上 下
75 / 324
第3章

第74話 カフェテリアで内緒話

しおりを挟む
咄嗟に消音魔法を解除したら、ユリウスの声が響いた。

「教科書貰ったでござっ‥‥!あ~!!」

机に足を引っかけたらしく、つんのめった。
手にしていた教科書がすっとぶ。

こちらに飛んで来た教科書をキャッチして、ユリウスに渡してやる。

「かたじけないでござる!」

ユリウスが、笑顔で言った後、頭を下げた。
俺はちらりと、トマソンの方を見た。

「ね、時間がある時に貰いに行った方が安全だろ?」

トマソンは眉間に皺を寄せて、ちょっと渋い顔。ユリウスは散らばった教科書を拾い集めていた。


休暇明け初の昼休みは、学科共有のカフェテリアで、エドワードが待っていた。

「どうだった?猫ダンジョンは。」
「言う程『猫』じゃなかった。まあ、『猫』だったけど。」
「どっちだよ。」

クスクスとエドワードが笑う。
事前に、騎士科の皆と猫ダンジョンに行くことは伝えてあった。興味深そうにしていたので誘ってはみたけど、戦闘経験がほぼないそうで、
土産話だけ約束していたのだ。

「いわゆる可愛らしい猫は、第一階層以外いなくて、大型の猫型魔獣ばっかりだったんだよ。」

ヘンリーが第一階層でテンションが上がりすぎて、大変だった話もすると、エドワードはケラケラ笑った。

「いいなー。楽しそうでうらやましくなっちゃうよ。‥‥あ、今日特進科から一人騎士科に行かなかった?」
「ああ、トマソン・ダリス伯爵令息のこと?来たよ。」
「そうそう。その手があったのか、ってちょっと思っちゃった。騎士科に行ったら、マーカスとジョスに何時でも会えるんだよね。
 まあ、僕は、武術できないから、もしもって話なだけだけど。」

エドワードは、実家の領地の財政が厳しくて授業料が払えなくなるかもしれなかったときの事を思い出したようだった。

「会うのは何時でもできるんだから、わざわざ転属しなくてよくないか?」
「そうか。そうだね!」

エドワードがくすぐったそうに笑った。
そして、ふと思い出したように目を見開いて、周囲をキョロキョロと見回してから、俺の方を見た。

「マーカス‥‥。あの‥‥、パッってやつ、ちょっとやってくれる?」

そう言って軽く手を振る。消音魔法の事か。
言われた通りに手を振って消音魔法を展開する。唇が読まれないように周囲から見え難くもしておく。
エドワードは、確認するように周辺を見回した。そしてふーっと息を吐き出した。

「流石。‥‥あ、あのね。もし、話したく無い事だったら、答えなくていいんだけど。‥‥以前から気になってたんだけど。マーカスは従兄弟と仲はよくないの?」

消音魔法をかけたことは確認しているのに、小声になってエドワードが言った。従兄弟って‥‥、トリー殿下のことか。

「‥‥仲はいいよ。仲いいけど、俺が従兄弟だって事は知らないと思う。」
「え、名乗ってないってこと?学園で交流はあるの?」
「学園で交流はあるけど、学園に入るまでは会った事がなかったからね。プリメレモンとしか言ってない。」
「そっかー。うーん。どうしようかなぁ。」

エドワードはサーモンのソテーを口に放り込んだ後、カトラリーを置いて、目線を天井に移した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生したらチートでした

ユナネコ
ファンタジー
通り魔に刺されそうになっていた親友を助けたら死んじゃってまさかの転生!?物語だけの話だと思ってたけど、まさかほんとにあるなんて!よし、第二の人生楽しむぞー!!

見捨てられた令嬢は、王宮でかえり咲く

堂夏千聖
ファンタジー
年の差のある夫に嫁がされ、捨て置かれていたエレオノーラ。 ある日、夫を尾行したところ、馬車の事故にあい、記憶喪失に。 記憶喪失のまま、隣国の王宮に引き取られることになったものの、だんだんと記憶が戻り、夫がいたことを思い出す。 幼かった少女が成長し、見向きもしてくれなかった夫に復讐したいと近づくが・・・?

【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断

Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。 23歳の公爵家当主ジークヴァルト。 年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。 ただの女友達だと彼は言う。 だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。 彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。 また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。 エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。 覆す事は出来ない。 溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。 そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。 二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。 これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。 エルネスティーネは限界だった。 一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。 初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。 だから愛する男の前で死を選ぶ。 永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。 矛盾した想いを抱え彼女は今――――。 長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。 センシティブな所へ触れるかもしれません。 これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。

令嬢に転生してよかった!〜婚約者を取られても強く生きます。〜

三月べに
ファンタジー
 令嬢に転生してよかった〜!!!  素朴な令嬢に婚約者である王子を取られたショックで学園を飛び出したが、前世の記憶を思い出す。  少女漫画や小説大好き人間だった前世。  転生先は、魔法溢れるファンタジーな世界だった。リディーは十分すぎるほど愛されて育ったことに喜ぶも、婚約破棄の事実を知った家族の反応と、貴族内の自分の立場の危うさを恐れる。  そして家出を決意。そのまま旅をしながら、冒険者になるリディーだったのだが? 【連載再開しました! 二章 冒険編。】

始まりは最悪でも幸せとは出会えるものです

夢々(むむ)
ファンタジー
今世の家庭環境が最低最悪な前世の記憶持ちの少女ラフィリア。5歳になりこのままでは両親に売られ奴隷人生まっしぐらになってしまうっっ...との思いから必死で逃げた先で魔法使いのおじいさんに出会い、ほのぼのスローライフを手に入れる............予定☆(初投稿・ノープロット・気まぐれ更新です(*´ω`*))※思いつくままに書いているので途中書き直すこともあるかもしれません(;^ω^)

死に戻り公爵令嬢が嫁ぎ先の辺境で思い残したこと

Yapa
ファンタジー
ルーネ・ゼファニヤは公爵家の三女だが体が弱く、貧乏くじを押し付けられるように元戦奴で英雄の新米辺境伯ムソン・ペリシテに嫁ぐことに。 寒い地域であることが弱い体にたたり早逝してしまうが、ルーネは初夜に死に戻る。 もしもやり直せるなら、ルーネはしたいことがあったのだった。

この野菜は悪役令嬢がつくりました!

真鳥カノ
ファンタジー
幼い頃から聖女候補として育った公爵令嬢レティシアは、婚約者である王子から突然、婚約破棄を宣言される。 花や植物に『恵み』を与えるはずの聖女なのに、何故か花を枯らしてしまったレティシアは「偽聖女」とまで呼ばれ、どん底に落ちる。 だけどレティシアの力には秘密があって……? せっかくだからのんびり花や野菜でも育てようとするレティシアは、どこでもやらかす……! レティシアの力を巡って動き出す陰謀……? 色々起こっているけれど、私は今日も野菜を作ったり食べたり忙しい! 毎日2〜3回更新予定 だいたい6時30分、昼12時頃、18時頃のどこかで更新します!

転生者の取り巻き令嬢は無自覚に無双する

山本いとう
ファンタジー
異世界へと転生してきた悪役令嬢の取り巻き令嬢マリアは、辺境にある伯爵領で、世界を支配しているのは武力だと気付き、生き残るためのトレーニングの開発を始める。 やがて人智を超え始めるマリア式トレーニング。 人外の力を手に入れるモールド伯爵領の面々。 当然、武力だけが全てではない貴族世界とはギャップがある訳で…。 脳筋猫かぶり取り巻き令嬢に、王国中が振り回される時は近い。

処理中です...