37 / 324
第2章
第36話 召還獣便
しおりを挟む
夏期休暇の期間自体はそれなりにあるけれど、往復の距離が長いので、実質の滞在期間は短く感じた。
休み明けまで少し余裕を残して、兄一家と一緒にツヴァイトベック領を経由して、王都に戻る。
兄嫁、エマ義姉さんの兄ラインハルト卿の次男、三男の双子の赤ん坊は、可愛らしかった。1歳って結構顔立ちがしっかりしてくるんだな。
以前、エルストベルクにも遊びに来た事がある、長男はすっかりお兄ちゃんという感じになっていて、微笑ましかった。
「可愛いわねぇ。私ももう一人欲しいわ。」
エマ義姉さんが、双子を交互に抱いて、興奮した声を上げる。
「ふふ。あまり可愛すぎると、狙われちゃうかもしれないでしょう? うちは双子で目立つから心配で。」
ラインハルト卿の奥方ダニエラ様が、内緒話をするように言った。
「あら、誰か、狙われたりしているの?」
エマ義姉さんが興味深げに細い眉を少し持ち上げる。
「いいえ、先日、双子に会いに来てくれたご夫人が、『可愛すぎると、狙われちゃうわよ』って言っていただけよ。」
「そうなの。うちも可愛い息子がいるから、ちょっと気になっちゃって。」
「わかるわぁ。」
エマ義姉さんは双子をダニエラ様の元に戻すと、ケニーとアリサを抱きしめた。
ダニエラ様も、長男のローベルト君と双子をまとめて抱きしめたそうにしながら、順番にだっこしている。
お土産に持って来た品は、どれも喜んでもらえた。
手触り抜群の肌着を持参したら、もっと欲しいと言われ、後日、商会から配送することになった。毎度ありがとうございます。
数日ツヴァイトベック邸に滞在するという兄一家と別れて、俺とジョセフィンは、馬で王都に向かう。
まだ季節は一応夏なんだが、北に向かって進んでいるからか、だんだん風が涼しくなってきて、夏の終わりを感じる。
「夏期休暇も終わりかぁ」
「あっという間でしたね。って、さっきから、気になってるんですけど、なんで馬上で召還してるんですか?」
ジョセフィンが、訝しげにいう。
俺は、馬の背に召還陣を貼付け、馬で進みながら一定時間置きに召還と送還を繰り返している。
「実験だよ。練習も兼ねてるけど。あ、来た。」
召還したピーイチの足に、紙をねじった物がくくり付けられている。ピーイチが足をちょいとつきだしたので、紙を採ってみる。馬上だと揺れてやりにくいな。
ねじられた紙を広げると文字が書かれていた。
「成功!」
「手紙ですか?」
ピーイチの入った鳥籠を、兄に預けてきたのだ。手紙は兄の文字だった。
つまり、ツヴァイトベックに居る兄から、召還獣と一緒に手紙が召還できたことになる。
ダメもとで、色々実験を繰り返していた。手紙に「8」と振ってある。つまり、7回は試したけど送られてこなかった事を意味している。
馬を止めて降りる。ジョセフィンも馬から下りたので、馬の手綱を預けた。
まず、手帳を出して結果を記録する。
「番号8は、ファイバースパイダーの糸が織り込まれた紙だ。やっぱり魔力が込められる紙でないとだめらしいな。」
荷物を下ろして、中の小箱を開け、インク壷を出す。草原のど真ん中なので、いちいちインク壷を出すのは面倒なのだが、インクがよいか炭筆が良いかも実験が必要なのだ。
送られて来た紙に、インクで実験成功のマークと、メッセージを書く。同じ種類の別の紙を出して、こちらは炭筆で記載して、両方ピーイチの足にくくりつけた。
「ピ」
お駄賃を要求するような様子のピーイチに魔力を与える。
そして、送還してピーイチが姿を消した。
「成功すれば、短い文面に限るけど手紙のやり取りができる。」
「画期的じゃないですか!論文にできますよ!」
「いや召還出来る人ならやってるんじゃないかな。知られてなくても当面公表はしない。誰にも知られないでいる方が利点がある場合もあるし。」
世間で知られる最も早い伝達方法は魔鷹による手紙の配達だ。それよりも早いとなれば、かなり価値があることだ。
それに人知れず通信ができるというのはいざという時アドバンテージになる。
とはいえ、もっと距離が離れたら、ダメかもしれないし、どのくらいの文字数のメッセージが遅れるかも、まだ確認が必要だ。
距離の限界があるとして、召還獣にどんな影響がでるかもわからない。
今は、一定の時間事に、俺が召還と送還をするタイミングでのやりとりになるが
上手く成功したら、父と兄がそれぞれ召還獣を、王都に寄越してくれる予定だ。そうすれば、双方向に連絡がとりやすくなる。
休み明けまで少し余裕を残して、兄一家と一緒にツヴァイトベック領を経由して、王都に戻る。
兄嫁、エマ義姉さんの兄ラインハルト卿の次男、三男の双子の赤ん坊は、可愛らしかった。1歳って結構顔立ちがしっかりしてくるんだな。
以前、エルストベルクにも遊びに来た事がある、長男はすっかりお兄ちゃんという感じになっていて、微笑ましかった。
「可愛いわねぇ。私ももう一人欲しいわ。」
エマ義姉さんが、双子を交互に抱いて、興奮した声を上げる。
「ふふ。あまり可愛すぎると、狙われちゃうかもしれないでしょう? うちは双子で目立つから心配で。」
ラインハルト卿の奥方ダニエラ様が、内緒話をするように言った。
「あら、誰か、狙われたりしているの?」
エマ義姉さんが興味深げに細い眉を少し持ち上げる。
