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帰還
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アユールたちが屋敷に戻って来たのは、その日の夜遅くだった。
『飛んだ』にも関わらず、帰りがこの時間帯になったということは、探し物は難航したのだろう、そう思ったサーヤたちは、ただにこやかに出迎えることにした。
だけど。
「洞窟、ですか?」
「ああ」
「サルマンの敷地に?」
「そうだ」
水浴びをして、濡れた髪を乾かしながら、アユールは今日の成果を簡単に説明した。
「ふわあああ・・・。洞窟の奥に巨大な月光石があったなんて、そんなことが・・・」
「かなりのサイズだ。あれだけの大きさのものは見たことがないな」
「へえ、それ程のものが」
クルテルも、最近魔法について学び始めたばかりのサイラスも、その大発見に吃驚している。
「何はともあれ、前進ですよ。あの石の発見は」
「ざっと調べたところ、『亡失』魔法をかけた時にサルマンがあの石を能力の底上げとして使用したのは間違いない。奪われた機能も全て、そこに封じ込められている筈だ」
「つまり・・・後は返してもらうだけ、ということですね」
「そういうことだ」
アユールとカーマインが揃ってにやりと笑う。
「随分と待たせたが、もうすぐだ。楽しみにしてろよ」
ぽん、とサーヤの頭に手を乗せて、アユールが笑う。
それをサーヤは満面の笑みで受け止める。
「お前らも、せいぜい期待を高めとけよ? サーヤの声はとてつもなく可愛いからな?」
「それはそうでしょうけどね、なんか師匠に言われると腹が立ちます」
「あはは、クルテルくん、その気持ち、僕もちょっと分かりますよ」
「何でだよ」
クルテルとサイラスが妙なプライドを見せていると、横からレーナが口を挟む。
「いいなあ、ずるいなあ。アユールさんはサーヤの声がどんななのか、もう知ってるのよね」
「まあ、そりゃな。毎晩、夢の中で聞いてるからな。自慢じゃないが、無茶苦茶愛らしい声だぞ」
「ふふ、そうなんだ。それは楽しみね。声が戻ったら一番に聞かせてね、サーヤ」
そう言って、嬉しそうにサーヤの頭を撫でる。
サーヤも何だか照れくさそうだ。
そこにランドルフが会話に加わる。
「あの、アユールさま。我が主の視力も取り戻せると、仰ってましたが」
「ああ、その筈だ」
その言葉に、ランドルフは安堵の笑みを浮かべる。
「それは良うございました。これで我が主の念願が叶うというもの」
「念願?」
「私の念願? 何だ、それは?」
「主の愛しい方のお顔を、再びその眼で見ることにございます」
さらりと言ってのけた。
やはり、当人でないと軽く言えてしまうものなのか。
そして、やはり当人にとっては、どうしても恥ずかしいものなのか。
「いっ! いと、いと、愛しいっ? ランドルフ、お前、何を馬鹿な事を言っている?」
「馬鹿な事などではございません。大事なことにございますよ、我が主」
「馬鹿な事だっ! 適当にものを言うのは止めろっ! 私に愛しい人などいる訳が・・・・」
「いる訳が?」
「な、ない・・・だろう、が・・・」
「ないんだ」
「ないんですか」
「今更、ないって、叔父貴・・・」
もにょもにょと呟くばかりになってしまったカーマインの情けない姿に、周囲から呆れの籠った視線が投げかけられる。
「ねぇ、ランドルフ。カーマインには愛しい人っているのかしら?」
答えを知ってて態と聞いてくる人物がここに一人。
「ランドルフはそのように思っております」
そして、しらっと答える人物がここにもう一人。
「ふぅん、そうなんだ。いいな、その人。カーマインにそんなに想ってもらえるなんて羨ましいわ」
「レ、レーナ?」
「私なんて・・・どれだけお願いしてもカーマインに振り向いてももらえないし・・・」
どうやら、久しぶりに三文芝居を再開するらしい。
「レ、レーナ。それは誤解です。振り向くも何も・・・私にとって貴女は女神の如く崇高な存在で、愛情の対象にするなど烏滸がましいにも程がありますので・・・その、そもそも振り向く事自体が不可能な話なのです」
「・・・それは、カーマインは私のことを愛しいとは思えないってこと?」
「そ、それは・・・」
部屋に集まっていた全員からの無言の圧、もとい温かい視線がカーマインに降り注いだ。
(アユール)ここで否定したら、流石のレーナでも怒るぞ?
