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第2章

第40話 羽根ペンあります

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「チャンスじゃないですか? エルストベルク産の文官スワンを売り出すのに。」

店を出てから、少ししてジョセフィンが言う。俺はちょっと肩を竦めた。

「まあ、そうだけどね。少し素材を融通して恩を売っておくのもいいんじゃないかな。うちはまだ新興の商会だし。独占したって恨まれても困るからね。」

エルスト商会では、他の店との違いをつけるため、羽根の部分は取り外して、持ちやすさを重視したペン軸にペン先を差し込んで使用するタイプを売り出していた。

羽根がついている方が目につきやすいし、羽根を好む人も多いだろうから、通常の羽根ペンも用意して、ディスプレイしておこう。

ジョセフィンと二人で、構想を話し合いながら歩いていると、先程羽根ペンを買いに来た男性が、別の店から出て来たところだった。背中を丸めて見るからに落胆した様子だ。

「はー、どうしよう‥‥。」

まさか、文官スワンの羽根ペンがないことで落ち込んでいるんだろうか。
性能は劣っていても他の水鳥の羽根ペンは、売られていたし、そこまで困るものでもないと思うんだけど。
いきなり「羽根ペンありますよ。」なんて声をかけるのもどうかと思うので
俯いて佇んでいる男性の前を、すーっと通り過ぎようとしたら、声をかけられた。

「君たち、さっき、ペリリ文具店にいた人達だよね。」
「え、ええ、そうですけど。」

まさか向こうから話しかけられるとは思っていなかったので、ちょっと動揺してしまう。

ジョセフィンがさりげなく、俺の前に移動する。

「何か御用でしょうか。」

警戒した口調で言うジョセフィン。

「ああ、先程、店で割り込んでしまったので改めてお詫びをと思って。大変失礼をして申し訳なかった。僕は、カシュー・ランバード。貴族学園普通科2年だ。」

ランバード男爵家は、王都から北西にある。麦と豆が主な特産物だ。

「僕はジョセフィン・サリエットです。貴族学園騎士科1年です。‥‥お詫びは先程受けましたけど。」

ジョセフィンは、まだ固い声で言った。

「え、騎士科? あ、失礼した。実は、先程聞こえていたと思うんだが、文官スワンの羽根ペンを探していてね。学園生ならもしかして売っている場所を知らないかと思って‥‥。」
「知ってますけど。」
「‥‥ダメもとでね‥‥。あちこちで品切れって言われたけど、新学期始まってないし、まだ帰省先から戻って来ていない人も多いから、まだ売られている店があるんじゃないかって‥‥
って!? 知ってるって言った!?」

ブツブツしゃべっていたと思ったら突然ビックリした顔をして詰め寄ってくるカシューさん。
思わず一歩後ろに下がってしまった。
ジョセフィンが俺を庇うように腕でガードしている。うん、俺、護られてるなぁ。

「‥‥前に売られていたのを知っているだけです。そんなに品切れなら今頃売り切れているかもしれません。」

ジョセフィンが冷めた口調で言った。確かに、エルスト商会には在庫が有ったといって、殺到されていたらもう売り切れているかもしれない。

「僕が行ってない店だったら、ダメ元でも行ってみるよ!どこのお店か教えてくれないか?」

ぐいぐい詰め寄ってくるカシューさん。俺を右腕でガードしながら、左手で、そっとカシューさんを押し返しているジョセフィン。

「どうして、そんなに文官スワンの羽根ペンを買いたいんですか? 白水鳥の羽根ペンだって、悪くはないですよね。」
「文官スワンの羽根ペンが欲しいって!言われちゃって!」
「どなたに?」
「ニーナ‥、あ、と、友達に。」

ニーナって女性か。友達ということは、婚約者とかではないということかな。友達への贈り物をしようとしているのか。

「‥‥そうですか。貴方ご自身が、使いたいとかではないのですね。」
「ぼ、僕だって使いたいよ。文官スワンだよ!あ、手に入れた事ないから使った事ないけどさ。使っている人は皆、凄い書き心地がいいって言っているし!」

カシューさんは、ちょっと夢見るような顔をして言う。
ジョセフィンはちらりと俺の方を振り返った。俺は、「店の事を教えてあげてもいいんじゃない?」という意味で頷いた。
ジョセフィンは、カシューさんに向き直って言う。

「僕が見たのは、この先にあるエルスト商会というところです。でも羽根部分が羽根じゃなくてペン軸になってるんです。」
「そうか!行ってみるよ!ありがとう!」

カシューさんはお辞儀をした後、ジョセフィンが指し示した方向に駆けていった。

カシューさんが遠ざかって行くのを眺めながらジョセフィンに話しかけた。

「ジョス、店教えるの迷ってたね。」
「だって、ちょっと必死過ぎて。友達といいながら脅されていたりしないかなと思って。」
「脅すのに羽根ペンはないんじゃないか。そんなに安いものではないけどさ。」
「そうなんですよね~。まあ、購入するのは自由ですね。」

あまり考えても仕方ないので、気持ちを切り替え、次に入る店を探すことにした。
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