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第3章
第184話 出発の除雪魔法
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皆が芋を堪能した頃、ジョセフィンが懐から取り出した懐中時計に目を落として時間を確認した。窓の外をチラリと見てから皆に言った。
「そろそろ出発です。他の馬車も移動を始めたようです。」
商業旅団に雇われた魔導士が馬車の隊列の先頭で街道から雪を取り除く魔法を放って進む。その後ろを商業旅団の馬車隊が続く。その後ろを俺達を含む馬車群。俺達のような便乗組はその後ろをついていくことによって、除雪された道を進めるのだ。
馬車を止めていた裏通りの路肩には、同じ様に商業旅団の出発の時間待ちの馬車が待機していた。
勝手に後ろを着いて行って良いわけではない。商業ギルドで今回の旅団に移動に同行する申請を出している。
付近に止められている馬車には皆同じような商業ギルドが発行したプレートがついているから、お仲間だということがわかるのだ。
「おお、いよいよ出発でござるか。」
ユリウスがごくんと芋の最後の一口を呑み込み。水を飲み干した。
走り出す時はテーブル席は片付けるとあらかじめ伝えてあったので、皆イソイソと自分の座っている椅子の背もたれの向きを変えたり、
テーブルを畳むのを手伝ってくれる。
「わくわくするであるな。魔導士の除雪魔法には興味があるである。」
「道中ずっと除雪の魔法を展開していくんだろう?大変なんじゃないか?」
商業旅団の隊列が街道に並んでいるのを見てマーギットさんが興味深そうに言うと、デリックさんが難しそうな顔をした。
「先頭馬者には魔導士が何人も乗っていて交代で魔法を放っているらしいであるよ。」
「魔導科の学生がやれば、ちょうど帰省もできるのではないか?」
「そもそも除雪魔法ができる者はそう多くないである。除雪魔法が使えたとしても、学生には厳しそうな仕事である。」
「まあ、何日も魔法使いっぱなしなのだろうな。」
魔導士の除雪魔法談義をしていたら、いよいよ本物の除雪魔法が展開される時間になったようだ。
ピーーッと笛の音が響き、わぁっと歓声が聞こえて来た。窓の外を覗くと遠くで雪が宙高く吹き上がっているのが見えた。出発の合図だ。
「うぉぉ!凄い魔法でござるな!ああやって除雪して行くでござるか。」
ユリウスが窓から顔を出して前方を見た。
「あれはパフォーマンスでわざと最初だけ派手にやっているらしいよ。出発のお知らせと、先頭はこっちっていうのを示す意味もあるんだって。」
「そうなんでござるか?ずっとぶわーっとやってたりしないでござるか。」
「除雪魔法は本来は、降り積もった雪を移動させる魔法である。宙高くまき散らしたのは、風魔法かなにかであるよ。」
「格好良かったでござるぅ。次の街を出る時にまたやるでござるかな。」
「ここまで派手にやるのは王都だけであろう。魔力を多く使うであるからな。何時間もこの雪の道を除雪して行くのであるぞ。魔力を回復させるために休む時間も必要なのである。」
「おおー!除雪魔法使って、休んで、魔法使って、休んでの繰り返しでござるかー。芋を食べる暇もないでござる。」
馬車が動きだし、前の馬車との車間を保ちながら進んでゆく。マーギットさんとユリウスは暫くの間は、除雪魔法について議論していた。
トマソンとデリックさんは地図をだして、経由する街等に印をつけたりメモをしたりしていた。
「‥‥昼に街に滞在する時間は、結構長めなんだな。」
「滞在した街で行商したりするらしいよ。」
経由地などの予定がざっくりと書かれたメモ眺めてトマソンが呟く様に言った。商業旅団なので、一つの目的地をひたすら目指すのではなく、経由する街で物を売ったり仕入れたりする事も目的としている。
旅団を受け入れる街側にとっても、雪で交通が不便になっている状況の中、物資の流入を期待されているのだ。
「ああ、なるほど。領主からの『商業旅団への支援』は領主側にも利点があるのだな。」
デリックさんが、納得した様に頷いた。
「領主側の利点とは?」
トマソンが手元の地図から顔を上げてデリックさんを見た。
「まあ、単純に言うと商業旅団が定期的に立ち寄る街となれば経済的に発展しやすくなるということだ。
ツヴァンで商人達が長期滞在出来る施設に滞在させてもらう予定だろう?ああいった施設の建設許可を領主が出すと商人が滞在しやすくなる。
商業旅団の経由地となって、市などが開催されやすくなる。定期市が開催される街には人が集まってくる。」
「ああ、そう言う事か。一泊銀貨一枚で宿泊出来るなど契約料は別で支払われていると言っても運営は問題ないのかと少し疑問に思っていたが、
商人が滞在しやすいようになっているのか。‥‥しかし、そうなると、俺達のような商人でもない者が滞在するのは利益はなにもないのではないか?」
トマソンが眉間の皺をぐりっと深くして俺の顔を見つめた。ちょっと目つきが怖いが心配している顔のようだ。
