65 / 99
第六章 続編のヒロイン来たる
再生のトーラオ
しおりを挟む「別になんでもいいんだよ。ジュジュが考えてくれるやつなら」
「あのね、七彩くん。その言い方はね、相手を尊重してるようで、実はただの丸投げと言うのよ」
「え、そうなの? ジュジュ、エチの言ってることは本当?」
「え? ええと、そうですね。まあ、確かに『なんでもいい』と言われると、ちょっと困ってしまうかも・・・」
「ええっ、じゃあなんでもよくないから、ちゃんと考えたやつで」
「いやいや、七彩くん。それもまた別の丸投げだから」
「ええ~っ? エチって厳しくない?」
―――神殿内の大掃除が終わり、失脚した大神官アンゲナスに代わり、平神官だったアムナスハルトが臨時で仮の大神官に就任してから3週間。
王城に移った七彩は、すっかり男の子の七彩くんとして馴染んでいた。
続編にいない登場人物としてまず最初に信用を置いたジュヌヴィエーヌと七彩が仲良くなったのは自然な流れだったかもしれないが、何故かもう1人、エティエンヌがまるで親友のような近い立ち位置にすっぽりと収まった。
転生者と転移者として、日本という同じバックグラウンドがあるせいなのか、どちらかというとエティエンヌの方が積極的に七彩と交流を図り、元ヒロインと元悪役令嬢だというのに、あっという間にタメ口で話す仲になった。
実母により、これまで他者との接触を制限されて育った七彩は、同年代との交流にすっかり舞い上がったようだ。時間を見つけては、ジュヌヴィエーヌとエティエンヌのところに押しかけ、一緒に過ごしている。
そして今、3人が話題にしているのは、七彩の名前のことだ。
まるで呪いのように実母の妹の書いた小説のヒロインの名前を、男であるにも関わらずつけられてしまった七彩は、前に約束した通り、改名を考えていた。加えて、誰も―――転生者であるエティエンヌ以外―――七彩の名前を正確に発音できないという点もあった。
改名への期待は高いくせに丸投げする七彩に、エティエンヌが言った。
「そもそも七彩くんって、違う名前だったらなぁ、なんて想像したことないの?」
「あ、それは勿論あるよ」
「あるんですか? ではそれにしたらどうでしょう」
名前は大事だ。ジュヌヴィエーヌも協力するのにやぶさかではないが、本人が望む名ならなお良い筈。そう思ったジュヌヴィエーヌが七彩に問うと。
「虎雄とか、獅子之介とか、熊吉とか、龍蔵とか・・・」
「古っ! しかも厳しいっ! 江戸時代じゃないんだから」
「え~? いい名前じゃん、勝手に女にされちゃったから、男らしい名前に憧れるんだよね」
つらつらと挙げた名前に、すぐツッコミを入れたのはエティエンヌ。意味が分からないジュヌヴィエーヌは、不思議な音の羅列にきょとんと目を丸くした。
「私はあちらの世界の名前についてはよく分かりませんが・・・ひとつ、トーラオと聞こえた気がしました。確か、古代エリシファ語でも同じ言葉があって、『再生』を意味するのですけれど」
「あらまあ」
「再生・・・再び生きる・・・」
控え目に説明するジュヌヴィエーヌを前に、エティエンヌと七彩が視線を合わせ、うん、と頷き合った。
「ジュジュ、私・・・いや僕、新しい名前、それにしたい」
「私もいいと思う。七彩くんは、これからこっちの世界で新しく生き直すんだもの。再生のトーラオ、ぴったりだわ」
すっかり乗り気の2人に、逆に慌てたのはジュヌヴィエーヌだ。
「でも、もう少し候補を出してから選んだ方が・・・」
「本人が考えてた名前とも似てるし、ね、いいわよね? トーラオ」
「うん、すごく気に入ったよ。ありがとう、ジュジュ」
真顔で感謝の言葉を述べる七彩、いやトーラオに、ジュヌヴィエーヌが恥ずかしそうに頷きを返した。
「じゃあ」と立ち上がったのはエティエンヌ。
「お父さまたちにも報告に行かないとね。これから七彩はトーラオって名前になりますって」
嬉しそうに笑うトーラオ。そして同じく嬉しそうなエティエンヌ。
そんな2人に釣られて、ジュヌヴィエーヌもまた笑みを溢した。
―――この時はまだ、エティエンヌがこんなにもトーラオを気にかける理由が、ジュヌヴィエーヌには分かっていなかった。
53
お気に入りに追加
1,661
あなたにおすすめの小説
私は既にフラれましたので。
椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…?
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~
Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。
走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
政略結婚した夫の愛人は私の専属メイドだったので離婚しようと思います
結城芙由奈
恋愛
浮気ですか?どうぞご自由にして下さい。私はここを去りますので
結婚式の前日、政略結婚相手は言った。「お前に永遠の愛は誓わない。何故ならそこに愛など存在しないのだから。」そして迎えた驚くべき結婚式と驚愕の事実。いいでしょう、それほど不本意な結婚ならば離婚してあげましょう。その代わり・・後で後悔しても知りませんよ?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【完】愛していますよ。だから幸せになってくださいね!
さこの
恋愛
「僕の事愛してる?」
「はい、愛しています」
「ごめん。僕は……婚約が決まりそうなんだ、何度も何度も説得しようと試みたけれど、本当にごめん」
「はい。その件はお聞きしました。どうかお幸せになってください」
「え……?」
「さようなら、どうかお元気で」
愛しているから身を引きます。
*全22話【執筆済み】です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/09/12
※頂いた感想欄にはネタバレが含まれていますので、ご覧の際にはお気をつけください!
2021/09/20
【完結】公爵令嬢は王太子殿下との婚約解消を望む
むとうみつき
恋愛
「お父様、どうかアラン王太子殿下との婚約を解消してください」
ローゼリアは、公爵である父にそう告げる。
「わたくしは王太子殿下に全く信頼されなくなってしまったのです」
その頃王太子のアランは、婚約者である公爵令嬢ローゼリアの悪事の証拠を見つけるため調査を始めた…。
初めての作品です。
どうぞよろしくお願いします。
本編12話、番外編3話、全15話で完結します。
カクヨムにも投稿しています。
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる