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第3章

第148話 育毛の妙薬

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翌日、教室に行くと学友達の話題はやっぱり「晩秋の夕べ」の事だった。

「出待ちをトマソンに止められたでござる~。」

ユリウスは、鮮血の吟遊詩人に会いたくて、楽屋裏の出口近くに行こうとしていたらしい。トマソンが、「特進科のイベントで問題でも起こしたらどうするんだ。」と
ずるずるとユリウスを引き摺って帰ってきたそうだ。

「‥‥それは、お疲れだったね。」

ちょっと同情気味にトマソンに言うと、トマソンの眉間の皺がちょっと緩んだ。

「まあ、兄からすると気が紛れてよかったみたいだけど。」

デリックさんもユリウスの出待ち阻止に協力していたそうだ。デリックさんは、元婚約者が騒ぎを起こしていたことで少し動揺していたらしく
彼らの茶番劇の噂話をしている特進科の同級生達といるより、気が楽だと言っていたのだそうだ。
ユリウスは悪びれもせずに、前日の吟遊詩人の歌が如何に心を打ったか、実際にその姿を見て感動したかを語っていた。

「鮮血の吟遊詩人のあの血の様に赤く長い髪!あの長い髪だけでも素晴らしいでござる!
きっと白蛇魔獣の卵を丸呑みしたんでござる!」
「卵を丸呑みなんてしたらそっちの方が魔獣だろうが!」
「そのぐらい見事な髪だったでござるよ~。」

ユリウスとトマソンが言い合っている。白蛇魔獣の卵って話題が何で出て来た?

「ねえ、なんで吟遊詩人が白蛇魔獣の卵を丸呑みするの?」
「丸呑みなんて出来ないでござる!人間の頭より遥かに大きいでござるよ。」
「いや、自分で言ったんじゃん。」

ユリウスは両腕を広げて丸のような形を作ってみせた。人間の頭より大きい球体のようだ。白蛇魔獣の卵はそんなに大きいってことか。
トマソンは、眉間の皺を深くしながら小さく溜め息をついた。
「白蛇魔獣の卵は、昔から育毛の妙薬と言われてるんだよ。」
「育毛の妙薬?」
トマソンの言葉に俺が聞き返すと、パッとユリウスが目を見開いた。何やらポーズをとって自分の髪をかきあげて見せた。

「白蛇山地方に古くから伝わる伝承でござる!白蛇魔獣の親玉クラスは髪が生えているからそう言われるようになったという話もあるでござる。
でも、効果はあるらしいでござるよ。」
「へえ~。」
「髪に悩む貴族は大金を詰んで白蛇山に獲りにいかせたなんて話もあるでござるよ。」
「実際使ったって話はあるの?」
「伝承の中だけでござる!吟遊詩人の歌にも出て来たでござる!子供の頃に聞かせてもらったでござる!」

身振り手振りで少し興奮気味に話すユリウスの隣で、眉間に皺を寄せたままトマソンが頷いている。

「王様に命令されて獲りに行こうとして先祖が命を落としたって話も聞いたよ。」
「毛が欲しくて怪我した!みたいな小話はよく聞くでござるよ。」

実際に試したという話は物語の中でしか出て来ないようだけど、彼らの故郷の地域では昔から伝わっている話のようだ。
育毛の妙薬?
それ目当てで白蛇山の魔獣溢れを起こしたり、ってことはないよな? ‥‥あるのか?
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