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第3章

第66話 現れた騎士兄妹

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「あ、すまない。驚かせて。」

青銀色の髪の男性が黒い革手袋をした両手を前に出してみせる。

「ちょっと安全地帯を使わせてもらいたいと思っただけなんだ。妹を休ませたくて。」
「お兄様、私は大丈夫です。ご迷惑になりますから先に進みましょう。」

男性の後ろから、男性と同じような青銀髪をした女性がちらりと姿を見せた。カサンドラ程ではないけど背が高い。青銀髪の巻き毛をポニーテールにしている。

「あ、占領していて申し訳ないです。皆、ちょっと寄って場所を空けてもいいかな?」

俺はそう言ってから、ジョセフィンの肩にポンと手を置いて耳打ちをした。ジョセフィンが頷く。
男性の装備。着いている紋章と髪の色から、大体身元がわかったからだ。王宮騎士団の装備。紋章と髪の色は、アイヴリンガー侯爵家の一族だとわかる。
得体の知れない人物だったら、ダンジョンという、他に助けを求め難い場所で狭い空間で一緒にいるのは危険が伴う。
だからこそ、この男性も、紋章をはっきり見えるようにして立っているのだろう。

「あ、どうぞ。こちらに。」

イリーとカサンドラの動きが速い。
入り口から入って左の壁際に敷物を敷いて案内をした。

「ありがとう。私はヴィルヘルム・アイヴリンガー。こちらは妹のクラーラだ。名前で呼んで構わない。」

ヴィルヘルムさんが名乗り、クラーラさんもお辞儀をした。こちらも、名乗り、お茶を勧めた。
クラーラさんはちょっと疲れた様子で青白い顔をしていた。
勧められたお茶の入ったカップを両手でもって、一口飲んでホッとした様子になった。

「ありがとう。美味しいわ。」

ヴィルヘルムさんは、装備の通り、王宮の騎士団に所属していて、学園の騎士科の卒業生だった。クラーラさんは特進科の1年生だという。
僕たちが学園の騎士科の学生だということは、パッと見で見当がついたそうだ。
まあ、おなじくらいの年齢の冒険者に比べて、全員装備が高めの物だし、小綺麗だからね。
クラーラさんはダンジョンは初めてで、少し魔力の配分に失敗して疲れてしまったらしい。

「お恥ずかしいですわ。」

上品な微笑みを浮かべるクラーラさん。
ガハハと笑うヴィルヘルムさん。いや、侯爵令嬢を初めてのダンジョンに連れてくるなら、もうちょっと大人数で来た方がいいんじゃないのかな。
ちょっと突っ込みたいけど、相手が侯爵家の方々なので、皆遠慮してあまりしゃべらない。
でも、なるべく会話を続けようと努める。

「‥‥ダンジョンへは、訓練でいらしたんですか?」
「いや、猫の目魔石を獲りに来たんだ。」
「へぇ。第五階層ですか?」

猫の目魔石は、その名の通り、猫の目のような文様をしていて、魔力含有した石だ
「先を見通す」とか縁起ものとして使われる事も多くて、高価だ。主に第五階層以降でドロップすると言われている。

「いや、流石に初心者を連れて第五階層は厳しいからね。確率は高くないけど第三階層でもドロップする事があるらしいと聞いて来たんだよ。」
「初めてだったら、第三階層だって厳しくないですか?」
「そうなんだよなぁ。まだ第一階層だというのに無理させちゃったんだよね‥‥。第一階層は小さい魔獣がちょろちょろいるからね。」

俺とヴィルヘルムさんだけで会話しているみたいになってる。

「第二階層は、大きい魔獣になりますよね。数は少なくなると思いますけど、危険度は増すんじゃないですか?」
「妹に怪我はさせない。」

ヴィルヘルムさんが、少し得意げに胸を反らした。

「お兄様ったら‥‥。」

クラーラさんがふぅと小さく溜め息をついた。

「わたくしも、甥の誕生にお祝いを贈りたくて、着いてきてしまいましたけれど、もしも私を庇うためにお兄様が怪我をしたりしたら
お義姉様とギルベルトに合わせる顔が無いではないですか。」
「え?それって‥‥。」

ヴィルヘルムさんが、ちょっと照れたような顔をする。
ご子息が生まれたばかりだという。いや、それで妹君連れてダンジョンってどうなの?

「おめでとうございます。‥‥でも、クラーラ嬢の言う通りですよ。奥方も心配されますよ。」
「大丈夫だ。初級ダンジョンくらいでは、心配しない。」
「妹君も一緒なのは、奥方はご存知なのですか?」
「言ってない。心配するから。」
「ちょっと!」

思わずツッコむとガハハと笑うヴィルヘルムさん。脳筋なの?
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