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第3章

第135話 開演前

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ホールに入ってすぐ近くの所で給仕から受け取ったドリンクを片手に会場を見回している最中に、召還魔獣のチューニーから通知があった。
それなら、と既に外に召還済みのピーハチに指示を出す。
ピーハチからも反応があって会場近くの木の枝から飛び立って行ったのが分かった。

ホールに並べられた手近な席に腰を下ろした。ジョセフィンが何も言わずに隣に座る。

「あれー?もっと前の席に行かないの?」

ヘンリーが俺達が座ったのを見て、舞台の方向を指差した。前の席がまだがら空きだからね。

「うん。まだ時間有るし、ここでドリンク飲んでる。後で前の方も行ってみるよ。」

ヘンリーにそう言って手を振ったら納得したようで、キョロキョロしながら会場の前方に歩いて行った。その近くでユリウスとトマソンはまだじゃれている。

「トマソン氏!もし鮮血の吟遊詩人殿が竜骨の詩を歌われたら、拙者はこの竜のポーズをとろうかと思うでござるが、どうでござるか?」
「やめろ。頼むからじっとして観てろよ。」

ユリウスがなにやらクネクネしたポーズをとるのをトマソンが眉間に皺を激しく寄せながら止めていた。

椅子に深く座り直して両腕を組む。少し目を閉じて感覚共有モードになった。
1分程し感覚共有継続した後にそれを解き、目を開いた。
目がチカチカする。少しじっとしていよう。

そのまま椅子に座り、休みながら会場にぽつりぽつりと特進科の生徒らしき人達が集まり始めている様子を眺めた。

エドワードの姿を見つけた。舞台近くを歩きながらキョロキョロしている。落ち着きなさいって。
俺達の姿に気がついたのかこちらの方を見て、数秒動きを止めた。そして歩き出す。
お互い声をかけないようにと事前に話していたから、態度に見せないようにしているらしい。でもチラチラこっちを見てるんだよな。

しばらくして、前方の入り口からゾロゾロと騎士に囲まれた集団が現れた。その中にトリー殿下の姿が見える。斜め前に少し背が高めの銀髪の男。
あれがベーレンドルフ宰相子息か。
エドワードが何か声をかけられたようで、その集団に加わった。集団の一番後ろにつく。

集団は舞台前の中央の座席を陣取った。一番中央がトリー殿下でその周りを集団のメンバーで囲んでいる。通路で区切られたそのエリアは彼らだけが座るようだ。通路に騎士が立って、他の人が座るのを拒んでいるように見えた。上級生差し置いていて最前列を占領していて良いのか?

「殿下の為に良い席を確保」はいかにも正当性がありそうだけど、殿下を利用して優遇されようとしていないか?

王族がいる年は例年こうなんだろうか。殿下を利用しているみたいで、なんだかもやっとする。

会場時間が近付くにつれて人が集まって来た。
クラーラさんがカサンドラとイリーと一緒に会場に入ってきた。三人とも背が高いから結構目立つなぁ。
何人かは彼女達をチラチラと見ている。カサンドラとイリーが騎士服なので女性騎士の護衛をつれた姫君の図みたいな感じだ。

彼女達が席を決めて着席する前に、図書委員軍団が会場に入って来た。全員ピンクのジャケットを来ている。え、その色なの?

凄く目立つから探さなくても目についたけどさ。
俺が断った後に別の所で作らせたのか。でも厳かな席で着るには色微妙じゃね?まあ、好みは人それぞれだけどね。

ピンクジャケットを着て会場に入って来たのは四人。
エルマーさんと、ロセウス子爵令嬢。ラウム伯爵令息とカティス男爵令息だ。
もう一人ゼラルド伯爵令息の姿は見えなかったけど、すぐにラウム伯爵令息とカティス男爵令息もその場を離れて居なくなった。

残ったエルマーさんとロセウス子爵令嬢の二人で給仕から飲み物を受け取り、ゆっくりとクラーラさん達が居る方へ歩いて行く。
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