84 / 99
第八章 こころ揺れる
類は友を呼ぶ、とはまさに
しおりを挟む―――それなら、王太子殿下には申し訳ないけれど、ジュヌヴィエーヌさまはこのまま、お昼はわたくしと一緒に過ごしてもらう方がよさそうね。
ジュヌヴィエーヌの返答次第では、ランチの時間をオスニエルとの交流の為に譲ろうと考えていたテレサは、心の中で独り言ちた。
実は、テレサがジュヌヴィエーヌをランチに誘うようになったのには、バーソロミューの妹との親交を深めたいという気持ちとは別に、もう一つの理由があった。
週に一度か二度、数時間だけ学園に来ていた聴講生の頃と違い、正式に学園に編入したジュヌヴィエーヌは、朝の登校から夕方の下校まで、ほぼずっとオスニエルと一緒に過ごす形になった。
王太子と同じ馬車から降り、同じクラスに向かう。更に昼も王族用の個室で共に昼食を共に取れば、否が応でも注目を浴びる。
もちろん馬車にはエティエンヌも同乗しているから、車内で2人きりという訳ではない。だが、実際に学園で多く時間を過ごすのは、今回は王太子の方だ。
実際、それがオスニエルの狙いだったのだろう。だが、恋愛に慣れていないオスニエルは、自分の感情にいっぱいいっぱいで、一つの点を忘れていた。
そう、オスニエルの婚約者候補の存在である。
テレサは、ジュヌヴィエーヌに厳しい視線を向ける令嬢がいる事に気づいた。
オスニエルの婚約者候補となった令嬢の1人、カナライア・シャルロ侯爵令嬢だ。
奇しくもオスニエルやジュヌヴィエーヌ、そしてテレサと同じ学年であるカナライアは、恐らくは婚約者候補の筆頭だったテレサが抜けた事で、自分が最有力候補だと安心、もしくは慢心していたのだろう。そしてジュヌヴィエーヌの存在に驚いた。
ジュヌヴィエーヌが編入した初日、カナライアは、ジュヌヴィエーヌの側に寄り添い、あれこれと世話を焼くオスニエルの態度に当惑する様子を見せた。だが3日目になると、明らかに苛立っていた。
カナライアとオスニエルたちが別のクラスだった事は幸いだったと言える。
だがこのままでは、いずれ衝突が起きそうで、でもオスニエルは女の嫉妬に関しては何も分かっていなさそうで。
だから、取り敢えずテレサはジュヌヴィエーヌをランチに誘い、オスニエルたちから離す事にしたのだ。
そして、そこそこ仲良くなれた頃に本音を尋ねてみた。もし、ジュヌヴィエーヌがオスニエルに気持ちがあるのならば、未来の義妹の為に自ら壁になる覚悟も決めた上で。
ところがどっこい、開けてびっくり、まさかまさかの話になった。
ジュヌヴィエーヌが想う相手は、法律上今の夫の、でも白い結婚相手で、20近く年上のエルドリッジなのだ。
しかも当の本人は自分の気持ちに無自覚で、想う相手は妻をいつか相応しい人に下賜するつもりでいる。
現状夫婦なのにここまで遠い関係とは、とテレサは気が遠くなりかけたが、すぐに気を持ち直した。
―――国王陛下のお気持ちをわたくしなどが推し量るなどできないわ。だから、無責任な応援も、諦めるよう説得もしてはいけない。
目を潤ませ、エルドリッジの誠実さを讃えつつも、激務を心配するジュヌヴィエーヌの姿は健気で、出来る事なら応援したい。けれど、今のところどうするのが最善なのか、テレサには分からなかった。
ただ一つだけ。
オスニエルに対する気持ちは、今のところ義理の家族としての敬愛しかなさそうだ。
となれば、カナライアがジュヌヴィエーヌに無意味な嫉妬を向ける事がないよう、学園ではなるべく側にいる事を心がけようとテレサは思ったのだった。
それと同時に。
―――トリガー令息も、王太子殿下も・・・類は友を呼ぶとはこの事かしら。
昼になるとジュヌヴィエーヌをランチに連れ出すテレサに、毎度毎度、恨めしげな視線を向けるオスニエルを思い出し、テレサは心の中で呟いた。
ゼン・トリガーの拗らせぶりも相当だが、オスニエルもジュヌヴィエーヌ以外ろくに見えていない。
とはいえ、カナライアは婚約者ではなく、ただの婚約者候補のひとりに過ぎないのだから、オスニエルの行動は不実とは言えないのだ。
―――だからと言ってねぇ・・・
女心がここまでさっぱり分からないのも困りものだと、テレサは密かに溜め息を吐いた。
49
お気に入りに追加
1,674
あなたにおすすめの小説
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。
五月ふう
恋愛
リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。
「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」
今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。
「そう……。」
マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。
明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。
リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。
「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」
ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。
「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」
「ちっ……」
ポールは顔をしかめて舌打ちをした。
「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」
ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。
だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。
二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。
「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」
私の手からこぼれ落ちるもの
アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。
優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。
でもそれは偽りだった。
お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。
お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。
心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。
私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。
こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら…
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 作者独自の設定です。
❈ ざまぁはありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる