私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

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第六章 続編のヒロイン来たる

驚愕の事実

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 七彩なないろからの手紙は未知の文字でびっしりと埋められていて、ジュヌヴィエーヌにはさっぱり読めなかった。

 マルセリオ王国で受けた王太子妃教育により、五か国語の読み書きができるにも関わらず、である。


 手紙の遣り取りは、情報交換の為のもの。
 もとより内容についてはエルドリッジたちに報告するつもりで、恐らく七彩もそれを分かって書いている筈。


 しかしこれでは読んだ事について報告するどころか・・・







「あ~、きっとこれは、ジュジュを転生者だと思ったのかもね」


 悩んだ末にエティエンヌに相談に行けば、手紙を一瞥した後にそんな事を言われ、ジュヌヴィエーヌは目をぱちくりとさせる。


「テンセイシャ?」

「ええ。私みたいに、あっちの世界からこっちの世界に、何かの作用で転生した人の事よ。この手紙は日本語で書かれているわね」

「ニホンゴ?」

「そう。前の私が暮らしていた国が日本と言うの。そこの言葉よ」


 ジュヌヴィエーヌは改めて手紙に視線を落とした。
 角ばった形の文字、丸みを帯びた文字、シンプルな形状や極めて複雑な形のものと、いったい何種類の文字を使用しているのか不思議になるくらいだ。これまでに習得した言語全てを含めて考えても、解読の手がかりすら見つからない。


「大丈夫、私が翻訳するわ。七彩さんはヒロイン役を降りたいって言ってたんでしょう? きっとそのあたりの事情も書いてあるかもしれないわ。それに万が一、神殿側の者が手紙を手に入れても、これなら読む事もできないし、考えてみたらいい方法かもしれない」


 エティエンヌはそう言うと、ジュヌヴィエーヌからしたら非常に難解そうな文章を、いともたやすく翻訳していった。
 七彩は完全には警戒を解いていなかったのか、最初の1、2通はわりと差し障りのない内容の手紙―――こちらの世界の情報の真偽を互いにすり合わせる程度の―――が届いたが、信用を得たのか、3通目からガラリと内容が変わった。七彩がこちらの世界に来た経緯が赤裸々に綴られた手紙が送られてきたのだ。



「・・・っ、嘘でしょ・・・っ」


 最初にその手紙に目を通したエティエンヌは、暫し絶句した。


「どうした、エチ? 何が書いてあるんだ?」


 一気に青ざめたエティエンヌを見て、オスニエルが心配そうに尋ねた。

 エティエンヌは深く息を吸うと、オスニエルに小さく頷いてみせる。それから、書かれていた事を説明し始めた。



 ―――『マルセリオに咲く美しき花』『アデラハイムに咲く美しき花』の2作の小説を書いたのが、亡くなった七彩の叔母であること。

 ―――七彩の母親は、作者である彼女の妹を誰よりも愛し大切にしていたこと。

 ―――その妹が早逝し、徐々に精神的におかしくなっていったこと。



「・・・姉妹間だけで作った裏設定で、『アデラハイムに咲く花』のヒロインの母親が―――」



 しん、と静まり返った室内に、エティエンヌの震える声が響いた。



 手紙の内容を全て伝え終えたエティエンヌが口を閉じると、場に痛い程の沈黙がおりる。

 暫くして、エルドリッジが確認するように静かに口を開いた。


「つまり・・・七彩どのの母親は、設定通りヒロインの母になろうとして、計画的に子を産んだという事か」

「狂ってる・・・部屋に閉じ込めて火をつけるなんて。こっちに来てなきゃ死んでたぞ」


 オスニエルが口元を押さえ、吐き捨てるように言った。


「人格否定も甚だしいですな。設定通りの人物像に仕立て上げる為に、当人の全て・・を否定するとは・・・しかし陛下。今聞いた事が真実ならば、七彩どのにヒロインの脅威はありませんぞ」


 重々しく言ったのは宰相のホークスだ。それに同意するようにエルドリッジもまた頷いた。


「そうだね。オスやシル、ゼンたちが惑わされて婚約を破棄する事も起こり得ない。
 ・・・七彩どのの母親が、我が子をヒロインにする為に生まれてきた赤子の性別・・を偽ったという話が本当なら」







 そんな周囲からの声を耳にしながら。


 ジュヌヴィエーヌは、そういう事だったのかと思い出していた。


 自分よりもずっと高い身長、予想外に大きかった手をした彼女、いや、のことを―――











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