「いいえ、先日、双子に会いに来てくれたご夫人が、『可愛すぎると、狙われちゃうわよ』って言っていただけよ。」
「そうなの。うちも可愛い息子がいるから、ちょっと気になっちゃって。」
「わかるわぁ。」
エマ義姉さんは双子をダニエラ様の元に戻すと、ケニーとアリサを抱きしめた。
ダニエラ様も、長男のローベルト君と双子をまとめて抱きしめたそうにしながら、順番にだっこしている。
お土産に持って来た品は、どれも喜んでもらえた。
手触り抜群の肌着を持参したら、もっと欲しいと言われ、後日、商会から配送することになった。毎度ありがとうございます。
数日ツヴァイトベック邸に滞在するという兄一家と別れて、俺とジョセフィンは、馬で王都に向かう。
まだ季節は一応夏なんだが、北に向かって進んでいるからか、だんだん風が涼しくなってきて、夏の終わりを感じる。
「夏期休暇も終わりかぁ」
「あっという間でしたね。って、さっきから、気になってるんですけど、なんで馬上で召還してるんですか?」
ジョセフィンが、訝しげにいう。
俺は、馬の背に召還陣を貼付け、馬で進みながら一定時間置きに召還と送還を繰り返している。
「実験だよ。練習も兼ねてるけど。あ、来た。」
召還したピーイチの足に、紙をねじった物がくくり付けられている。ピーイチが足をちょいとつきだしたので、紙を採ってみる。馬上だと揺れてやりにくいな。
ねじられた紙を広げると文字が書かれていた。
「成功!」
「手紙ですか?」
ピーイチの入った鳥籠を、兄に預けてきたのだ。手紙は兄の文字だった。
つまり、ツヴァイトベックに居る兄から、召還獣と一緒に手紙が召還できたことになる。
ダメもとで、色々実験を繰り返していた。手紙に「8」と振ってある。つまり、7回は試したけど送られてこなかった事を意味している。
馬を止めて降りる。ジョセフィンも馬から下りたので、馬の手綱を預けた。
まず、手帳を出して結果を記録する。
「番号8は、ファイバースパイダーの糸が織り込まれた紙だ。やっぱり魔力が込められる紙でないとだめらしいな。」
荷物を下ろして、中の小箱を開け、インク壷を出す。草原のど真ん中なので、いちいちインク壷を出すのは面倒なのだが、インクがよいか炭筆が良いかも実験が必要なのだ。
送られて来た紙に、インクで実験成功のマークと、メッセージを書く。同じ種類の別の紙を出して、こちらは炭筆で記載して、両方ピーイチの足にくくりつけた。
「ピ」
お駄賃を要求するような様子のピーイチに魔力を与える。
そして、送還してピーイチが姿を消した。
「成功すれば、短い文面に限るけど手紙のやり取りができる。」
「画期的じゃないですか!論文にできますよ!」
「いや召還出来る人ならやってるんじゃないかな。知られてなくても当面公表はしない。誰にも知られないでいる方が利点がある場合もあるし。」
世間で知られる最も早い伝達方法は魔鷹による手紙の配達だ。それよりも早いとなれば、かなり価値があることだ。
それに人知れず通信ができるというのはいざという時アドバンテージになる。
とはいえ、もっと距離が離れたら、ダメかもしれないし、どのくらいの文字数のメッセージが遅れるかも、まだ確認が必要だ。
距離の限界があるとして、召還獣にどんな影響がでるかもわからない。
今は、一定の時間事に、俺が召還と送還をするタイミングでのやりとりになるが
上手く成功したら、父と兄がそれぞれ召還獣を、王都に寄越してくれる予定だ。そうすれば、双方向に連絡がとりやすくなる。
0
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
ボロ雑巾な伯爵夫人、やっと『家族』を手に入れました。~旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます2~
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
第二夫人に最愛の旦那様も息子も奪われ、挙句の果てに家から追い出された伯爵夫人・フィーリアは、なけなしの餞別だけを持って大雨の中を歩き続けていたところ、とある男の子たちに出会う。
言葉汚く直情的で、だけど決してフィーリアを無視したりはしない、ディーダ。
喋り方こそ柔らかいが、その実どこか冷めた毒舌家である、ノイン。
12、3歳ほどに見える彼らとひょんな事から共同生活を始めた彼女は、人々の優しさに触れて少しずつ自身の居場所を確立していく。
====
●本作は「ボロ雑巾な伯爵夫人、旦那様から棄てられて、ギブ&テイクでハートフルな共同生活を始めます。」からの続き作品です。
前作では、二人との出会い~同居を描いています。
順番に読んでくださる方は、目次下にリンクを張っておりますので、そちらからお入りください。
※アプリで閲覧くださっている方は、タイトルで検索いただけますと表示されます。
子育て失敗の尻拭いは婚約者の務めではございません。
章槻雅希
ファンタジー
学院の卒業パーティで王太子は婚約者を断罪し、婚約破棄した。
真実の愛に目覚めた王太子が愛しい平民の少女を守るために断行した愚行。
破棄された令嬢は何も反論せずに退場する。彼女は疲れ切っていた。
そして一週間後、令嬢は国王に呼び出される。
けれど、その時すでにこの王国には終焉が訪れていた。
