上 下
81 / 324
第3章

第80話 くじ運は良かったけど

しおりを挟む
無事(?)買い物に行く約束をしたところで、曲が終わった。
二人きりでの買い物じゃないけど、前は、荷物持ちにも参加できなかったんだから、進歩だ。‥‥うん、進歩だ。

少しばかり自分に層いい聞かせながら丁寧にお辞儀をして、笑顔で手を振って別れてから、次のパートナーの番号の人を探しに行く。

自分と同じ番号札を持っている令嬢を探して周囲を見回すと、トマソンとユリウスが令嬢二人と話をしているのが見えた。
トマソンが眉間に皺を寄せて不機嫌そうな顔をしている。ローズピンクの髪色の令嬢が、何か機嫌悪そうにしゃべっている。

栗色の髪の令嬢は戸惑った表情を浮かべている。オロオロしている感じ。
ユリウスはこちらに背中を向けているので表情は見えないけど、キョロキョロと顔を動かしている。
スタスタと、ディートフリードが4人に近づいていった。

「たかだかダンスレッスンの1曲のパートナーだぞ。その程度で揉めないでくれ。」

ディートフリードの良く通る声がホールに響いた。
ダンス講師の先生も気がついたらしくて彼らのいる方に近づいて行っている。
注目が集まって、周囲が静かになる。クラヴィーアの演奏も止まった。

「レッスンの1曲とはいえ、‥‥家の事情だ。」

トマソンが、むすっとした様子で言った。
くじ引きのパートナーはむやみに交換するのは禁止というルールになっているけど、貴族の派閥などで、敢えて仲良くすることを避けている場合などには
無理強いはされない。
レッスンとはいえ、政敵の子息子女同士でダンスを踊るのはトラブルの元になりかねないからだ。
それを聞いて、ディートフリードの口調が少し柔らかくなった。

「‥‥そうか‥‥。それで、パートナー交換となったのなら交換すればいい話じゃないか?」
「拙者と交換するのが嫌だと言われたでござる。」

ディートフリードが聞き込みを続けると、ユリウスが、ちょっと元気がない声で言った。

「だって、変な手袋つけてるんですもの!」

ローズピンクの巻き毛の令嬢が、頬を膨らませた。

「手袋ははずす訳にはいかないでござる!」

‥‥成る程、家の事情でパートナー交換をしようとしたら、交換相手のユリウスが拒否されたってことか。ユリウス、巻き込まれて気の毒に‥‥。

「貴方達は、次のダンスは見学になさい。」

揉め事は先生の一言で終了した。
四人はダンスは踊らず、ホールの隅で見学することになったようだ。
ユリウスと茶髪の令嬢は、ダンスを踊っても良かったんじゃないのか?とばっちりだよなぁ。

結局微妙な空気のままダンスの授業が終わった。
フローラと買い物に行く約束をして、幸せ気分だったのに。

でも、せっかくフローラと出かける約束ができたんだから、テンション下げている場合じゃないよな。

「おお、買い物の約束ですか。」

ダンスの授業の後、次の教室に移動しながらジョセフィンに言うと、ジョセフィンの口元がなんかニヨニヨと動いた。

「ああ、本格的に冬になる前に‥‥と、フローラの気が変わらないうちに‥‥。」
「ちょい弱気ですね。お友達にも声をかけると言っていたのなら、こちらも、騎士科メンバーに声をかけたほうがいいんじゃないですか。」
「そういうもの?」
「全員の荷物持ちとか期待されていたらどうします?」
「おお‥‥。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚された回復術士のおっさんは勇者パーティから追い出されたので子どもの姿で旅をするそうです

かものはし
ファンタジー
この力は危険だからあまり使わないようにしよう――。 そんな風に考えていたら役立たずのポンコツ扱いされて勇者パーティから追い出された保井武・32歳。 とりあえず腹が減ったので近くの町にいくことにしたがあの勇者パーティにいた自分の顔は割れてたりする? パーティから追い出されたなんて噂されると恥ずかしいし……。そうだ別人になろう。 そんなこんなで始まるキュートな少年の姿をしたおっさんの冒険譚。 目指すは復讐? スローライフ? ……それは誰にも分かりません。 とにかく書きたいことを思いつきで進めるちょっとえっちな珍道中、はじめました。

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜

はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。 目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。 家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。 この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。 「人違いじゃないかー!」 ……奏の叫びももう神には届かない。 家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。 戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。 植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。

世界最強の公爵様は娘が可愛くて仕方ない

猫乃真鶴
ファンタジー
トゥイリアース王国の筆頭公爵家、ヴァーミリオン。その現当主アルベルト・ヴァーミリオンは、王宮のみならず王都ミリールにおいても名の通った人物であった。 まずその美貌。女性のみならず男性であっても、一目見ただけで誰もが目を奪われる。あと、公爵家だけあってお金持ちだ。王家始まって以来の最高の魔法使いなんて呼び名もある。実際、王国中の魔導士を集めても彼に敵う者は存在しなかった。 ただし、彼は持った全ての力を愛娘リリアンの為にしか使わない。 財力も、魔力も、顔の良さも、権力も。 なぜなら彼は、娘命の、究極の娘馬鹿だからだ。 ※このお話は、日常系のギャグです。 ※小説家になろう様にも掲載しています。 ※2024年5月 タイトルとあらすじを変更しました。

残滓と呼ばれたウィザード、絶望の底で大覚醒! 僕を虐げてくれたみんなのおかげだよ(ニヤリ)

SHO
ファンタジー
15歳になり、女神からの神託の儀で魔法使い(ウィザード)のジョブを授かった少年ショーンは、幼馴染で剣闘士(ソードファイター)のジョブを授かったデライラと共に、冒険者になるべく街に出た。 しかし、着々と実績を上げていくデライラとは正反対に、ショーンはまともに魔法を発動する事すら出来ない。 相棒のデライラからは愛想を尽かされ、他の冒険者たちからも孤立していくショーンのたった一つの心の拠り所は、森で助けた黒ウサギのノワールだった。 そんなある日、ショーンに悲劇が襲い掛かる。しかしその悲劇が、彼の人生を一変させた。 無双あり、ザマァあり、復讐あり、もふもふありの大冒険、いざ開幕!

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

処理中です...