしい。
「お母さんの薬を買いたかったの‥‥。」
わぁっと女の子、ミルフィちゃんが泣き出した。ミルフィちゃんは10歳。タフィ君の妹で三兄弟。弟のクラフティ君は7歳だそうだ。
お父さんが怪我をして働けなくなり、生活費を稼ぐためにお母さんが働きに出ていたが高熱を出して寝込んでしまったそうだ。
薬屋に行ったがお金がなくて薬を手に入れる事ができず、困り果てて犯行を思いついたらしい。
「こんなことしたら、お母さんの病気どころか、一家で処罰されてしまうぞ。」
「ご、ごめっごめんなさい!うぅうぅぅ‥‥!」
眉間に深く皺を寄せたデリックさんとトマソンに見つめられてタフィ君も泣きじゃくり始めた。ミルフィちゃんもクラフティ君も泣いている。
外から見ると子供を囲んで泣かせているみたいに見えそうなので、消音魔法に周囲から見えないように壁をぼやかしモードをプラス。
広場に居る人達から注目はされていないな、と周囲を見回した時、路地の入り口近くのパン屋が目に留まった。
「もしかして君達の家ってパン屋?」
食堂でも仕入れ先のパン屋が怪我したって言っていたよな。
タフィ君とミルフィちゃんがはっとして顔を上げた。
みるみると顔を青ざめさせた。
「お、お父さんとお母さんは悪くないんだ。罰を受けるのは僕達だけで‥‥。」
「お父さん達も捕まっちゃうの‥‥?」
「‥‥こんな事を続ければいずれそうなるな。」
デリックさんはそう言うと、マルロイ君の方を振り返った。
「君が被害者だろう。どうする?衛兵につきだすか?」
「え? 衛兵だっぺ!?」
マルロイ君はいきなり、意見を求められて慌てて周囲を見回した。ユリウスと目が合うと,ユリウスの腕を掴んだ。
「ユリウス氏!元は君のものだっぺ!君の芋だっぺ!」
「拙者は、マルロイ氏にあげたでござるぅ。」
「そうだっぺか、じゃあ、僕は彼らにあげればいいだっぺ!」
マルロイ君が、シン君の方を見た。
「シン氏もそれで良いだっぺか? 彼ら腹ぺこだから芋はあげるっぺ?」
「僕もそれでいいだす。腹ぺこはつらいだす。」
シン君が頷いたのを見て、マルロイ君は取手の紐が切れた麻袋をタフィ君に差し出した。
「この芋は君のものだ。」
「‥‥あの‥‥、芋が欲しかった訳では‥‥。」
タフィ君は戸惑った様子で、目をキョロキョロさせながら麻袋を手にした。
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