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第3章

第88話 修羅場でござる

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ユリウスの話が大きくなってきたので俺もスルーしたくなってきたけど、そもそも試作品の話から出ている話題なので放置しておくのも気が引ける。

「‥‥特進科への連絡だけど。伝言は頼めるはずだよ。庶務課だったかな。」

助言をしたら、バッとユリウスがこちらを向いて俺に手を伸ばした。パン!と音を立ててジョセフィンの手がユリウスの手を受け止めた。
ユリウスは眉をぴくんと上げて少しビックリしたようにジョセフィンを見た後、俺に視線を戻した。

「伝言しにいくでござる!案内して欲しいでござる!」

トマソンの方に向き直って、顔を覗き込むようにする。

「トマソン氏、行くでござる。兄君に伝言をしにいくでござるよ。」
「えぇ~。」

トマソンは、困惑顔ながら渋々立ち上がった。
ちらりと、時計を見やると、まだ始業まで余裕がある。
まあ、一緒に行ってもいいか。
ジョセフィンに目配せをした。

「騎士科の棟の部署に頼むより、特進科の棟の庶務課に頼む方が早いと思いますよ。」

トマソンの兄に伝言を届ける為廊下を歩く。ジョセフィンは階段付近に掲示されている学内地図の前で足を止めて、地図上の特進科の学舎を指差した。

「原則,特進科の学舎には立ち入れないってなってるけど、受付窓口には行けるはずです。」
「おお!ジョセフィン氏は物知りでござるな。さあ、トマソン氏行くでござる。行くでござる。」
「‥‥もう‥‥わかったよ。」

眉間に皺を寄せたまま、不機嫌そうにトマソンは大股でずんずんと歩く。
特進科の学舎へと続く、渡り廊下に出た時、何やら言い争うような声が聞こえた。


「きゃ!今睨まれましたわ~。怖い~、エルマー様ぁ~。」
「クラーラ!」
「エルマー様、私は何も‥‥。ただ‥‥エルマー様に少し近づき過ぎではないでしょうか。」
「マリエル嬢から、委員会の事について相談を受けていただけだ。最近は委員になったばかりで不安なのだそうだ。
困っている後輩を助けるのは先輩として当然であろう。いちいち目くじらをたてるな。」
「でも‥‥あの‥‥、婚約者の居る男性に‥‥。」
「エルマー様ぁ~、また睨まれましたぁ~。怖いですぅ~。

争い事からは距離を置こうと、方向転換しようとしたけど、聞いた事がある名前と声が耳に入って、立ち止まった。

クラーラさんだ。それと金髪の男とローズピンクの髪の令嬢が言い争っている。
ローズピンクの令嬢に見覚えがあるぞ。
はっと、してトマソンを見た。ダンスのレッスンの時に、トマソンがパートナー交換をしようとしていた令嬢だ。トマソンが立ち止まったまま、睨みつけるように三人の方に目を向けていた。

「いきなり修羅場でござるか!」

ユリウスが大きな声を上げた。言い争っていた三人がピクリとして動きを止めた。

「上級生でござるかな。ククク‥‥。大人の世界でござるなぁ。」

ユリウスが俺の袖をくいくいと引っ張った。
ちょっと‥‥そこに俺を巻き込む?
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