上 下
7 / 324
第1章

第7話 王子殿下

しおりを挟む
入学後にとる授業の話をし始めようとしたところで、会場のざわめきが大きくなって、声がかき消された。
見やると、会場の奥の方には人が集まっている。黄色い歓声のような声が聞こえる。

「トリー殿下、ああ、やっぱり素敵だわ。」
「やはり特進科に進まれるのかしら。」
「もう、特進科予定の方達とお話をされているようだわ。」

ざわめきの声の元は、圧倒的に女子が多い。男子は、話題になっているから様子を見ている感じだ。

俺たちも、ざわめきに釣られて、会場の奥に目を向けたけれど、人が密集しているのしか見えないから、すぐに視線を戻した。

「いや、凄い人気だね。トリー殿下。」

アレクシスは背伸びをして、もう一度人垣の向こう側に目を向けようとしていた。

「本当だね。」

ジョセフィンも、会場の奥に目を向けている。

「説明会の時に少しお姿を見れたけれど、キラキラしていて別世界の人みたいだったわ。」

フローラは、夢見るような瞳をして言った。

国王陛下には、二人の御子がいて、その直系の王子殿下達も既にご結婚されてお世継ぎがご誕生されている。
王弟殿下の第二子であるトリー殿下は、王位継承権で考えれば、それほど高くはないと思う。それなのに、この人気は、王都に来て驚いた事の一つだ。
王族が学園に入学するのが何年か振りだというので、話題になりやすいのかもしれないけど。

「南のドライフルーツいかがかな。あちらのテーブルにあったんだ。」

急に会話に入って来たやつがいる。振り向くと、青白い顔で黒髪を肩まで伸ばした少年が、にこっと笑った。
見ると、干したいちじくが並んだ乗った皿を手にしている。
エルストベルク産の物だ。俺達が王都に向かう少し前に、何種類かドライフルーツを王都に出荷してたっけ。

「やあ、僕は、ヘンリー・シャーロン。よろしくね。ヘンリーって呼んでね。」

そういって、ニコニコしながらドライいちじくの乗った皿を差し出してくる。

「ああ、よろしく。」

何だかペースを乱される。名乗って、皿からドライいちじくを一つ摘んだ。
シャーロン子爵家は、宮廷魔導士の家系だ。魔導士の中でも特殊な呪術師で、代々宮廷に仕えていると聞く。
青白い顔色をしているけど、人懐っこい性格なんだな。

「君は騎士って感じじゃないよね。魔導科コース?」

アレクシスがドライフルーツを一口で食べてから言うと、ヘンリーは、「うーん」と首をひねった。

「ダンジョンに入れるクラスがいいんだよねー。騎士科は、ダンジョン探索があるだろ? 魔導科でダンジョンに入れなさそうなら騎士科かなぁ」

「そんな理由?」
「猫ダンジョンに行きたいんだよぅ」
「‥‥。」

王都近郊、マタタ村近くにある小さなダンジョン、マタタダンジョンは、猫型の魔獣ばかりがいるので、通称「猫ダンジョン」と呼ばれている。
あまり強い魔獣は居ないのでダンジョンのランクは低い。比較的低位の冒険者でも入れるけれど、冒険者でない学生が入るには、
学科で発行される入場許可証が必要らしい。

何で猫ダンジョンに行きたいのかは、誰も聞かなかった。なんとなく察した。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

私のお父様とパパ様

ファンタジー
非常に過保護で愛情深い二人の父親から愛される娘メアリー。 婚約者の皇太子と毎月あるお茶会で顔を合わせるも、彼の隣には幼馴染の女性がいて。 大好きなお父様とパパ様がいれば、皇太子との婚約は白紙になっても何も問題はない。 ※箱入り娘な主人公と娘溺愛過保護な父親コンビのとある日のお話。 追記(2021/10/7) お茶会の後を追加します。 更に追記(2022/3/9) 連載として再開します。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

リリゼットの学園生活 〜 聖魔法?我が家では誰でも使えますよ?

あくの
ファンタジー
 15になって領地の修道院から王立ディアーヌ学園、通称『学園』に通うことになったリリゼット。 加護細工の家系のドルバック伯爵家の娘として他家の令嬢達と交流開始するも世間知らずのリリゼットは令嬢との会話についていけない。 また姉と婚約者の破天荒な行動からリリゼットも同じなのかと学園の男子生徒が近寄ってくる。 長女気質のダンテス公爵家の長女リーゼはそんなリリゼットの危うさを危惧しており…。 リリゼットは楽しい学園生活を全うできるのか?!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...