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第二章 あなたは悪役令嬢でした
不思議な第一王女エティエンヌ
しおりを挟む「あのね。ジュヌヴィエーヌ・ハイゼンは、『マルセリオに咲く美しき花』っていう小説に登場する公爵令嬢で―――」
その後の、エティエンヌのお喋りの勢いは凄かった。
ジュヌヴィエーヌが口を挟む間もないくらい矢継ぎ早に、いつ息継ぎをしているのかと心配になる程に、エティエンヌは話し続けた。
事細かく、詳細に、アデラハイム王国の王女である彼女が知る筈のない、マルセリオ王国についての話を。
王太子ファビアンと公爵令嬢ジュヌヴィエーヌとで結ばれた政略的な婚約。
王立学園で育まれたファビアンと男爵家の庶子マリアンヌとの恋。
2人の恋を応援する王太子の側近候補の名前や家名、将来の役職。
その側近候補たちが、応援という形を取りつつ、実は全員がマリアンヌに恋をしていたという、ジュヌヴィエーヌが知らなかった話まで。
・・・この方は、もしやマルセリオ王国に影を放っておられるのかしら?
あまりに詳細な情報に、ジュヌヴィエーヌは何と言葉を返せばよいか分からず、暫し言葉を失った。
しかも彼女は、これら全ては物語の中に書かれていた事だと言うのだ。
だが、驚くべき事はこれだけではなかった。
「本当はね、この先ジュジュはファビアン王太子の側妃にさせられちゃう筈だったの」
「・・・え?」
側妃、確かにジュヌヴィエーヌは側妃になっている。いや、なるのはこれから・・・それとも、国王とは会っているのだから、もうなったと言うべきか。
ジュヌヴィエーヌの思考は混乱し、やがて気づく。
違う。
エティエンヌは言ったではないか。ファビアンの側妃にさせられるのだと。
エルドリッジではなく、ファビアンの。
「でも、どうして・・・」
問う意図はなく、ただぽつりと溢れた。
「だってファビアンさまは、真実の愛の相手であるマリアンヌさまを妃にするのだと仰ったのよ。だから私は・・・」
「そのマリアンヌの頭の出来が思っていた以上に悪かったからよ。妃教育も初期の初期で躓くの」
「そんな、まさか・・・」
エティエンヌの説明に、ジュヌヴィエーヌは言葉に詰まる。
確かに、マリアンヌは学園に編入した当時、授業について行けず困っていたらしいが、でも、それはファビアンがフォローしたと聞いている。
そしてきっと、そのフォローは、王城で妃教育が始まった後も続く筈。
「ところがどっこい、全然ダメだったのよ。結局2年経ってもろくに教育が進まず、でもファビアン王子がマリアンヌと結婚する意思は変わらなくて。
それで、ちょうどその年に学園を卒業するジュジュを側妃にする話が王家を中心に持ち上がるの。ジュジュにはもう、新しい婚約者がいたのにね。
ハイゼン公爵は反対するのだけれど、最終的には王命が出されて仕方なくって感じかしら」
「でも、そんな・・・そんなこと・・・」
どうして断言できるの?
だって2人はつい先日に卒業したばかりで、本格的に妃教育を受けるのは、まだこれから先の話で。
いくら影を使って調べたとしても、そんな先の予想をはっきりと口に出来る筈がない。
確かに―――そうなると言われて考えてみれば、起こり得る未来ではあるけれど。
けれど、そもそもその『マルセリオに咲く美しき花』とやらの物語がもし本当にあるのだとしたら、エティエンヌはその本をどこで読んだのだろうか。
そして、その話と今のこの状況とに、一体どんなつながりがあるというのか。
「・・・あの、エティエンヌさま」
彼女の話に疑問は尽きない程に湧き上がり、聞きたい事も山ほどあるけれど。
ジュヌヴィエーヌは取り敢えず、最も当たり障りのなさそうな質問を聞いてみる事にした。
「実際に私が側妃として嫁ぐ事になったのは、ファビアンさまではなく、エティエンヌさまのお父君、エルドリッジさまなのですが・・・」
すると、である。
「そう! そこなの! そこに持っていくのに、ものすご~く苦労したのよ!」
何故か、エティエンヌは目を輝かせてそう叫んだのだ。
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