私に必要なのは恋の妙薬

冬馬亮

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第二章 あなたは悪役令嬢でした

いきなりのおめでとう

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エティエンヌに付いて渡り廊下を通り、別棟に入ってさらに奥。

暫く進めば王族専用の区画だろうか、入り口に護衛2人が立っているのが見えた。

護衛たちに何かを告げ、エティエンヌはジュヌヴィエーヌを連れてそこも通りすぎる。

そうしてやっと、ある扉の前で立ち止まった。


ジュヌヴィエーヌもまたつられて立ち止まる。

すると、扉に手をかけたエティエンヌは、どこか得意げな顔で一度振り返ったのだ。

その表情の意味は、扉を開けてすぐに知れた。





「まあ、なんて素敵・・・」


お世辞でも、社交辞令でもなく、ジュヌヴィエーヌの口から感嘆の言葉が溢れた。


柔らかいクリームイエローの壁に囲まれた部屋は十分な広さがあり、バルコニー付きの窓から明るい日差しが降り注いでいる。そよ風を受けて揺れているのは、真っ白なレースのカーテンだ。

天井には小型のシャンデリア、隣の寝室には可愛らしい天蓋付きのベッドが見えた。

小物類は全て白、家具は全て焦茶、デザインも全て統一されている。

可愛らしい雰囲気ながらも上品さを感じさせる部屋は、ジュヌヴィエーヌの好みによく合っている。というか、ぴったりだった。


「気に入っていただけた様で嬉しいですわ」


嬉しそうに部屋を見回すジュヌヴィエーヌを見たエティエンヌは、満足そうに頷くと次に扉近くに控えていた侍女を手招きした。


「ジュヌヴィエーヌさま付きの侍女、ノラです。ご用のある時はこの者に言いつけて下さいませね」


名を呼ばれて頭を下げたノラは、ジュヌヴィエーヌより少し年上だろうか、そばかすが素朴な印象を与える栗色の髪の侍女だ。


ジュヌヴィエーヌとノラが挨拶を交わしていると、別の侍女がお茶を乗せたワゴンを運んで来た。

どうやらエティエンヌ付きの侍女らしい。


「まずはゆっくりお茶でも飲みませんこと? わたくし、ジュヌヴィエーヌさまとお話しがしたいのです」


キラキラと輝く目でそう言われ、ジュヌヴィエーヌもまた素直に頷けば、エティエンヌ付きの侍女とノラが手際よくテーブルの上にお茶と菓子を置く。

するとエティエンヌは人払いを命じ―――



侍女たちが出て扉が閉まるなり、エティエンヌはジュヌヴィエーヌの手を握り、こう言ったのだ。


「ああ、『マル花』の悪役令嬢のジュジュにやっと会えたわ! ストーリーからの脱出おめでとう! もうこれで安心よ!」

「・・・?」


いきなりの口調の変化。

いきなりの話題転換。

態度もガラリと変わった上に、なによりも発された言葉全てに心当たりがなくて。


―――いや、確かにジュヌヴィエーヌは、親しい人たちから『ジュジュ』という愛称で呼ばれていたけれど。


でもこの場合、心当たりがないのはそこでなく。


「・・・あの?」



―――悪役令嬢? 

―――ストーリーからの脱出?

―――もう安心って・・・?




・・・まさか私のこと?


ジュヌヴィエーヌは、ぱちぱちと目を瞬かせつつ、浮かび上がる沢山の疑問に首を傾げた。










  
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