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第2章

第36話 召還獣便

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夏期休暇の期間自体はそれなりにあるけれど、往復の距離が長いので、実質の滞在期間は短く感じた。
休み明けまで少し余裕を残して、兄一家と一緒にツヴァイトベック領を経由して、王都に戻る。

兄嫁、エマ義姉さんの兄ラインハルト卿の次男、三男の双子の赤ん坊は、可愛らしかった。1歳って結構顔立ちがしっかりしてくるんだな。
以前、エルストベルクにも遊びに来た事がある、長男はすっかりお兄ちゃんという感じになっていて、微笑ましかった。

「可愛いわねぇ。私ももう一人欲しいわ。」

エマ義姉さんが、双子を交互に抱いて、興奮した声を上げる。

「ふふ。あまり可愛すぎると、狙われちゃうかもしれないでしょう? うちは双子で目立つから心配で。」

ラインハルト卿の奥方ダニエラ様が、内緒話をするように言った。

「あら、誰か、狙われたりしているの?」

エマ義姉さんが興味深げに細い眉を少し持ち上げる。

「いいえ、先日、双子に会いに来てくれたご夫人が、『可愛すぎると、狙われちゃうわよ』って言っていただけよ。」
「そうなの。うちも可愛い息子がいるから、ちょっと気になっちゃって。」
「わかるわぁ。」

エマ義姉さんは双子をダニエラ様の元に戻すと、ケニーとアリサを抱きしめた。
ダニエラ様も、長男のローベルト君と双子をまとめて抱きしめたそうにしながら、順番にだっこしている。
お土産に持って来た品は、どれも喜んでもらえた。
手触り抜群の肌着を持参したら、もっと欲しいと言われ、後日、商会から配送することになった。毎度ありがとうございます。

数日ツヴァイトベック邸に滞在するという兄一家と別れて、俺とジョセフィンは、馬で王都に向かう。
まだ季節は一応夏なんだが、北に向かって進んでいるからか、だんだん風が涼しくなってきて、夏の終わりを感じる。

「夏期休暇も終わりかぁ」
「あっという間でしたね。って、さっきから、気になってるんですけど、なんで馬上で召還してるんですか?」

ジョセフィンが、訝しげにいう。
俺は、馬の背に召還陣を貼付け、馬で進みながら一定時間置きに召還と送還を繰り返している。

「実験だよ。練習も兼ねてるけど。あ、来た。」

召還したピーイチの足に、紙をねじった物がくくり付けられている。ピーイチが足をちょいとつきだしたので、紙を採ってみる。馬上だと揺れてやりにくいな。
ねじられた紙を広げると文字が書かれていた。

「成功!」
「手紙ですか?」

ピーイチの入った鳥籠を、兄に預けてきたのだ。手紙は兄の文字だった。
つまり、ツヴァイトベックに居る兄から、召還獣と一緒に手紙が召還できたことになる。
ダメもとで、色々実験を繰り返していた。手紙に「8」と振ってある。つまり、7回は試したけど送られてこなかった事を意味している。
馬を止めて降りる。ジョセフィンも馬から下りたので、馬の手綱を預けた。
まず、手帳を出して結果を記録する。

「番号8は、ファイバースパイダーの糸が織り込まれた紙だ。やっぱり魔力が込められる紙でないとだめらしいな。」

荷物を下ろして、中の小箱を開け、インク壷を出す。草原のど真ん中なので、いちいちインク壷を出すのは面倒なのだが、インクがよいか炭筆が良いかも実験が必要なのだ。
送られて来た紙に、インクで実験成功のマークと、メッセージを書く。同じ種類の別の紙を出して、こちらは炭筆で記載して、両方ピーイチの足にくくりつけた。

「ピ」

お駄賃を要求するような様子のピーイチに魔力を与える。
そして、送還してピーイチが姿を消した。

「成功すれば、短い文面に限るけど手紙のやり取りができる。」
「画期的じゃないですか!論文にできますよ!」
「いや召還出来る人ならやってるんじゃないかな。知られてなくても当面公表はしない。誰にも知られないでいる方が利点がある場合もあるし。」

世間で知られる最も早い伝達方法は魔鷹による手紙の配達だ。それよりも早いとなれば、かなり価値があることだ。
それに人知れず通信ができるというのはいざという時アドバンテージになる。
とはいえ、もっと距離が離れたら、ダメかもしれないし、どのくらいの文字数のメッセージが遅れるかも、まだ確認が必要だ。
距離の限界があるとして、召還獣にどんな影響がでるかもわからない。
今は、一定の時間事に、俺が召還と送還をするタイミングでのやりとりになるが
上手く成功したら、父と兄がそれぞれ召還獣を、王都に寄越してくれる予定だ。そうすれば、双方向に連絡がとりやすくなる。
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