私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

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第七章 恋の花は咲きますか?

ダンス・ダンス・ダンス

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 衆目を集める中での2組のダンスが終わると、オスニエルがフロアに進み出た。そして今度は、バーソロミューとジュヌヴィエーヌ、オスニエルとエティエンヌの組み合わせでダンスが始まる。


 実は、これが本来、予定されていたファーストダンスの組み合わせだった。

 これで2曲目。アデラハイムでのしきたりでは、2曲目以降は踊りたい者はフロアに出ても何ら問題ない。なのに、誰もそうはせず、アデラハイム王家の兄妹と、マルセリオ国公爵家の兄妹のダンスを見守っていた。


 そんなある意味独特な雰囲気を気にするでもなく、バーソロミューは巧みにリードしながら妹に話しかけた。


「先ほどは楽しそうに踊っていたな、ジュジュ」

「まあ、そうでしたか?」

「ああ。昔のお前とは大違いだ。よかったよ、心から笑えるようになって」

「・・・ありがとうございます。エルドリッジさまやエチさま、そして他のたくさんの方々のお心遣いのお陰ですわ」


 一時期は距離が出来かけた兄を見上げ、ジュヌヴィエーヌが柔らかく微笑む。兄は、マルセリオでは久しく見る事が叶わなかった妹の自然な笑みに複雑な思いを抱きながら、「ジュジュ」と再度口を開いた。


「陛下は、お前をアデラハイムに嫁がせた事を後悔し始めている。あの女―――マリアンヌの妃教育の進みがあまりにも遅くてな・・・まあ、前に聞いた話の通りだから驚きはしないが」

「・・・」

「陛下は、こちらでのお前の様子をしきりに気にしていた。だから、帰ったら報告しておくよ。ジュヌヴィエーヌは、アデラハイム国王エルドリッジ陛下と仲睦まじくダンスを踊っていたとね」

「・・・急な変更はそのせいでしたのね」

「たぶんそうだろうな。まあ、いい牽制になるだろう。本当に大事にされてるんだな」

「・・・っ、そう、ですね。ありがたい事ですわ。でもその様子ですと、お兄さまの婚約が、なかなか進まないのではありませんか?」


「まあな」とバーソロミューは苦笑した。


「来年、再来年には落ち着くと思いたいが、こうなってくるとアデラハイムこちらで婚約者を見つけるのもアリかもしれないな」

「こちらで、ですか?」


 目を見開くジュヌヴィエーヌに、バーソロミューは頷きを返した。


「マルセリオ国内だけでなら通る王家の横暴も、他国の令嬢に対してはそう簡単にいかないだろう。下手したら外交問題に発展しかねない」

「まあ・・・では、お兄さまは本気でこちらで探すおつもりで?」


 バーソロミューは薄い笑みを浮かべ「ただの一案だ」と答えた。


 確かに案としては悪くはないのかもしれない。他国の、それも高位貴族の令嬢ならば、マルセリオ王国の法律で特例として許された行動だとしても、そうおいそれと側妃に召し上げるのは難しいだろう。



 ―――でも。



 先ほどのエティエンヌとのダンスの光景がジュヌヴィエーヌの脳裏をよぎった。

 長くエティエンヌに想いを寄せ、けれど、それを上手く行動にも言葉にも表せずにいる不器用な青年を、ジュヌヴィエーヌは知っている。



 ―――お兄さまは、きっと妻に迎えた女性を大切に扱われるわ、それは間違いない。でも、今は・・・



 まだエティエンヌがそうなるとも、バーソロミューがそう決めたとも聞いていないのに。


 そんな事をジュヌヴィエーヌが思い悩みながら曲を踊り終えた時。


 2組だけが立つフロアに、一人の青年が進み出た。

 彼が歩を進めるのは、ジュヌヴィエーヌたちではない、もう一つの―――エティエンヌとオスニエルの方だ。


 薄青の髪と濃紺の瞳の長身の青年は、エティエンヌの前に立った。そして、目を丸くするエティエンヌに、微かに震える手を差し出す。


「えっと・・・ゼン?」


 問うような呼びかけに答えるように、ゼン・トリガーは、これまた震える声で言った。



「エ・・・エティ、エンヌ、殿下。わた、私と・・・おど・・・ください」






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