上 下
214 / 466
第5章

第214話 (第5章エピローグ)ちょっと兄様離れ

しおりを挟む
王都の状態が落ち着いた頃、僕は父様と一緒にエルストベルクに戻る事になっているけど、アリサ姉様も一緒にエルストベルクに帰ることになった。
王都の結界に亀裂が入って、一人屋敷に籠っていた時に、凄く不安だったから、帰りたくなったんだって。

王都は、魔獣には侵入はされていなかったから、恐怖でパニックになった人々が、物を壊したりしたくらいで、結界以外は大きなダメージはなかったみたいだ。

すっかり生活は元通り‥‥、かと思ったけど、変化はあった。

兄様は、一緒にエルストベルクには戻らず、王都に滞在することになった。
ダンジョン鉄道で半日もかからないから、会おうと思えばすぐに会えるけど。

それと、兄様がミラ嬢と婚約をした。というか、婚約したから、学園入学前までもエルストベルクに戻らずに、王都に居ることにしたんだよね。

きっかけは、兄様が王都までミラ嬢を助けに駆けつけた事らしいんだ。

ミラ嬢を失いたくないって気持ちが強くなって、告白して、婚約を申し込んだんだって。
そして、あっさり了承を貰ったそうだ。

貴族同士の婚約は家と家の繋がりでもあるんだけど、父様とミラ嬢のお父上の間で、「もしも当人達が希望したら」と以前から話が出ていたらしくて、問題なく両家当主の許可が下りたみたい。

婚約パーティは春になってからという話も出ていたけど、春は学園入学で忙しくなるので、まだ雪の多い季節に、王都のエルストベルク邸で、婚約パーティが開かれた。

母様とマーリエも、ダンジョン鉄道に乗って、王都に到着。お祖父様とお祖母様も一緒だ。
スタツィオン駅から、いかにも馬車で長旅してきましたよって感じで王都までやってくる。‥‥もしかして、せっかく、「馬車もどき君」作ったけど、あまり使われなくなっちゃうかもしれない。

スタツィオン村からは実は、支線を作って、王都の屋敷まで行けるようにしている。
結界が小さくなったからか、意外とあっさり王都の地下にダンジョンの地下道を通して、エルストベルク邸へ繋げる事ができたんだ。でも、王都の門で手続きをするのが正式なので、支線は緊急以外は使わない方針なんだよ。

婚約パーティは、王都在住の親戚と極親しい人だけのこじんまりとした立食形式のパーティとなった。
パーティで、ミラ嬢の手を握って微笑んでいる兄様は、凄く幸せそうだった。
兄様がとても愛しげにミラ嬢を見ている姿を見て、ああ、僕、兄様離れしなくちゃ、って感じた。

だって、兄様の一番大切な人はミラ嬢だから、僕が近くで何かしたりして、兄様に心配かけたらいけないよね。

「ソーマ。」

僕がじっと兄様の事を見つめて突っ立っていたら、ポンポンと僕の頭を叔父様が撫でた。

「どうしたの?柑橘炭酸水、口に合わない?」
「叔父様‥‥。」

僕が叔父様を見上げると、叔父様は、身を屈めて僕の顔を覗き込んだ。そうして、微笑んでもう一度僕の頭をポンポンと撫でた。

「大丈夫、兄様は、ずっとソーマの兄様だよ。」
「叔父様、でも‥‥。」
「ソーマの周りの世界はどんどん大きくなって来ているだろう。兄様の世界もそうなんだ。
だからね、凄く距離が大きく広がったみたいに見えるかもしれないけど、お互いの世界のことも大事に思って行けばいいんだよ」

叔父様がハンカチを出して、僕の顔を拭いた。
僕は、ちょっと寂しくなっちゃったのかもしれない。叔父様には分かっちゃったのかな。

「あっちで暖かいミルクティでも飲もうか。」

僕が頷くと、叔父様が僕の手を引いていってくれた。

「叔父様、僕、兄様離れしないと‥‥。兄様はこれからミラ嬢を一番に護らなきゃいけないでしょう?」

僕が叔父様を見上げて言うと、叔父様は微笑みながら首を少し傾げた。

「うーん。無理にしようとしなくても、ソーマはちゃんと兄様離れしてきているから大丈夫だと思うよ。」
「僕、兄様離れできてるの?」
「だって、いつの間にか一人で、色々活動してるでしょう?」

ダンジョン鉄道の事とかを言っているのかな。

「‥‥僕、思いついた事、好き勝手にやってるだけだよ。」
「ケニーに頼り切らず、自分で判断して、行動しているでしょう?それでいいと思うよ。」
「‥‥いいの?」
「いいよ。でももし、何か困ったら、ちゃんと、叔父様や父様、ケニーにも相談するんだよ。相談するのは頼り切るのとは違うんだからね。」
「うん!」

叔父様と話していたら、なんだか、気持ちがふわっと軽くなってきた。
広間の端の椅子に座って、暖かいミルクティを飲んでいたら、プティが足に尻尾を絡めてきた。

「にゃーん。」
(プティ離れは、なしにゃ。離れないにゃ。)
「ふふ。」
笑ってプティの頭を撫でた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スマートシステムで異世界革命

小川悟
ファンタジー
/// 毎日19時に投稿する予定です。 /// ★☆★ システム開発の天才!異世界転移して魔法陣構築で生産チート! ★☆★ 新道亘《シンドウアタル》は、自分でも気が付かないうちにボッチ人生を歩み始めていた。 それならボッチ卒業の為に、現実世界のしがらみを全て捨て、新たな人生を歩もうとしたら、異世界女神と事故で現実世界のすべてを捨て、やり直すことになってしまった。 異世界に行くために、新たなスキルを神々と作ったら、とんでもなく生産チートなスキルが出来上がる。 スマフォのような便利なスキルで異世界に生産革命を起こします! 序章(全5話)異世界転移までの神々とのお話しです 第1章(全12話+1話)転生した場所での検証と訓練 第2章(全13話+1話)滞在先の街と出会い 第3章(全44話+4話)遺産活用と結婚 第4章(全17話)ダンジョン探索 第5章(執筆中)公的ギルド? ※第3章以降は少し内容が過激になってきます。 上記はあくまで予定です。 カクヨムでも投稿しています。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

死霊王は異世界を蹂躙する~転移したあと処刑された俺、アンデッドとなり全てに復讐する~

未来人A
ファンタジー
主人公、田宮シンジは妹のアカネ、弟のアオバと共に異世界に転移した。 待っていたのは皇帝の命令で即刻処刑されるという、理不尽な仕打ち。 シンジはアンデッドを自分の配下にし、従わせることの出来る『死霊王』というスキルを死後開花させる。 アンデッドとなったシンジは自分とアカネ、アオバを殺した帝国へ復讐を誓う。 死霊王のスキルを駆使して徐々に配下を増やし、アンデッドの軍団を作り上げていく。

【リクエスト作品】邪神のしもべ  異世界での守護神に邪神を選びました…だって俺には凄く気高く綺麗に見えたから!

石のやっさん
ファンタジー
主人公の黒木瞳(男)は小さい頃に事故に遭い精神障害をおこす。 その障害は『美醜逆転』ではなく『美恐逆転』という物。 一般人から見て恐怖するものや、悍ましいものが美しく見え、美しいものが醜く見えるという物だった。 幼い頃には通院をしていたが、結局それは治らず…今では周りに言わずに、1人で抱えて生活していた。 そんな辛い日々の中教室が光り輝き、クラス全員が異世界転移に巻き込まれた。 白い空間に声が流れる。 『我が名はティオス…別世界に置いて創造神と呼ばれる存在である。お前達は、異世界ブリエールの者の召喚呪文によって呼ばれた者である』 話を聞けば、異世界に召喚された俺達に神々が祝福をくれると言う。 幾つもの神を見ていくなか、黒木は、誰もが近寄りさえしない女神に目がいった。 金髪の美しくまるで誰も彼女の魅力には敵わない。 そう言い切れるほど美しい存在… 彼女こそが邪神エグソーダス。 災いと不幸をもたらす女神だった。 今回の作品は『邪神』『美醜逆転』その二つのリクエストから書き始めました。

もっと甘やかして! ~人間だけど猫に変身できるのは秘密です~

いずみず
ファンタジー
気が付いたら赤ちゃんになっていた。えっ、魔法や魔道具があるの? もしかしてここって異世界?! う~ん、ちゃんと生きて行けるのか心配だ。よし、親や周りの大人達にカワイイ演技やら大好きアピールをしまくろう。可愛がって育ててくれるはず。みんなに甘やかされるためなら何でもするぞー! じゃあ今日はね、あらすじを読んでくれたあなたに特別サービス。今まで頑張ってきた成果を見せちゃおうかな。僕が頼めば何でもしてくれるんだよ。 「まんま、えぐぅ(ママ、抱っこして)」 「え、またおっぱいなの? ママ疲れちゃったから嫌よ。もう今日だけで何度目かしらね。早く卒業して欲しいわ」 「うええええええええええん!」 前世の記憶を持ったまま赤ん坊に生まれ変わった男の子。彼にはとんでもない秘密があった。 これはのんびりスローライフを目標としつつ、裏では猫の姿で冒険するけど皆には内緒にしているお話。猫の姿のときはいっぱい魔法を使え、空間を壊したりブレスも吐くけど普通だよね? たまたま見つけて読んでくれた皆様ありがとうございます。甘えん坊な主人公の気持ちになって読むと面白いと思います。赤ちゃんから成長して学園通ったりラブコメしたりと騒がしくなる予定です。 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、ノベルアップ+で同時掲載してます。更新は不定期です。面白い、続き読みたいと思えるような作品を目指して頑張ります。

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

異世界の大賢者が僕に取り憑いた件

黄昏人
ファンタジー
中学1年生の僕の頭に、異世界の大賢者と自称する霊?が住み着いてしまった。彼は魔法文明が栄える世界で最も尊敬されていた人物だという。しかし、考えを共有する形になった僕は、深く広い知識は認めるけど彼がそんな高尚な人物には思えない。とは言え、偉人と言われた人々もそんなものかもしれないけどね。 僕は彼に鍛えられて、ぽっちゃりだった体は引き締まったし、勉強も含めて能力は上がっていったし、そして魔法を使えるようになった。だけど、重要なのはそこでなくて、魔法に目覚めるための“処方”であり、異世界で使っている魔道具なんだよ。 “処方”によって、人は賢くなる。そして、魔道具によって機械はずっと効率が良くなるんだ。例えば、発電所は電子を引き出す魔道具でいわば永久機関として働く。自動車は電気を動力として回転の魔道具で動くのだ。これを、賢くなった人々が作り、使うわけだから、地球上の温暖化とエネルギーの問題も解決するよね。 そして、日本がさらに世界の仕組みがどんどん変わっていくのだけど、その中心に大賢者が取り憑いた僕がいるんだよ。僕はもう少しのんびりしたいのだけどね。

25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい

こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。 社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。 頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。 オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。 ※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。

処理中です...