「前にも説明したと思うけど、使用していない時期の施設の有効利用だから問題ないよ。」
「‥‥そうか‥‥。何か負担になるような事があったら、遠慮なく言ってくれ。」
「うん。今のところ全く問題ないよ。でも、気にしてくれてありがとう。」
「そろそろ出発です。他の馬車も移動を始めたようです。」
商業旅団に雇われた魔導士が馬車の隊列の先頭で街道から雪を取り除く魔法を放って進む。その後ろを商業旅団の馬車隊が続く。その後ろを俺達を含む馬車群。俺達のような便乗組はその後ろをついていくことによって、除雪された道を進めるのだ。
馬車を止めていた裏通りの路肩には、同じ様に商業旅団の出発の時間待ちの馬車が待機していた。
勝手に後ろを着いて行って良いわけではない。商業ギルドで今回の旅団に移動に同行する申請を出している。
付近に止められている馬車には皆同じような商業ギルドが発行したプレートがついているから、お仲間だということがわかるのだ。
「おお、いよいよ出発でござるか。」
ユリウスがごくんと芋の最後の一口を呑み込み。水を飲み干した。
走り出す時はテーブル席は片付けるとあらかじめ伝えてあったので、皆イソイソと自分の座っている椅子の背もたれの向きを変えたり、
テーブルを畳むのを手伝ってくれる。
「わくわくするであるな。魔導士の除雪魔法には興味があるである。」
「道中ずっと除雪の魔法を展開していくんだろう?大変なんじゃないか?」
商業旅団の隊列が街道に並んでいるのを見てマーギットさんが興味深そうに言うと、デリックさんが難しそうな顔をした。
「先頭馬者には魔導士が何人も乗っていて交代で魔法を放っているらしいであるよ。」
「魔導科の学生がやれば、ちょうど帰省もできるのではないか?」
「そもそも除雪魔法ができる者はそう多くないである。除雪魔法が使えたとしても、学生には厳しそうな仕事である。」
「まあ、何日も魔法使いっぱなしなのだろうな。」
魔導士の除雪魔法談義をしていたら、いよいよ本物の除雪魔法が展開される時間になったようだ。
ピーーッと笛の音が響き、わぁっと歓声が聞こえて来た。窓の外を覗くと遠くで雪が宙高く吹き上がっているのが見えた。出発の合図だ。
「うぉぉ!凄い魔法でござるな!ああやって除雪して行くでござるか。」
ユリウスが窓から顔を出して前方を見た。
「あれはパフォーマンスでわざと最初だけ派手にやっているらしいよ。出発のお知らせと、先頭はこっちっていうのを示す意味もあるんだって。」
「そうなんでござるか?ずっとぶわーっとやってたりしないでござるか。」
「除雪魔法は本来は、降り積もった雪を移動させる魔法である。宙高くまき散らしたのは、風魔法かなにかであるよ。」
「格好良かったでござるぅ。次の街を出る時にまたやるでござるかな。」
「ここまで派手にやるのは王都だけであろう。魔力を多く使うであるからな。何時間もこの雪の道を除雪して行くのであるぞ。魔力を回復させるために休む時間も必要なのである。」
「おおー!除雪魔法使って、休んで、魔法使って、休んでの繰り返しでござるかー。芋を食べる暇もないでござる。」
馬車が動きだし、前の馬車との車間を保ちながら進んでゆく。マーギットさんとユリウスは暫くの間は、除雪魔法について議論していた。
トマソンとデリックさんは地図をだして、経由する街等に印をつけたりメモをしたりしていた。
「‥‥昼に街に滞在する時間は、結構長めなんだな。」
「滞在した街で行商したりするらしいよ。」
経由地などの予定がざっくりと書かれたメモ眺めてトマソンが呟く様に言った。商業旅団なので、一つの目的地をひたすら目指すのではなく、経由する街で物を売ったり仕入れたりする事も目的としている。
旅団を受け入れる街側にとっても、雪で交通が不便になっている状況の中、物資の流入を期待されているのだ。
「ああ、なるほど。領主からの『商業旅団への支援』は領主側にも利点があるのだな。」
デリックさんが、納得した様に頷いた。
「領主側の利点とは?」
トマソンが手元の地図から顔を上げてデリックさんを見た。
「まあ、単純に言うと商業旅団が定期的に立ち寄る街となれば経済的に発展しやすくなるということだ。
ツヴァンで商人達が長期滞在出来る施設に滞在させてもらう予定だろう?ああいった施設の建設許可を領主が出すと商人が滞在しやすくなる。
商業旅団の経由地となって、市などが開催されやすくなる。定期市が開催される街には人が集まってくる。」
「ああ、そう言う事か。一泊銀貨一枚で宿泊出来るなど契約料は別で支払われていると言っても運営は問題ないのかと少し疑問に思っていたが、
商人が滞在しやすいようになっているのか。‥‥しかし、そうなると、俺達のような商人でもない者が滞在するのは利益はなにもないのではないか?」
トマソンが眉間の皺をぐりっと深くして俺の顔を見つめた。ちょっと目つきが怖いが心配している顔のようだ。
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