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お帰り、サイラス
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光と共にマハナイムの地に飛んだ瞬間、サイラスは待ち構えていたクルテルたちにもみくちゃにされた。
「サイラスくんっ。逃げられたのね」
「うわぁ、すごい怪我じゃないですか」
「み、みなさん・・・」
「あー、サーヤさんが泣きそうです」
「こら、サーヤ。そんなに引っ付くな」
「でも、良かったわ、もう会えないかと心配してたの」
「本当ですね。お帰りなさい、サイラスさん」
「ああ、ようやく帰れたな」
「そうね。お帰り、サイラスくん」
「え・・・」
サイラスは、少し戸惑って。
それから、もじもじと。
「あ、ええと・・・。た、ただい、ま・・・」
ちょっとだけ顔が赤い。
その時、わやくちゃになっている現場に、ぱんぱんと手を叩く音が響いて。
振り向くと、邸の入り口にカーマインが立っていた。
「怪我人をずっと立たせておくものではない。・・・ランドルフ」
「はい」
主人に呼ばれ、すっと前に進み出たランドルフは、サイラスに優しく微笑みかけた。
「お疲れでしょう。私は従者のランドルフです。まずは傷の手当てをしましょうね。どうぞこちらへ」
「は、はい・・・。ありがとう・・ございます。・・・ランドルフさん」
親切にされることに不慣れなのだろう。
おずおずと返事をして、ランドルフの後ろを黙ってついて行った。
「薬草とかも必要かしら」
「本当に、とんでもない性格のご主人さまですね」
「おい、サーヤ。いい加減に泣き止め」
ぶつぶつと文句を言いながら、アユールたちも、ぞろぞろとその後を付いていく。
カーマインが大きくため息を吐きながら、ぼそりと、しばらくは煩くなりそうだな、と呟いた。
「大丈夫ですか? 少し我慢してくださいね?」
「・・・大丈夫、です」
服を脱ぐだけでも痛そうだったサイラスの体は、あちこち傷だらけで、ひどい痣も出来ていた。
「治癒魔法を使うにしても、こんなに体全体が傷だらけでは少し時間がかかりそうですね」
ランドルフは、少しだけ考えてから、テキパキと指示を出し始めた。
「クルテルさん、サイラスくんが着られるような服を貸してもらえませんか? サーヤさまとレーナさま、申し訳ありませんが、お茶と軽食を用意していただいても? サイラスくんは、どうやらずっと何も口にしていないようですので」
「は、はい」
「アユールさまも、私と一緒に治癒魔法をかけていただいてもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ」
ぐるりとサイラスを囲んでいたみんなが、パタパタと動き始めた。
「ちゆ・・・まほう」
これまで魔法を目の当たりにする機会などなかったであろうサイラスは、目をぱちぱちさせている。
「さあ、では始めましょうか。アユールさまは、体の左側からお願いします」
「ああ、わかった。サイラス、すぐ楽になるからな」
そう言うと、ふたりはサイラスの両側にそれぞれ座り、ランドルフは右側から、アユールは左側から、両手をかざして小声で治癒呪文を唱えた。
淡く柔らかい光が掌から輝き始めて、サイラスの傷部分を照らす。
「・・・わぁ、なんだか温かい・・・」
気持ち良さそうな声が聞こえる。
光の当たった部分から、ひとつずつ傷が消えていく。
二人がかりで全身の傷や痣をひとつ残らず治し終わると、サイラスは不思議そうに自分の体をあちこち眺めて。
「凄い・・・!」
心の底から感心したように呟いた。
クルテルの用意した服を着て、サーヤたちの用意した軽食を口にすると、これまでの疲れが出たのか、少し眠たそうにしていて。
「お前、船を漕いでるぞ。ランドルフに寝床を用意するように言ってあるから、そろそろ休むといい」
「は・・・い」
目を擦りながら返事をしつつも、立ち上がる気配がない。
「サイラス?」
「アユールさん・・・」
「どうした、歩けないのか?」