(ランドルフ)正念場でございます。我が主。
(クルテル)もういい加減、まとまってくれませんかね。
(サイラス)頑張れ、カーマインさん。
(サーヤ)お願い。母さんを幸せに出来るの、カーマインさんしかいないんだよ?
三者三様、十人十色。
それぞれの思っていることは違えど、カーマインとレーナの行く末を案じ、応援している事だけは確かで。
「思えない・・・訳が、ないではないですか・・・」
小さな声で、カーマインがぽそりと呟く。
いやいやいや、今の言い方、分かりにくい(です)よ?
全員の心の声は一致していた。
雰囲気を壊したくないから、口には出さないけれども。
「・・・それは、つまり・・・?」
レーナがダメ押しで聞き返す。
ここまで来て誤魔化すのは流石に駄目だ。
それくらいカーマインでも分かるだろう。
分かる、筈。
分かる、よな(ね)?
皆が、祈るような気持ちで見守る中、照れ隠しなのか、眉をぎゅっと寄せたカーマインが再び口を開いた。
「た、大変・・・、いと、愛しいと・・・思って、おります・・・」
たった一言。
そのたった一言を。
ようやく、ようやく、口に出せたカーマインに向かって、周囲からわぁっと歓声が沸き起こる。
サーヤはレーナに抱きついた。
ランドルフは目頭を抑えて。
クルテルとサイラスは、手を取り合って喜んでいる。
「やっとかよ。最初から好き同士だってのに、よくもまあこんだけ時間をかけたもんだ」
そんな文句を口にしつつも、アユールの口元は嬉しそうに綻んでいた。
『飛んだ』にも関わらず、帰りがこの時間帯になったということは、探し物は難航したのだろう、そう思ったサーヤたちは、ただにこやかに出迎えることにした。
だけど。
「洞窟、ですか?」
「ああ」
「サルマンの敷地に?」
「そうだ」
水浴びをして、濡れた髪を乾かしながら、アユールは今日の成果を簡単に説明した。
「ふわあああ・・・。洞窟の奥に巨大な月光石があったなんて、そんなことが・・・」
「かなりのサイズだ。あれだけの大きさのものは見たことがないな」
「へえ、それ程のものが」
クルテルも、最近魔法について学び始めたばかりのサイラスも、その大発見に吃驚している。
「何はともあれ、前進ですよ。あの石の発見は」
「ざっと調べたところ、『亡失』魔法をかけた時にサルマンがあの石を能力の底上げとして使用したのは間違いない。奪われた機能も全て、そこに封じ込められている筈だ」
「つまり・・・後は返してもらうだけ、ということですね」
「そういうことだ」
アユールとカーマインが揃ってにやりと笑う。
「随分と待たせたが、もうすぐだ。楽しみにしてろよ」
ぽん、とサーヤの頭に手を乗せて、アユールが笑う。
それをサーヤは満面の笑みで受け止める。
「お前らも、せいぜい期待を高めとけよ? サーヤの声はとてつもなく可愛いからな?」
「それはそうでしょうけどね、なんか師匠に言われると腹が立ちます」
「あはは、クルテルくん、その気持ち、僕もちょっと分かりますよ」
「何でだよ」
クルテルとサイラスが妙なプライドを見せていると、横からレーナが口を挟む。
「いいなあ、ずるいなあ。アユールさんはサーヤの声がどんななのか、もう知ってるのよね」
「まあ、そりゃな。毎晩、夢の中で聞いてるからな。自慢じゃないが、無茶苦茶愛らしい声だぞ」
「ふふ、そうなんだ。それは楽しみね。声が戻ったら一番に聞かせてね、サーヤ」
そう言って、嬉しそうにサーヤの頭を撫でる。
サーヤも何だか照れくさそうだ。
そこにランドルフが会話に加わる。
「あの、アユールさま。我が主の視力も取り戻せると、仰ってましたが」
「ああ、その筈だ」
