上 下
186 / 324
第3章

第185話 昼休憩の街

しおりを挟む
トマソンが気を遣っている感じがする。普段と勝手が違う旅だから、状況が見えないと余計に気遣いをさせてしまうかもしれないな。
せっかくの休暇旅なんだし、開示出来る情報はなるべく伝えて、一緒に楽しみたい。

そんな話をしているうちに、昼休憩をする街に到着した。
前の馬車に続いて、街の広場に馬車を乗り入れる。馬車の窓から外を覗くと魔導士の格好をした人物が数人、広場を除雪していた。
馬車を停める付近だけは到着とほぼ同時に除雪が行われたらしく、広場の端は馬車が通れる幅で雪がなくなっている。
残りの部分からも雪を除けて行くようだ。
広場の馬車停留側から外側に向かってザザーと雪の波が動いて行く。そして地面が現れて来た。
「おお!あれが除雪魔法でござるか!凍った湖に波が起きているみたいでござるな。」
馬車を降りかけたまま、動きを止めてユリウスが除雪魔法に見入った。
他の皆もその場に立ち尽くして広場を除雪して行く様子を興味深げに眺めていた。
魔導士達が立っている付近には他にも人物が数人いた。雪が広場の中心部分から消えると、一人が書類にサインをして、魔導士の近くにいた人物に手渡しているのが見えた。
街道の除雪のついでに、街の広場の除雪も依頼をしたということかもしれない。
魔導士達はその後、馬車の方に戻って行った。

俺達は馬車を降りてすっかり雪が消えた広場を見回した。
痛い程冷たい風が頬を叩くように撫でていく。慌てて俺達の周りだけ温熱魔法を展開した。

「おお!寒いでござる。懐の芋が冷えるでござる。」

王都で買った焼き芋はすっかり冷めている頃だ。懐に入れていたら人肌の温度ではあるだろうけど。
ユリウスは懐に芋の袋を入れているからか、お腹の辺りがボコッと膨らんでいた。

「芋は冷めてるだろ。持ち歩かない方がいいんじゃないか?」
「何かあったときの非常食になるでござる!」
「なるほど。安心は大事だな。」

雪は降っていなかったが、非常に寒いというのに、既に街の人が何人か広場に集まり始めていた。
馬車横に設置された屋根の下に台が置かれて、何か商品の販売をするらしい。
珍しそうに眺めているユリウス達を促して、街の食堂を目指した。

広場の外縁には雪が高く積み上げられていて分厚い壁のようになっていた。
食堂が建ち並ぶ通りに入る路地の手前にも雪が溜まって壁がそびえている。ふと、路地の角の片側が広場に面した店を見た。広場側の入り口が既に降り積もった雪と除雪の雪で完全に埋もれていた。
その場所はパン屋だったと思うのだが今は営業していないのだろうか。路地側の出入り口も雪が積もったまま溜まっていた。

路地は人力で人が通る部分だけ雪かきをしているようだった。雪かきがされた場所もその後にまた雪がふったりしたのか、薄く雪が積もっているし所々凍っていて、気をつけないと滑って転びそうだ。

「あれ?ジョスは?」
路地に入りかけた時、トマソンが周囲を見回した。
ジョセフィンの姿がないことに気がついたようだ。

「ああ、ジョスなら席の確保をしに先に行っているよ。」
一つの街に一度に大勢の人数が押し寄せるのだ、昼食を食べる場所は限られるからジョセフィンには到着して直ぐにランチの席の確保に行ってもらっていた。

「いつの間に‥‥。何から何まで世話になっているな。感謝する。」
「礼は後でジョスに直接言ってやってください。」
デリックさんの言葉にそう返すと、デリックさんは微笑んで頷いた。ユリウスがバッと手を上げた。

「拙者も、ランチ斥候したいでござる!次の街でチャレンジするでござる!」
「ああ、交代で席確保にあたるのはよいであるな。我もやろう。」

ユリウスの宣言にマーギットさんも賛同した。
トマソンとデリックさんも頷いている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

転生令息は攻略拒否!?~前世の記憶持ってます!~

深郷由希菜
ファンタジー
前世の記憶持ちの令息、ジョーン・マレットスは悩んでいた。 ここの世界は、前世で妹がやっていたR15のゲームで、自分が攻略対象の貴族であることを知っている。 それはまだいいが、攻略されることに抵抗のある『ある理由』があって・・・?! (追記.2018.06.24) 物語を書く上で、特に知識不足なところはネットで調べて書いております。 もし違っていた場合は修正しますので、遠慮なくお伝えください。 (追記2018.07.02) お気に入り400超え、驚きで声が出なくなっています。 どんどん上がる順位に不審者になりそうで怖いです。 (追記2018.07.24) お気に入りが最高634まできましたが、600超えた今も嬉しく思います。 今更ですが1日1エピソードは書きたいと思ってますが、かなりマイペースで進行しています。 ちなみに不審者は通り越しました。 (追記2018.07.26) 完結しました。要らないとタイトルに書いておきながらかなり使っていたので、サブタイトルを要りませんから持ってます、に変更しました。 お気に入りしてくださった方、見てくださった方、ありがとうございました!

愛されなかった私が転生して公爵家のお父様に愛されました

上野佐栁
ファンタジー
 前世では、愛されることなく死を迎える主人公。実の父親、皇帝陛下を殺害未遂の濡れ衣を着せられ死んでしまう。死を迎え、これで人生が終わりかと思ったら公爵家に転生をしてしまった主人公。前世で愛を知らずに育ったために人を信頼する事が出来なくなってしまい。しばらくは距離を置くが、だんだんと愛を受け入れるお話。

姉に代わって立派に息子を育てます! 前日譚

mio
恋愛
ウェルカ・ティー・バーセリクは侯爵家の二女であるが、母亡き後に侯爵家に嫁いできた義母、転がり込んできた義妹に姉と共に邪魔者扱いされていた。 王家へと嫁ぐ姉について王都に移住したウェルカは侯爵家から離れて、実母の実家へと身を寄せることになった。姉が嫁ぐ中、学園に通いながらウェルカは自分の才能を伸ばしていく。 数年後、多少の問題を抱えつつ姉は懐妊。しかし、出産と同時にその命は尽きてしまう。そして残された息子をウェルカは姉に代わって育てる決意をした。そのためにはなんとしても王宮での地位を確立しなければ! 自分でも考えていたよりだいぶ話数が伸びてしまったため、こちらを姉が子を産むまでの前日譚として本編は別に作っていきたいと思います。申し訳ございません。

幼馴染み達が寝取られたが,別にどうでもいい。

みっちゃん
ファンタジー
私達は勇者様と結婚するわ! そう言われたのが1年後に再会した幼馴染みと義姉と義妹だった。 「.....そうか,じゃあ婚約破棄は俺から両親達にいってくるよ。」 そう言って俺は彼女達と別れた。 しかし彼女達は知らない自分達が魅了にかかっていることを、主人公がそれに気づいていることも,そして,最初っから主人公は自分達をあまり好いていないことも。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...