その言葉に首を横に振る。
どうやら話したいことがあるらしい。
「・・・今日は、吃驚すること・・・ばかりの一日・・でした。アユールさんが、出した・・あの大岩も凄くて、いきなり・・違う場所に移動した・・のにも驚いて・・僕の体が・・あっという間に、治ってしまって。本当に、魔法ってすごいなぁって・・・」
「話は明日の朝に聞くよ。お前、もう瞼がくっつきそうだぞ」
「あ・・・。それじゃあ、あとひとつだけ・・・」
「うん?」
そう言うと、サイラスは椅子から立ち上がり、その場のみんなに向かって、ぺこりと頭を下げた。
「・・・ありがとう、ございました。僕を・・・助けてくれて。・・・あの屋敷か、ら・・・連れ出して・・・くれ、て・・・」
サイラスは、頭をそのまま頭を上げようとしない。
その足元に、ぽつり、と滴が落ちる。
「嬉し・・かった、です」
「・・・まったく。また嬉し泣きか? サイラス」
「う・・・。だって・・・」
ごしごしと目を擦りながら口籠る。
アユールは、眉尻を下げて、サイラスの頭をわしゃわしゃと掻きまぜた。
「感動のシーンの最中に水を差すようで申し訳ないが、君は明日からもずっとここで暮らすのだ。話の続きは明日にしたらどうだ」
「・・・え?」
ついさっきまで、くっつきそうなくらいに重たげだった瞼が、驚いてぱちりと大きく見開いた。
「ずっと、ここで・・・?」
その言葉に、サイラスだけでなく、レーナやクルテルたちも驚いて、みなが声の主を一斉に振り返った。
「ランドルフが従者見習いを欲しがっている。君にやってもらうのはどうかと、思っているのだが」
「・・・!」
「そうだったな? ランドルフ」
カーマインは、自らの背後に控える忠実な従者に問いかけた。
ランドルフの表情は、ひどく嬉しそうで。
「・・・はい、そうでしたね。サイラスくんのような素直な子が見習いとして来てくれると、私も大変助かります」
「・・・だそうだ。どうかな? サイラス」
「・・・」
「サイラス?」
「・・・ありが、とう・・・ございます」
サイラスが拳で目元をぐっと抑える。
懸命に堪えようとしても、目元からどんどん溢れ出てくるそれは。
サイラスの流した、本日三度目の嬉し涙だった。
「サイラスくんっ。逃げられたのね」
「うわぁ、すごい怪我じゃないですか」
「み、みなさん・・・」
「あー、サーヤさんが泣きそうです」
「こら、サーヤ。そんなに引っ付くな」
「でも、良かったわ、もう会えないかと心配してたの」
「本当ですね。お帰りなさい、サイラスさん」
「ああ、ようやく帰れたな」
「そうね。お帰り、サイラスくん」
「え・・・」
サイラスは、少し戸惑って。
それから、もじもじと。
「あ、ええと・・・。た、ただい、ま・・・」
ちょっとだけ顔が赤い。
その時、わやくちゃになっている現場に、ぱんぱんと手を叩く音が響いて。
振り向くと、邸の入り口にカーマインが立っていた。
「怪我人をずっと立たせておくものではない。・・・ランドルフ」
「はい」
主人に呼ばれ、すっと前に進み出たランドルフは、サイラスに優しく微笑みかけた。
「お疲れでしょう。私は従者のランドルフです。まずは傷の手当てをしましょうね。どうぞこちらへ」
「は、はい・・・。ありがとう・・ございます。・・・ランドルフさん」
親切にされることに不慣れなのだろう。
おずおずと返事をして、ランドルフの後ろを黙ってついて行った。
「薬草とかも必要かしら」
「本当に、とんでもない性格のご主人さまですね」
「おい、サーヤ。いい加減に泣き止め」
ぶつぶつと文句を言いながら、アユールたちも、ぞろぞろとその後を付いていく。
カーマインが大きくため息を吐きながら、ぼそりと、しばらくは煩くなりそうだな、と呟いた。
「大丈夫ですか? 少し我慢してくださいね?」
「・・・大丈夫、です」
服を脱ぐだけでも痛そうだったサイラスの体は、あちこち傷だらけで、ひどい痣も出来ていた。
「治癒魔法を使うにしても、こんなに体全体が傷だらけでは少し時間がかかりそうですね」
ランドルフは、少しだけ考えてから、テキパキと指示を出し始めた。
