33 / 99
第四章 恋のつぼみ
少し、ざわつく
しおりを挟む「でも、今はジュジュさまもいるし、最後までここで頑張ってみるつもりよ」
淡々と話すエティエンヌの傍らで、オスニエルは何かを考え込む様に眉根を寄せた。
「今から学園ですか?」
翌朝、ジュヌヴィエーヌがルシアンを散歩に誘いに廊下を歩いていた時、制服を着たオスニエルと遭遇した。
オスニエルの持つ高貴で清廉な雰囲気は制服姿でも変わらない。
だが、王族の煌びやかな服の時より年相応に見える気がするから不思議なものだ。
「学園では制服を着用するという決まりは、アデラハイムもマルセリオも同じなのですね」
オスニエルの制服姿を、ジュヌヴィエーヌは少し眩しい気持ちで見上げた。
ジュヌヴィエーヌも一年だけだが、制服を着て学園に通っていた。
もっとも、あまり楽しい思い出はない。
入学してすぐに、ファビアンとマリアンヌの仲睦まじい姿を目撃した事もあるし、学生たちに浸透していた2人の真実の愛についての噂にも苦しめられたから。
「王族も学園に通う事は義務付けられているからな。ああ、それもマルセリオと同じだったか」
「そうですね」
「来年はエチが入学する」
「では兄妹で通えるのですね。楽しみですね」
「・・・そうだな」
首元のネクタイに手をやりながら、少し居心地悪そうにオスニエルが会話を続ける。
いつもならば挨拶だけで通り過ぎる筈が、今日は足を進める気配はない。
このまま話をしていると遅刻してしまうのでは、そう思い口を開こうとした時、オスニエルが先に言葉を発した。
「ゼンは、悪い奴じゃないんだ」
「ゼンさま・・・ですか?」
突然の話題の転換に、ジュヌヴィエーヌは、ぱちくりと目を瞬かせる。
「俺が勝手にあいつの気持ちを代弁する訳にはいかないから、これ以上は言えないが、あの頃のゼンにエチを傷つける意図はなかった。あいつはただ口下手で・・・」
口下手? 先日の茶会での様子を思い出しながら、ジュヌヴィエーヌは首を傾げる。
「あ、いや。少し違うな、ただ立ち回りが上手くなくて」
「・・・?」
「それも何か違う。そうだな、鈍感? 馬鹿? 頭は良いくせに肝心な所で阿呆? ああ、ぴったりの言葉が思い浮かばん」
散々な言われようだと思いつつ、額に手を当て考え込み始めたオスニエルを見て、時間は本当に大丈夫なのだろうか、といよいよ心配になった時、廊下の向こうから従者が彼を呼びに来た。
また後で説明するとオスニエルに言われ、状況がよく分からないまま、ジュヌヴィエーヌは曖昧に頷き、彼らを見送った。
その後、再びルシアンの部屋へと足を向ける。
ルシアンの部屋は、オスニエルやシルヴェスタと同じ、中央階段を挟んで東側にある。
反対に、ジュヌヴィエーヌやエティエンヌの部屋は階段を挟んで西側だ。
因みにエルドリッジの部屋も東側寄りではあるが中央階段に最も近く、部屋の広さもそうだが部屋数も一番多い。
元々は夫婦の部屋なのだから当然と言えば当然なのだが、主寝室の向こうにある妻の為の部屋、つまりかつて正妃が使っていた部屋は7年前から固く閉ざされ、掃除の時のみ開錠される。
それを城中の使用人たちが悲しく残念に思っている事も、側妃として嫁いだジュヌヴィエーヌが離れに住まないと聞いて皆が期待した事も、だが結局はエティエンヌの隣の部屋を与えられて皆が微妙にがっかりした事も、嫁いで半年が過ぎた今のジュヌヴィエーヌは知っている。
だから、なのだろうか。
ルシアンを誘いに行く時、エルドリッジの部屋の前を通り過ぎる。
その時、ジュヌヴィエーヌの心は少しだけざわつくのだ。
44
お気に入りに追加
1,675
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢を彼の側から見た話
下菊みこと
恋愛
本来悪役令嬢である彼女を溺愛しまくる彼のお話。
普段穏やかだが敵に回すと面倒くさいエリート男子による、溺愛甘々な御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
分厚いメガネを外した令嬢は美人?
しゃーりん
恋愛
極度の近視で分厚いメガネをかけている子爵令嬢のミーシャは家族から嫌われている。
学園にも行かせてもらえず、居場所がないミーシャは教会と孤児院に通うようになる。
そこで知り合ったおじいさんと仲良くなって、話をするのが楽しみになっていた。
しかし、おじいさんが急に来なくなって心配していたところにミーシャの縁談話がきた。
会えないまま嫁いだ先にいたのは病に倒れたおじいさんで…介護要員としての縁談だった?
この結婚をきっかけに、将来やりたいことを考え始める。
一人で寂しかったミーシャに、いつの間にか大切な人ができていくお話です。
貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!
Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。
転生前も寝たきりだったのに。
次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。
でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。
何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。
病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。
過去を克服し、二人の行く末は?
ハッピーエンド、結婚へ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる