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第二章 あなたは悪役令嬢でした
その色は誰の色
しおりを挟むエルドリッジは、トパーズ色の瞳を柔らかく細め、緩く左右へ―――王子と王女へと視線を巡らせた。
「紹介しよう。私の子どもたち、右から第一王子のオスニエル、第一王女のエティエンヌ、第二王子のシルヴェスタ、そして第三王子のルシアンだ」
王の声に合わせ、それぞれが順に、短く挨拶の言葉を口にする。
続いて、エルドリッジはこの謁見の間に同席した家臣たちを紹介していく。
ジュヌヴィエーヌが想像した通り、宰相と並んで立っていた2人は大臣たちで、それぞれ内務と外務を担当しているという。
年配の侍従は、この王城の使用人たちを統括する侍従長。
そして、扉の陰に控えていた為ジュヌヴィエーヌは気づかなかったが、侍女長もいた様だ。
「それで・・・ジュヌヴィエーヌ嬢」
全員の紹介を終え、エルドリッジの視線がジュヌヴィエーヌに向かう。
新たに迎える妻に対してというよりはむしろ、父が娘を見るかの様な優しい眼差しに、ジュヌヴィエーヌは少しの戸惑いを覚える。
「今日の顔合わせはこれくらいにして、少し部屋に戻って旅の疲れを取るといい」
緊張の面持ちでいると、意外にも退出を勧める言葉が出され、ジュヌヴィエーヌは目を瞬かせた。
・・・これで終わり?
だって、まだ国王家族と廷臣数名に、挨拶と自己紹介程度の言葉を交わしただけだ。
しかも兄のバーソロミューは、この場に残って王たちと話をするという。
どういうことかと不安になり、思わず隣の兄を見上げれば、大丈夫だとただ肩を軽く叩かれる。
「エティエンヌに君の部屋まで案内させよう。君に付く専属侍女もエチが紹介してくれる。夕食の時間までゆっくり過ごしなさい」
気遣われているような、蚊帳の外に置かれているような。
けれど、第一王女が微笑みを浮かべてこちらに向かって来るのを見れば、素直に応じるしかないと頷いた。
「ジュヌヴィエーヌさま、こちらですわ。どうぞ付いていらして」
フレアレッドの髪にグレーの瞳の王女は、確か14歳。
ジュヌヴィエーヌよりも少し年下だが、しっかり者に見える。
少し吊り上がった目からは彼女の気の強さを窺わせるが、その視線にジュヌヴィエーヌへの敵意はなさそうだ。
ジュヌヴィエーヌは退出の礼をし、エティエンヌに続いて謁見の間を後にした。
そして、廊下を歩きながら―――エティエンヌの背を追いながら、ふと思ったのだ。
彼女の父エルドリッジは、ダークグリーンの髪とトパーズ色の眼。
王女エティエンヌが、そのどちらの色も持っていないのは―――
そう、ただ何とはなしに、ふと思っただけ。
けれど、第一王子の眼や第二王子の髪にその色があるのを思い出せば、ああ、とジュヌヴィエーヌはすぐ正しい結論に到達する。
亡くなられた正妃さまのお色なのね―――
エルドリッジ国王に、自分よりも前の、妻と呼ばれる方がおられたのは当たり前で、自分だって分かっていた事なのに。
『まがいもの』にならない為に魔女にまで会いに行った筈。
なのに呑気にも、そのひとを―――国王がかつて愛した女性を―――その名残りがあちこちに散らばっている事実を、忘れていたなんて。
ジュヌヴィエーヌは自嘲めいた笑みを浮かべ、王女の背を追った。
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