私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

文字の大きさ
上 下
11 / 99
第二章 あなたは悪役令嬢でした

不思議な第一王女エティエンヌ

しおりを挟む



「あのね。ジュヌヴィエーヌ・ハイゼンは、『マルセリオに咲く美しき花』っていう小説に登場する公爵令嬢で―――」






その後の、エティエンヌのお喋りの勢いは凄かった。


ジュヌヴィエーヌが口を挟む間もないくらい矢継ぎ早に、いつ息継ぎをしているのかと心配になる程に、エティエンヌは話し続けた。


事細かく、詳細に、アデラハイム王国の王女である彼女が知る筈のない、マルセリオ王国についての話を。


王太子ファビアンと公爵令嬢ジュヌヴィエーヌとで結ばれた政略的な婚約。

王立学園で育まれたファビアンと男爵家の庶子マリアンヌとの恋。

2人の恋を応援する王太子の側近候補の名前や家名、将来の役職。

その側近候補たちが、応援という形を取りつつ、実は全員がマリアンヌに恋をしていたという、ジュヌヴィエーヌが知らなかった話まで。



・・・この方は、もしやマルセリオ王国に影を放っておられるのかしら?


あまりに詳細な情報に、ジュヌヴィエーヌは何と言葉を返せばよいか分からず、暫し言葉を失った。

しかも彼女は、これら全ては物語の中に書かれていた事だと言うのだ。





だが、驚くべき事はこれだけではなかった。


「本当はね、この先ジュジュはファビアン王太子の側妃にさせられちゃう筈だったの」

「・・・え?」


側妃、確かにジュヌヴィエーヌは側妃になっている。いや、なるのはこれから・・・それとも、国王とは会っているのだから、もうなったと言うべきか。


ジュヌヴィエーヌの思考は混乱し、やがて気づく。


違う。

エティエンヌは言ったではないか。ファビアン・・・・・の側妃にさせられるのだと。

エルドリッジではなく、ファビアンの。


「でも、どうして・・・」


問う意図はなく、ただぽつりと溢れた。


「だってファビアンさまは、真実の愛の相手であるマリアンヌさまを妃にするのだと仰ったのよ。だから私は・・・」

「そのマリアンヌの頭の出来が思っていた以上に悪かったからよ。妃教育も初期の初期で躓くの」

「そんな、まさか・・・」


エティエンヌの説明に、ジュヌヴィエーヌは言葉に詰まる。

確かに、マリアンヌは学園に編入した当時、授業について行けず困っていたらしいが、でも、それはファビアンがフォローしたと聞いている。

そしてきっと、そのフォローは、王城で妃教育が始まった後も続く筈。


「ところがどっこい、全然ダメだったのよ。結局2年経ってもろくに教育が進まず、でもファビアン王子がマリアンヌと結婚する意思は変わらなくて。
それで、ちょうどその年に学園を卒業するジュジュを側妃にする話が王家を中心に持ち上がるの。ジュジュにはもう、新しい婚約者がいたのにね。
ハイゼン公爵は反対するのだけれど、最終的には王命が出されて仕方なくって感じかしら」

「でも、そんな・・・そんなこと・・・」


どうして断言できるの?

だって2人はつい先日に卒業したばかりで、本格的に妃教育を受けるのは、まだこれから先の話で。

いくら影を使って調べたとしても、そんな先の予想をはっきりと口に出来る筈がない。


確かに―――そうなると言われて考えてみれば、起こり得る未来ではあるけれど。


けれど、そもそもその『マルセリオに咲く美しき花』とやらの物語がもし本当にあるのだとしたら、エティエンヌはその本をどこで読んだのだろうか。

そして、その話と今のこの状況とに、一体どんなつながりがあるというのか。



「・・・あの、エティエンヌさま」


彼女の話に疑問は尽きない程に湧き上がり、聞きたい事も山ほどあるけれど。


ジュヌヴィエーヌは取り敢えず、最も当たり障りのなさそうな質問を聞いてみる事にした。


「実際に私が側妃として嫁ぐ事になったのは、ファビアンさまではなく、エティエンヌさまのお父君、エルドリッジさまなのですが・・・」


すると、である。


「そう! そこなの! そこに持っていくのに、ものすご~く苦労したのよ!」


何故か、エティエンヌは目を輝かせてそう叫んだのだ。





しおりを挟む
感想 150

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に転生したら病気で寝たきりだった⁉︎完治したあとは、婚約者と一緒に村を復興します!

Y.Itoda
恋愛
目を覚ましたら、悪役令嬢だった。 転生前も寝たきりだったのに。 次から次へと聞かされる、かつての自分が犯した数々の悪事。受け止めきれなかった。 でも、そんなセリーナを見捨てなかった婚約者ライオネル。 何でも治癒できるという、魔法を探しに海底遺跡へと。 病気を克服した後は、二人で街の復興に尽力する。 過去を克服し、二人の行く末は? ハッピーエンド、結婚へ!

愛など初めからありませんが。

ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。 お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。 「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」 「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」 「……何を言っている?」 仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに? ✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。

〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です

hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。 夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。 自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。 すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。 訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。 円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・ しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・ はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

私のことを追い出したいらしいので、お望み通り出て行って差し上げますわ

榎夜
恋愛
私の婚約も勉強も、常に邪魔をしてくるおバカさんたちにはもうウンザリですの! 私は私で好き勝手やらせてもらうので、そちらもどうぞ自滅してくださいませ。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

王太子妃は離婚したい

凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。 だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。 ※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。 綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。 これまで応援いただき、本当にありがとうございました。 レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。 https://www.regina-books.com/extra/login

処理中です...