自作ゲームの世界に転生したかと思ったけど、乙女ゲームを作った覚えはありません

第2章

第49話 チョコくれ！

ミラ嬢とエミリア嬢は、すごく楽しみにしている様子だ。

「ケニー様とソーマ君は、お買い物かしら」
「いえ、今日は、少し叔父に会いにきただけなんです」

ミラ嬢が、聞いてくれたので、兄様が答えた。僕は、市場で買った紙袋を見せた。

「市場に行ったお土産を渡しにきたんです」
「まあ、何を買ったのかしら。」

ミラ嬢がニコニコして、少し腰を屈め、僕に目線の高さに近づけようとしてくれる。

「ドライフルーツとナッツです。」
「まあ、そうなのね」

ミラ嬢が微笑んだ。僕もにっこりとして頷いた。

お店の入り口前に、いつまでも立っているわけにはいかないから、店内に入る事にした。ドアマンがドアを開けてくれた。
店内に一歩進もうとしたとき、開いたドアの向こうから、怒鳴り声が聞こえた。

「だから、チョコとかいう茶色い菓子を売れといっているんだ！」
「大変申し訳ございませんが、チョコレートは非売品でございます」
「非売品とはなんだ！　商会だろう。　なぜ売らない！」

チョコレートの事でなにやら、男性がお店の人と揉めている。
オレンジ色の髪をした若い男性が、ピンクブロンドの長い髪をした女性と二人で並んで立っていて、お店の従業員の、確かソニアさんという名前だったと思う、女性と対峙していた。
ピンクブロンドの女性は、オレンジ色の髪の男性の腕に両腕を絡めて、ぴったり寄り添っている。

「彼女がチョコを食べたいと言っているんだ！チョコはこの商会で入手が出来ると聞いたんだぞ！なぜ売らないんだ！」

「チョコレートは、大変数が少ないために、販売はしておらず、商談で商品をご購入いただいたお客様に、少量お分けしているのです」
「では、商談をすればいいんだな！　案内しろ！」
「大変申し訳ございません。商談はご予約制となっておりまして、本日のご予約は一杯となっております。」
「なんだと！」

チョコレートで揉めるとかって、なんだかなーと、思うけど、お店に入りづらい。兄様やミラ嬢達はどうするか伺おうと見上げたら、
ミラ嬢の顔がちょっと青ざめていた。騒いでいる男女を凝視している。

「どうかされましたか？」
「え、いいえ、特に何も」

ミラ嬢は何でもないというけれど、声がちょっと震えていた。
兄様が心配そうにミラ嬢の顔をのぞきこんだ。

「ミラ嬢、大丈夫ですか？」

僕たちが話している声が聞こえたのか、オレンジ色の髪をした男性が振り返った。こちらを見た途端、目を見開いてニヤリとした。

「ミラ！　良いところに来た！　商談に来たのか？　なら、またチョコというやつをくれ」
「‥ヨナス様‥‥、ごきげんよう‥‥。今日は商談で来たのではないのです」

何と、ヨナスと呼ばれたオレンジ色の髪の男性は、ミラ嬢の知り合いだったようだ。
ミラ嬢が商談できたのではないと聞くと、チッと小さくしたうちをした。

「なんだ、使えないな。」