「クルテルさん、サイラスくんが着られるような服を貸してもらえませんか? サーヤさまとレーナさま、申し訳ありませんが、お茶と軽食を用意していただいても? サイラスくんは、どうやらずっと何も口にしていないようですので」
「は、はい」
「アユールさまも、私と一緒に治癒魔法をかけていただいてもよろしいですか?」
「ああ、もちろんだ」
ぐるりとサイラスを囲んでいたみんなが、パタパタと動き始めた。
「ちゆ・・・まほう」
これまで魔法を目の当たりにする機会などなかったであろうサイラスは、目をぱちぱちさせている。
「さあ、では始めましょうか。アユールさまは、体の左側からお願いします」
「ああ、わかった。サイラス、すぐ楽になるからな」
そう言うと、ふたりはサイラスの両側にそれぞれ座り、ランドルフは右側から、アユールは左側から、両手をかざして小声で治癒呪文を唱えた。
淡く柔らかい光が掌から輝き始めて、サイラスの傷部分を照らす。
「・・・わぁ、なんだか温かい・・・」
気持ち良さそうな声が聞こえる。
光の当たった部分から、ひとつずつ傷が消えていく。
二人がかりで全身の傷や痣をひとつ残らず治し終わると、サイラスは不思議そうに自分の体をあちこち眺めて。
「凄い・・・!」
心の底から感心したように呟いた。
クルテルの用意した服を着て、サーヤたちの用意した軽食を口にすると、これまでの疲れが出たのか、少し眠たそうにしていて。
「お前、船を漕いでるぞ。ランドルフに寝床を用意するように言ってあるから、そろそろ休むといい」
「は・・・い」
目を擦りながら返事をしつつも、立ち上がる気配がない。
「サイラス?」
「アユールさん・・・」
「どうした、歩けないのか?」
その言葉に首を横に振る。
どうやら話したいことがあるらしい。
「・・・今日は、吃驚すること・・・ばかりの一日・・でした。アユールさんが、出した・・あの大岩も凄くて、いきなり・・違う場所に移動した・・のにも驚いて・・僕の体が・・あっという間に、治ってしまって。本当に、魔法ってすごいなぁって・・・」
「話は明日の朝に聞くよ。お前、もう瞼がくっつきそうだぞ」
「あ・・・。それじゃあ、あとひとつだけ・・・」
「うん?」
そう言うと、サイラスは椅子から立ち上がり、その場のみんなに向かって、ぺこりと頭を下げた。
「・・・ありがとう、ございました。僕を・・・助けてくれて。・・・あの屋敷か、ら・・・連れ出して・・・くれ、て・・・」
サイラスは、頭をそのまま頭を上げようとしない。
その足元に、ぽつり、と滴が落ちる。
「嬉し・・かった、です」
「・・・まったく。また嬉し泣きか? サイラス」
「う・・・。だって・・・」
ごしごしと目を擦りながら口籠る。
アユールは、眉尻を下げて、サイラスの頭をわしゃわしゃと掻きまぜた。
「感動のシーンの最中に水を差すようで申し訳ないが、君は明日からもずっとここで暮らすのだ。話の続きは明日にしたらどうだ」
「・・・え?」
ついさっきまで、くっつきそうなくらいに重たげだった瞼が、驚いてぱちりと大きく見開いた。
「ずっと、ここで・・・?」
その言葉に、サイラスだけでなく、レーナやクルテルたちも驚いて、みなが声の主を一斉に振り返った。
「ランドルフが従者見習いを欲しがっている。君にやってもらうのはどうかと、思っているのだが」
「・・・!」
「そうだったな? ランドルフ」
カーマインは、自らの背後に控える忠実な従者に問いかけた。
ランドルフの表情は、ひどく嬉しそうで。
「・・・はい、そうでしたね。サイラスくんのような素直な子が見習いとして来てくれると、私も大変助かります」
「・・・だそうだ。どうかな? サイラス」
「・・・」
「サイラス?」
「・・・ありが、とう・・・ございます」
サイラスが拳で目元をぐっと抑える。
懸命に堪えようとしても、目元からどんどん溢れ出てくるそれは。
サイラスの流した、本日三度目の嬉し涙だった。
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