タグに「ざまぁ」を入れてはいますが、これざまぁというには重いかな……。
小説家になろう様にも投稿。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【本編完結】さようなら、そしてどうかお幸せに ~彼女の選んだ決断
Hinaki
ファンタジー
16歳の侯爵令嬢エルネスティーネには結婚目前に控えた婚約者がいる。
23歳の公爵家当主ジークヴァルト。
年上の婚約者には気付けば幼いエルネスティーネよりも年齢も近く、彼女よりも女性らしい色香を纏った女友達が常にジークヴァルトの傍にいた。
ただの女友達だと彼は言う。
だが偶然エルネスティーネは知ってしまった。
彼らが友人ではなく想い合う関係である事を……。
また政略目的で結ばれたエルネスティーネを疎ましく思っていると、ジークヴァルトは恋人へ告げていた。
エルネスティーネとジークヴァルトの婚姻は王命。
覆す事は出来ない。
溝が深まりつつも結婚二日前に侯爵邸へ呼び出されたエルネスティーネ。
そこで彼女は彼の私室……寝室より聞こえてくるのは悍ましい獣にも似た二人の声。
二人がいた場所は二日後には夫婦となるであろうエルネスティーネとジークヴァルトの為の寝室。
これ見よがしに少し開け放たれた扉より垣間見える寝台で絡み合う二人の姿と勝ち誇る彼女の艶笑。
エルネスティーネは限界だった。
一晩悩んだ結果彼女の選んだ道は翌日愛するジークヴァルトへ晴れやかな笑顔で挨拶すると共にバルコニーより身を投げる事。
初めて愛した男を憎らしく思う以上に彼を心から愛していた。
だから愛する男の前で死を選ぶ。
永遠に私を忘れないで、でも愛する貴方には幸せになって欲しい。
矛盾した想いを抱え彼女は今――――。
長い間スランプ状態でしたが自分の中の性と生、人間と神、ずっと前からもやもやしていたものが一応の答えを導き出し、この物語を始める事にしました。
センシティブな所へ触れるかもしれません。
これはあくまで私の考え、思想なのでそこの所はどうかご容赦して下さいませ。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
私の家族はハイスペックです! 落ちこぼれ転生末姫ですが溺愛されつつ世界救っちゃいます!
りーさん
ファンタジー
ある日、突然生まれ変わっていた。理由はわからないけど、私は末っ子のお姫さまになったらしい。
でも、このお姫さま、なんか放置気味!?と思っていたら、お兄さんやお姉さん、お父さんやお母さんのスペックが高すぎるのが原因みたい。
こうなったら、こうなったでがんばる!放置されてるんなら、なにしてもいいよね!
のんびりマイペースをモットーに、私は好きに生きようと思ったんだけど、実は私は、重要な使命で転生していて、それを遂行するために神器までもらってしまいました!でも、私は私で楽しく暮らしたいと思います!
王家も我が家を馬鹿にしてますわよね
章槻雅希
ファンタジー
よくある婚約者が護衛対象の王女を優先して婚約破棄になるパターンのお話。あの手の話を読んで、『なんで王家は王女の醜聞になりかねない噂を放置してるんだろう』『てか、これ、王家が婚約者の家蔑ろにしてるよね?』と思った結果できた話。ひそかなサブタイは『うちも王家を馬鹿にしてますけど』かもしれません。
『小説家になろう』『アルファポリス』(敬称略)に重複投稿、自サイトにも掲載しています。
妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~
紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの?
その答えは私の10歳の誕生日に判明した。
誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。
『魅了の力』
無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。
お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。
魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。
新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。
―――妹のことを忘れて。
私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。
魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。
しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。
なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。
それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。
どうかあの子が救われますようにと。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる