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第5章

第179話 カーン

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「入られないのですか?ドア閉めますよ。」

係の人から声がかかった。
人数で区切っているから、一度ドアを閉めるんだった。
入る?と半歩扉の中に足を入れた時、鐘の音が聞こえた。

カーン

のど自慢でお歌が上手じゃなかった人が、いた時みたいな音なんだけど、礼拝堂の中から、わーっと歓声があがった。

「私が聖女よ!聖女候補よ!」

遠くで、ピンクのポニーテールの女の子が飛び跳ねているのが見えた。

すうっと足を引いた。
教会の外もざわついている。係の人が、もうしわけなさそうに僕たちに言う。

「申し訳有りません。聖女候補様が現れたようです。ドアは一度閉め切ります。」
「あ、はい。」

係の人が僕達の目の前でドアをゆっくりと閉めた。

後ろの方では、「聖女候補が現れたので礼拝は一時中止となります。」と説明している人もいた。

「‥‥あやうく、お爺さんの聖女候補みたいになっちゃうとこだったね。」

中に入っていても、祈ってなかったらセーフかもしれないけど、ドアを閉め切っていたからすぐには帰れなくなっていたかもしれない。
何そのトラップ。街中にそんなトラップがあるなんて。

「そうだね。暫く教会には入れないらしいし、行こうか。」

兄様は僕の手を引いて歩き出した。


「そろそろお昼近いね。屋台を見に行こうか。」
「あ、うん!屋台見たい!」

大教会前から広場に戻ると、広場をぐるりと囲むように、沢山の屋台が出ていた。テーブルもあちこちに設置されていて、屋台で買ったものを食べるところもある。

ジャガイモをローストしたもの、串焼き肉、ホットワイン、スティック上の型パン、スープ、色々なお店が出ている。
串焼き肉だけでも、あちこちに屋台がある。見ているだけでも楽しい。

「兄様、あっちはグレートボアの串焼き、こっちはブラックボアだって!」

兄様と手をつないで屋台を見て回る。楽しくなって、走り出したい、でも、ぎゅーっと兄様が手を引っ張る。

「ソーマ、屋台は逃げないから,ゆっくり見よう。」
「うん!あ!お魚の串焼きがあるよ! プティに買って帰ろうかな。」

お昼より少し前の時間帯だけど、舞台の演目の合間だからか、どの屋台も賑わっている。
お魚の絵が書いてあるのを見て立ち止まった時、後ろから声がかけられた。

「ケニー様、ソーマ君。」

バッっと、兄様が凄い勢いで振り向いた。変な体勢になったので、一度手を離す。
見ると、ミラ嬢が、立っていた。後ろに侍女らしき人と護衛らしき人がいる。

「ミ、ミラ嬢!ごきげんよう」

兄様の声が上擦っている。

「ごきげんよう。ケニー様達もお祭りに?」

ミラ嬢がにっこり笑った。

「ああ、ミラ嬢も?‥‥今日は誰かと一緒に?」
「ええ、お祭りに来たけど、今日は一人よ。兄が都合が悪くて。エミリア嬢を誘ったけど、ジョシュア殿下と見て回る予定だというから。」
「じゃ、じゃあ、二人で大市を周りませんか?」

兄様は顔を赤らめて、思い切ったように言った。え?二人?
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