上 下
185 / 324
第3章

第184話 出発の除雪魔法

しおりを挟む
皆が芋を堪能した頃、ジョセフィンが懐から取り出した懐中時計に目を落として時間を確認した。窓の外をチラリと見てから皆に言った。
「そろそろ出発です。他の馬車も移動を始めたようです。」

商業旅団に雇われた魔導士が馬車の隊列の先頭で街道から雪を取り除く魔法を放って進む。その後ろを商業旅団の馬車隊が続く。その後ろを俺達を含む馬車群。俺達のような便乗組はその後ろをついていくことによって、除雪された道を進めるのだ。
馬車を止めていた裏通りの路肩には、同じ様に商業旅団の出発の時間待ちの馬車が待機していた。
勝手に後ろを着いて行って良いわけではない。商業ギルドで今回の旅団に移動に同行する申請を出している。
付近に止められている馬車には皆同じような商業ギルドが発行したプレートがついているから、お仲間だということがわかるのだ。

「おお、いよいよ出発でござるか。」
ユリウスがごくんと芋の最後の一口を呑み込み。水を飲み干した。

走り出す時はテーブル席は片付けるとあらかじめ伝えてあったので、皆イソイソと自分の座っている椅子の背もたれの向きを変えたり、
テーブルを畳むのを手伝ってくれる。

「わくわくするであるな。魔導士の除雪魔法には興味があるである。」
「道中ずっと除雪の魔法を展開していくんだろう?大変なんじゃないか?」
商業旅団の隊列が街道に並んでいるのを見てマーギットさんが興味深そうに言うと、デリックさんが難しそうな顔をした。

「先頭馬者には魔導士が何人も乗っていて交代で魔法を放っているらしいであるよ。」
「魔導科の学生がやれば、ちょうど帰省もできるのではないか?」
「そもそも除雪魔法ができる者はそう多くないである。除雪魔法が使えたとしても、学生には厳しそうな仕事である。」
「まあ、何日も魔法使いっぱなしなのだろうな。」

魔導士の除雪魔法談義をしていたら、いよいよ本物の除雪魔法が展開される時間になったようだ。
ピーーッと笛の音が響き、わぁっと歓声が聞こえて来た。窓の外を覗くと遠くで雪が宙高く吹き上がっているのが見えた。出発の合図だ。

「うぉぉ!凄い魔法でござるな!ああやって除雪して行くでござるか。」
ユリウスが窓から顔を出して前方を見た。

「あれはパフォーマンスでわざと最初だけ派手にやっているらしいよ。出発のお知らせと、先頭はこっちっていうのを示す意味もあるんだって。」
「そうなんでござるか?ずっとぶわーっとやってたりしないでござるか。」
「除雪魔法は本来は、降り積もった雪を移動させる魔法である。宙高くまき散らしたのは、風魔法かなにかであるよ。」
「格好良かったでござるぅ。次の街を出る時にまたやるでござるかな。」

「ここまで派手にやるのは王都だけであろう。魔力を多く使うであるからな。何時間もこの雪の道を除雪して行くのであるぞ。魔力を回復させるために休む時間も必要なのである。」
「おおー!除雪魔法使って、休んで、魔法使って、休んでの繰り返しでござるかー。芋を食べる暇もないでござる。」

馬車が動きだし、前の馬車との車間を保ちながら進んでゆく。マーギットさんとユリウスは暫くの間は、除雪魔法について議論していた。
トマソンとデリックさんは地図をだして、経由する街等に印をつけたりメモをしたりしていた。

「‥‥昼に街に滞在する時間は、結構長めなんだな。」
「滞在した街で行商したりするらしいよ。」

経由地などの予定がざっくりと書かれたメモ眺めてトマソンが呟く様に言った。商業旅団なので、一つの目的地をひたすら目指すのではなく、経由する街で物を売ったり仕入れたりする事も目的としている。
旅団を受け入れる街側にとっても、雪で交通が不便になっている状況の中、物資の流入を期待されているのだ。

「ああ、なるほど。領主からの『商業旅団への支援』は領主側にも利点があるのだな。」
デリックさんが、納得した様に頷いた。

「領主側の利点とは?」
トマソンが手元の地図から顔を上げてデリックさんを見た。

「まあ、単純に言うと商業旅団が定期的に立ち寄る街となれば経済的に発展しやすくなるということだ。
ツヴァンで商人達が長期滞在出来る施設に滞在させてもらう予定だろう?ああいった施設の建設許可を領主が出すと商人が滞在しやすくなる。
商業旅団の経由地となって、市などが開催されやすくなる。定期市が開催される街には人が集まってくる。」
「ああ、そう言う事か。一泊銀貨一枚で宿泊出来るなど契約料は別で支払われていると言っても運営は問題ないのかと少し疑問に思っていたが、
商人が滞在しやすいようになっているのか。‥‥しかし、そうなると、俺達のような商人でもない者が滞在するのは利益はなにもないのではないか?」

トマソンが眉間の皺をぐりっと深くして俺の顔を見つめた。ちょっと目つきが怖いが心配している顔のようだ。

「前にも説明したと思うけど、使用していない時期の施設の有効利用だから問題ないよ。」
「‥‥そうか‥‥。何か負担になるような事があったら、遠慮なく言ってくれ。」
「うん。今のところ全く問題ないよ。でも、気にしてくれてありがとう。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。

章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。 真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。 破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。 そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。 けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。 タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。 小説家になろう様にも投稿。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!

りーさん
ファンタジー
 ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。 でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。 こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね! のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!

王家も我が家を馬鹿にしてますわよね

章槻雅希
ファンタジー
 よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。 『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

お姉さまは酷いずるいと言い続け、王子様に引き取られた自称・妹なんて知らない

あとさん♪
ファンタジー
わたくしが卒業する年に妹(自称)が学園に編入して来ました。 久しぶりの再会、と思いきや、行き成りわたくしに暴言をぶつけ、泣きながら走り去るという暴挙。 いつの間にかわたくしの名誉は地に落ちていたわ。 ずるいずるい、謝罪を要求する、姉妹格差がどーたらこーたら。 わたくし一人が我慢すればいいかと、思っていたら、今度は自称・婚約者が現れて婚約破棄宣言? もううんざり! 早く本当の立ち位置を理解させないと、あの子に騙される被害者は増える一方! そんな時、王子殿下が彼女を引き取りたいと言いだして──── ※この話は小説家になろうにも同時掲載しています。 ※設定は相変わらずゆるんゆるん。 ※シャティエル王国シリーズ4作目! ※過去の拙作 『相互理解は難しい(略)』の29年後、 『王宮勤めにも色々ありまして』の27年後、 『王女殿下のモラトリアム』の17年後の話になります。 上記と主人公が違います。未読でも話は分かるとは思いますが、知っているとなお面白いかと。 ※『俺の心を掴んだ姫は笑わない~見ていいのは俺だけだから!~』シリーズ5作目、オリヴァーくんが主役です! こちらもよろしくお願いします<(_ _)> ※ちょくちょく修正します。誤字撲滅! ※全9話

処理中です...