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第3章

第168話 連泊の提案

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翌日、ユリウスとトマソンに話をしてみたところ、ユリウスがビックリした様子で慌てだした。トマソンは、そんなユリウスの姿を見て当惑した様子。眉間の皺を深くして訝しげに見ている。

「ちょっ‥‥。ちょっ‥‥!消音‥‥。」
ユリウスは、バタバタと掌をひらつかせて何やらアピールしている。

どうやら消音魔法を使ってくれということらしい。うーん、何だか想定した反応と違う。
計画を話したらユリウスは喜んですぐに賛同してくれるんじゃないかと思っていたんだ。もしかして迷惑だっただろうか。

ちょっと心配になりながら消音魔法を展開した。周囲に魔力の壁が出来た事を確認できたのか、ふぅーっと大きな動作でユリウスが息を吐いた。

「‥‥聞き間違いかもしれないでござるが、宿泊費無料って言ったでござるか?」

「いや、暖房費はかかるんだよ。全部無料ではないよ。」
「それでもでござる!大変な事でござる!誰が聞いているか判らないでござるよ!」

さっ!さっ!と、派手な動作でユリウスが周囲を警戒してみせた。何だ?誰か聞かれてはまずい人物がいるということ?

「安い宿を確保したなどということを周囲に知られたらクレクレされるでござる。」

ユリウスが悲痛な表情で言う。どうやらクラスメートから安い宿を譲ってくれと言って来られる事が過去にあったようだ。

「あれは入学説明会の帰りでござる。帰りに王都の乗り合い馬車の待合い室にいたら、説明会で見かけた程度の人物が話しかけて来たのでござる。
泊まる街の安宿について聞かれたでござる。それで色々話をしたのでござるが、街についたら一番に馬車を降りて飛び出して行って先に宿を取られたでござるよ!次の街も、その次の街もでござるよ!」

宿は部屋数が少なくユリウスは行ったときは満室になってしまったそうだ。次の街の宿では負けじと頑張ったらしいのだが、相手が巧妙なのか再び先を越されてしまったらしい。

「夏の帰省の時もでござる!前の時の人物は同じ馬車ではなかったので安心していたのでござる。それで今度は頑張って安い部屋を確保できたのでござるが、別ノ人物が近付いてきて譲ってくれ譲ってくれとしつこかったんでござる!」

それは嫌な思いをしたんだな。

「魔導科の人?騎士科っていうか、ここは周りは仲間内がほとんどだから流石にそんなことはないと思うよ。」
「甘いでござる!直接聞いた人物がクレクレするとは限らないでござる。
聞いていた人物が誰かに話して噂が広がったりすることもあるでござるよ。壁に魔コガネでござる!」
「なるほど。確かに宿泊費無料とか聞いたら印象に残って、自分は泊まろうと思わなくても誰かに話したりはするかもしれないな。」
「そうでござる!天井に魔ネズミでござるよ!」

うん、確かに。壁に魔コガネ虫やら天井裏に魔ネズミとか配置したりするよね。
王都から離れた都市にある、一般の宿でもない契約施設なんて奪おうと思っても出来ないとは思うけど、そういう状況を把握せずにしつこく絡まれる可能性はあるかもしれないな。

「それでさ。どう?一般の宿みたいにウェルカムドリンクみたいなのはないし、連泊するなベッドメイキングも自分でやらないといけないけど‥‥。」
「拙者は泊まりたいでござる!寝具を整えるなど寮でもやっているでござるよ。」

情報が外部に漏れないという事が確認できて安心したのか、ようやくユリウスの顔に笑顔が浮かんで来た。
トマソンの顔にはまだ眉間の皺が残っている。心配そうな声で言った。

「ユリウス。単に宿泊場所の提案というわけではなく、マーカスが言っているのは連泊はどうかということだぞ。‥‥暖房費というのはどのくらいなんだ?」
トマソンが俺の方に顔を向けて尋ねて来た。

「一日銀貨一枚。」
トマソンの質問に俺が答えると、ユリウスが目を輝かせた。

「一泊銀貨一枚ってことでござるか?大部屋より安いでござるよ!」
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