その言葉に、ランドルフは安堵の笑みを浮かべる。
「それは良うございました。これで我が主の念願が叶うというもの」
「念願?」
「私の念願? 何だ、それは?」
「主の愛しい方のお顔を、再びその眼で見ることにございます」
さらりと言ってのけた。
やはり、当人でないと軽く言えてしまうものなのか。
そして、やはり当人にとっては、どうしても恥ずかしいものなのか。
「いっ! いと、いと、愛しいっ? ランドルフ、お前、何を馬鹿な事を言っている?」
「馬鹿な事などではございません。大事なことにございますよ、我が主」
「馬鹿な事だっ! 適当にものを言うのは止めろっ! 私に愛しい人などいる訳が・・・・」
「いる訳が?」
「な、ない・・・だろう、が・・・」
「ないんだ」
「ないんですか」
「今更、ないって、叔父貴・・・」
もにょもにょと呟くばかりになってしまったカーマインの情けない姿に、周囲から呆れの籠った視線が投げかけられる。
「ねぇ、ランドルフ。カーマインには愛しい人っているのかしら?」
答えを知ってて態と聞いてくる人物がここに一人。
「ランドルフはそのように思っております」
そして、しらっと答える人物がここにもう一人。
「ふぅん、そうなんだ。いいな、その人。カーマインにそんなに想ってもらえるなんて羨ましいわ」
「レ、レーナ?」
「私なんて・・・どれだけお願いしてもカーマインに振り向いてももらえないし・・・」
どうやら、久しぶりに三文芝居を再開するらしい。
「レ、レーナ。それは誤解です。振り向くも何も・・・私にとって貴女は女神の如く崇高な存在で、愛情の対象にするなど烏滸がましいにも程がありますので・・・その、そもそも振り向く事自体が不可能な話なのです」
「・・・それは、カーマインは私のことを愛しいとは思えないってこと?」
「そ、それは・・・」
部屋に集まっていた全員からの無言の圧、もとい温かい視線がカーマインに降り注いだ。
(アユール)ここで否定したら、流石のレーナでも怒るぞ?
(ランドルフ)正念場でございます。我が主。
(クルテル)もういい加減、まとまってくれませんかね。
(サイラス)頑張れ、カーマインさん。
(サーヤ)お願い。母さんを幸せに出来るの、カーマインさんしかいないんだよ?
三者三様、十人十色。
それぞれの思っていることは違えど、カーマインとレーナの行く末を案じ、応援している事だけは確かで。
「思えない・・・訳が、ないではないですか・・・」
小さな声で、カーマインがぽそりと呟く。
いやいやいや、今の言い方、分かりにくい(です)よ?
全員の心の声は一致していた。
雰囲気を壊したくないから、口には出さないけれども。
「・・・それは、つまり・・・?」
レーナがダメ押しで聞き返す。
ここまで来て誤魔化すのは流石に駄目だ。
それくらいカーマインでも分かるだろう。
分かる、筈。
分かる、よな(ね)?
皆が、祈るような気持ちで見守る中、照れ隠しなのか、眉をぎゅっと寄せたカーマインが再び口を開いた。
「た、大変・・・、いと、愛しいと・・・思って、おります・・・」
たった一言。
そのたった一言を。
ようやく、ようやく、口に出せたカーマインに向かって、周囲からわぁっと歓声が沸き起こる。
サーヤはレーナに抱きついた。
ランドルフは目頭を抑えて。
クルテルとサイラスは、手を取り合って喜んでいる。
「やっとかよ。最初から好き同士だってのに、よくもまあこんだけ時間をかけたもんだ」
そんな文句を口にしつつも、アユールの口元は嬉しそうに綻んでいた。
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